なぜ「相続に強い税理士」が必要なのか
税理士にも専門分野がある
税理士は税のエキスパート。でも、「税」にもいろいろなものがあります。1人の税理士がそのすべてを熟知して、それぞれの案件に対応している(対応できる)わけではありません。弁護士に、刑事、民事、企業法務、国際法務といった専門分野があるのと同じことです。
税理士の関わる専門分野は、大まかに法人(法人税、事業税、消費税など)と、個人(所得税、資産税、相続税など)に分かれます。実際には、法人の顧問税理士が社長の相続を担当したり、あるいは会計事務所が法人と個人の部門を持っていたりすることもありますが、基本的には「法人税」や「所得税」と、「資産税」「相続税」は別の世界。毎年の税務申告をベースに仕事をしている税理士は、相続税などほとんど勉強したこともない、といったことが珍しくありません。
実は、世の中にはそうした「相続税に詳しくない税理士」が意外と多いのです。相続を経験したことがある税理士は、皆さんが思っているよりも少ないという事実を、まずは知って欲しいと思います。
相続専門の税理士と一般税理士の違い
相続専門の税理士は、日常的に相続税申告案件を取り扱い、財産評価や特例適用、遺産分割協議のサポートなど、相続特有の実務に精通しています。これに対し、一般税理士は法人税や所得税など、日々の会計処理や年次申告を主な業務領域としており、相続に関する深い知見や実績が必ずしもあるとは限りません。
具体的には、相続専門の税理士は最新の税法改正や判例、特例措置に日頃からアンテナを張り、より有利な条件で申告を行うための提案力を備えています。また、不動産鑑定士や弁護士など他士業との連携が密なケースも多く、複雑な財産評価や分割交渉を総合的にサポートすることが可能です。その結果、申告漏れや過大な納税といったトラブルを回避し、ご家族が円満に相続を完了できる可能性が高まります。
相続に強い税理士とは?
相続税の専門である
今まで説明してきた通り、相続税は申告の仕方により支払う税額が大きく変わります。税務調査の対象になりやすいこともあり、税理士が関わっていながら“払い過ぎ”の事例が多い、難しい税金でもあるのです。そうである以上、「相続についての知識と経験を蓄積したスペシャリストである税理士」と、例えば「会社の顧問などをしながら相続にも対応するというスタンスの税理士」とでは、差が出て当然といえるでしょう。
税理士事務所に関しては、相続税に専門特化しているか、あるいは相続専門の部署を持っているかが、1つの選択基準になるでしょう。
相続の申告実績が豊富
節税の鍵を握る「財産評価」では、知識もさることながら経験と実績が重要な意味を持ちます。例えば、ひとくちに土地といっても、さまざまな立地や形状のものがあります。税理士が過去に数多くの申告を行い、経験を蓄積していれば、それだけ適切な評価をしてもらえる可能性は高まるでしょう。その点で自信のある事務所は、年間(累計)の相続税申告数、税の還付件数や金額、具体的な事例といった実績を、ホームページで堂々と公表していたりするはずです。
ただし、注意点が1つあります。どんなに実績のある事務所でも、担当税理士の経験が浅くては「相続に詳しい」とは言えません。担当してくれる税理士個人にどれくらいの実務経験があるのかは、きちんと確かめる必要があります。
担当となる人が税理士資格を保有している
特に大手の事務所や税理士法人の場合は「税理士資格を持たないスタッフ」が担当につくこともあります。知識や経験の深さは必ずしも資格の有無とリンクはしませんが、相続という重要な業務を任せるのはやはり不安になります。また、仮に申告後に税務調査になったような場合、無資格のスタッフでは税務署に対応できません。この点も契約前に確認が必要です。
相続の中でも特化している分野がある
相続にもさまざまな形があり、実はニーズに合わせた事務所の専門特化も進んでいます。土地などの不動産が相続財産の多くを占めるような場合には、「不動産の相続に詳しい税理士」がいます。また、経営している会社を相続させる(自社株を渡す)場合、やり方を間違えると経営自体が危うくなるような状況も起こり得るため、「自社株の相続に詳しい税理士」に依頼すべきでしょう。このように、自らの強みを明確にしている税理士は、信頼が置けます。
税務調査の実施率が低い
税務署側もコストと時間をかけて税務調査に入るわけですので、“確実に追徴できる案件”をターゲットにします。その判断基準の1つが、「どの税理士が申告したのか」だといわれています。平たく言えば、「この税理士(事務所)が申告書を作成したのなら、調査に入っても無駄だろう」というバリアになる…ということです。この税務調査率についても、ホームページなどで公開している事務所もあります。
