相続に関連する国家資格とは?
最初に、相続に関連する国家資格について、みておきます。
弁護士
相続では、被相続人(亡くなった人)が遺言書を残していれば、遺産は原則としてそこに書かれている内容に従って分けられます。しかし、遺言書がなかった場合などには、相続人が集まって遺産の分け方を話し合い(遺産分割協議)、「遺産分割協議書」を作成することになります。「こういう分け方はどうですか」と遺産分割協議を主導することは、弁護士にしかできません。
ただし、弁護士は、あくまで特定の相続人の