二次相続の提案がある
後述のメリット紹介でも触れるように、一次相続の際に二次相続まで含めた提案をする税理士は、納税者のことをよく考えてくれているプロだといえるでしょう。
相続人の不安に寄り添ってくれる
「税金が思いのほか高額になったらどうしよう」「税務調査は大丈夫か」など、相続人の不安は尽きません。技術面のフォローに加えて、そうした依頼人の気持ちに寄り添うことができる税理士かどうかも大事なポイントです。相続税については、正式な契約の前に事前に相談に乗ってくれる事務所も多いので、そうした場も活用して確かめてみるのがおすすめです。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
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「相続」は一生のうちに一度ないし二度経験するかどうかの出来事ですので、手続きを行う相続人等にとっては初めてのことばかりで何からどうすれば良いのか分からなくて当然です。
これは依頼を受ける税理士にとっても同じで、自ら積極的に相続案件に携わろうとしなければ複雑な財産評価や相続税申告の実務経験を数多く積むことはできません。
その意味で、相続税の専門で申告実績が豊富な事務所を選ぶことはもちろんですが、事務所の規模や法人・個人の形態を問わず実際に担当する税理士がこれまでどの程度相続案件に関与してきたかがとても重要です。 - 松井 信行 公認会計士・税理士事務所
所長 松井 信行
相続に強い税理士を選ぶメリット
メリット①申告作業の時間や手間を省ける
相続税の計算は、「相続した財産の金額に税率を掛ける」といった単純なものではありません。申告書の作成にも非常に手間がかかります。財産の評価をどうするかという難問もあります。税理士にそれらを依頼することで、作業に費やす時間も手間も省くことができます。
メリット②適切な節税が期待できる
当たり前のことですが、節税のためには税金や税制についての深い知識が必要です。様々な事例に対応してきた経験も、ものをいいます。財産の評価や特例の使い方などにより納税額に差の出る「相続税」に関しては、税理士に依頼することに大きなメリットがあると言えるでしょう。
メリット③申告ミスを防ぐことができる
申告にミスがあると、払う必要のない税金を支払うことになったり、逆に申告漏れを指摘されてペナルティの対象になったりすることがあります。労力をかけたのに残念な結果になってしまうことは、実は少なくありません。税理士に依頼すれば、正確な財産評価も含めて、ミスのない申告が行えます。
メリット④“争族”にならないようにフォローしてもらえる
「税理士は遺産分割協議の争いに介入できない」という原則ですが、相続人みんなが納得できる節税対策(遺産分割の仕方)を提示することなどにより、争いを未然に防ぐことは可能です。税理士は、誰か1人の代理人となる弁護士と違い、第3者として相続全体に関与できるのです。
メリット⑤税務調査に立ち会ってもらえる
相続税は、申告後の税務調査(※)の多い税目でもあります。税理士に調査に立ち会ってもらうことで、調査官の言いなりに追徴されるといったリスクを避けることができるでしょう。
※税務調査:国税局や税務署が、納税者の税務申告が正しいかどうかをチェックするために行う調査。税務署が行う任意調査と、国税局査察部が行う強制調査がある。
メリット⑥二次相続まで見据えた節税ができる
一次相続では、「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」が使えます。この配偶者控除は、相続財産の「1億6,000万円まで」と「自分の法定相続分」のいずれか高いほうまで“無税”で相続できるという制度です。
ここでつい「できるだけ母親に相続してもらって、税金を下げよう」ということになりがちです。しかし、そうやって母親が相続した財産を、二次相続では子どもが引き継ぐことになり、そこで高額の相続税が発生します。トータルで考えると、一次相続の際に、ある程度子どもに相続したほうが有利なケースも多く、節税のためには先を見通した戦略・シミュレーションが必要になるのです。相続財産が多額の場合には、やはり専門家に相談すべきでしょう。
相続に強い税理士に依頼した場合の費用・報酬
税理士に相続税の申告を依頼する場合、どのくらいの費用がかかるのでしょうか?
税理士に支払う報酬は、(1)「基本報酬」+(2)「加算報酬」の“2階建て”となっているのが普通です。
(1)相続財産額によって決まる「基本報酬」
相続財産の額が大きくなるに従って、税理士の報酬も高額になります。相続財産が大きいほど、財産の評価が大変になることなどから、そうした料金体系になっているのです。
料金の目安は、大体以下の通りです。
相続財産額 | 基本報酬相場 |
---|---|
~5,000万円 | 15~50万円 |
5,000~7,000万円 | 25~70万円 |
7,000万~1億円 | 35~100万円 |
1億~1億5,000万円 | 50~150万円 |
1億5,000万~2億円 | 60~200万円 |
2~3億円 | 80~250万円 |
3~5億円 | 100~300万円 |
5億円~ | 要相談 |
ただし、実際の金額は、事務所によってかなりの差があります。報酬が高ければそれだけ質の高いサービスが受けられる、と言い切れないのは悩ましいところですが、相場よりも高かったり、逆に安めに設定されたりしている場合には、注意が必要といえます。そもそもホームページなどで、きちんと報酬を公開しているかどうかも、選ぶ基準になると思います。
なお、これはあくまでも当初の目安です。作業を進めるうちに相続財産が増えたり減ったりすれば、それによって報酬も変動すると考えてください。
(2)「加算報酬」とは?
これに加えて、次のような作業が必要になる場合には、個別に「加算報酬」というコストがかかります。
土地の評価
1利用区分につき5~6万円が相場とされます。土地の形状が複雑で、不動産鑑定士の鑑定が必要になる場合には、その費用がさらに加算されます。
自社株(非上場株式)の評価
会社の規模などにもよりますが、通常は10~15万円程度です。
相続人が複数いる場合
「基本報酬×10%×(相続人の数-1)」で計算します。旧税理士報酬規程で定められていたものですが、加算する事務所が多いようです。
このほか、物納や納税猶予を行う場合、あるいは申告期限が迫ってからの依頼などの際には、別途報酬が必要になる場合があります。
当初の目安から報酬が変動する可能性があると言いましたが、あえて基本報酬を安く設定し、終わってから高額の支払いを請求する事務所もありますので、要注意です。契約前に、報酬の加算についてしっかり確認するようにしましょう。必要に応じて、複数の事務所に見積もりを出してもらうのも、相場を確かめる意味で有効です。
相続に強い税理士を選ぶ5つのポイント
相続税申告実績と専門チームの有無
相続税申告の経験が豊富で、専任のスタッフや専門チームを擁する税理士は、複雑な案件にもスムーズに対応可能です。実績件数や専門部署の存在を確認し、より確かな技術力とノウハウを持つ事務所を選びましょう。
料金・報酬体系が明瞭でわかりやすいこと
相談前に報酬基準や見積もりを提示してくれる税理士なら、後々のトラブルを回避できます。料金表の公開や明確な説明があるかをチェックし、安心して依頼できる環境を整えることが重要です。
相談のしやすさとコミュニケーション力
メールや電話での柔軟な対応、丁寧な説明、気軽に質問できる雰囲気など、相談のしやすさも大切なポイントです。わからない点を遠慮なく聞ける相手であれば、相続手続きがスムーズに進みます。
他専門家(弁護士、不動産鑑定士)との連携可能性
相続では、法律問題や不動産評価など、税務以外の専門知識が必要になるケースもあります。他士業との連携ネットワークがあれば、一括で解決策を提案でき、手間と時間を大幅に削減できます。
信頼性の裏付け(口コミ・実績・資格・監修者プロフィール)
利用者の口コミや公的資格、監修者のプロフィールなど、第三者評価があると信頼度が増します。公式サイトや紹介ページで、税理士の実績や所属団体、メディア掲載実績などをチェックしましょう。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
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相続全般に強い税理士であれば「いつまでに何をしなければならないか」が分かっていますので、最初に相談を受けた時点から少なくとも委任契約を締結するまでの間に申告書提出までのスケジュールや必要書類を一覧で提示するなど、作業の段取りがスムーズで質問に対する応答も的確かつ迅速なはずです。
また、申告書を提出する際、税理士が相続財産・債務に関してどのような調査を行って評価・計上したかなどを記載した『添付書面』を適切に作成し添付することで、税務署からの指摘や税務調査を受けるリスクを軽減するよう努めているかも判断材料の一つになるでしょう。 - 松井 信行 公認会計士・税理士事務所
所長 松井 信行
相続税理士へ依頼する際の流れとチェックポイント
初回相談から契約までの流れ
- 初回相談(ヒアリング): 電話やメールで問い合わせを行い、初回面談を実施します。この際、相続人の構成、被相続人の財産概要、申告期限までの期間などを税理士に伝えることで、必要な手続きやおおまかな進行スケジュールが見えてきます。
- 必要書類・情報の確認: 戸籍謄本、遺言書、不動産や金融資産の資料など、相続税申告に必要な書類をリストアップします。事前にこれらの書類を揃えることで、後の手続きがスムーズに進みます。
- 見積り提示と契約締結: 財産規模や難易度に応じた報酬見積りを提示してもらい、納得できれば契約を交わします。契約書には業務範囲や報酬体系、納期などが明確に記され、後日のトラブル防止につながります。
相続税申告に至るまでのプロセス
- 財産評価と分割検討: 相続財産は不動産や有価証券、動産、預貯金、生命保険など多岐にわたります。税理士は各財産の評価方法や特例適用を精査し、公正かつ有利な評価額の算定を行います。また、遺産分割においては税負担を最小限に抑える分割方法を提案し、相続人間の合意形成をサポートします。
- 申告書作成と提出: 評価結果や特例活用方針が定まったら、税理士が相続税申告書を正確に作成します。不備や漏れがないよう書類を整え、期限内に税務署へ提出することで、延滞税や加算税などのリスクを軽減します。
申告後のフォロー・二次相続対策
- 税務署からの問い合わせ対応: 申告後、税務署から追加資料の要求や確認問い合わせがあった場合でも、税理士が丁寧に対応します。専門家が間に立つことで、納税者側の負担を軽減し、スムーズなコミュニケーションが可能です。
- 今後の資産管理・節税対策: 相続は一度で終わりとは限りません。将来の二次相続や贈与、資産の組み替えなど、税理士は長期的な視点でアドバイスを行い、次回以降の相続に向けた対策を提案します。こうしたフォローアップにより、資産をより有効に活用する道が開けます。
事例紹介:「相続に詳しくない税理士」に頼むと起こる、こんな悲劇
相続の際に、特に問題になりやすいのが不動産です。値が張るうえに、現金などと違い、相続人同士で分けにくいからに他なりません。
だからこそ、相続に強い税理士の出番なのですが、依頼した税理士がそうでなかったばかりに起こった「失敗事例」を、2つ紹介しましょう。
事例1:小規模宅地等の特例
母親が亡くなり、相続に。相続人は、実家を出てそれぞれに家庭を持つ息子3人でした。遺産は実家の土地・建物と、いくばくかの現金。結局、実家は売却して、そのお金を3人で分けたのですが、土地の評価額が数億円に上ったため、高額の相続税を支払わなくてはなりませんでした。
自宅の相続には、一定の要件を満たせば、その評価額を8割減額できる「小規模宅地等の特例」があります。要件をごく簡略化すると、被相続人(亡くなった人)と同居していた人や、持ち家に住んでいない人が、自宅を相続する場合。このケースでは、3男のみ貸家住まいだったので、彼が相続すれば「特例」の対象になりました。
とはいえ、1人が家を丸々もらったら、たとえ無税になって、少しの現金をもらったとしても、他の2人は納得しがたいかもしれません。その時には、いったん3男が「特例」を受けて家を相続した後に、それを売却して3人で分ける、というやり方もありました。案件を担当した税理士が、「小規模宅地等の特例」を理解していなかったために、兄弟は大きな負担を強いられることになってしまったわけです。
事例2:不動産と代償分割
やはり、親の残した不動産と現金を3人の子どもで分けることに。このケースでも、遺産額の多くは、不動産が占めていました。土地は売却がしづらい、3人で公平に分割するのも難しい。結局、現金は3等分、不動産は3人の共有名義にすることでまとまったのですが。
共有は「平等」のイメージですが、それぞれの「単独行動」には、制限がかけられることを覚悟しなくてはなりません。例えば、その不動産の持ち分を売却したり、建物を改築したりするには、共有者全員の同意が必要になるのです。
問題は、それだけではありません。共有に名を連ねる人が亡くなれば、その持ち分は、子どもなどに相続されることになります。そうやって、共有者がどんどん増えていく。将来、顔も知らない人間同士が共有者となり、名義はあれど誰もその不動産に手を出せないという状況を招くかもしれません。
相続を知る税理士ならば、仮に相続人の側から共有の話が出たとしても、そうしたリスクについて、きちんと説明するでしょう。今のケースでは、誰か1人が不動産を取得し、他の2人に対して「足りない分」を現金で支払う、「代償分割」という方法があることなどを説明し、協議を進めたはずです。
まとめ
相続手続きは複雑で、精神的な負担も大きいものです。しかし、相続に強い税理士を選び、適切なステップで手続きを進めれば、余計な税負担や手続き上のトラブルを回避し、安心して相続を完了できます。
専門知識と経験を持つ税理士が、財産評価や分割協議、申告書作成、税務署対応といった一連の流れを支えることで、時間的・精神的コストを大幅に削減し、ご家族が納得できる形での資産承継が可能となります。
相続を頼むのなら、相続に詳しい税理士にしましょう。ホームページで専門性を見極めるとともに、必要に応じて税理士紹介会社を利用するのが、間違いのない方法です。
- この記事の監修者
- 松井 信行 公認会計士・税理士事務所
所長 松井 信行
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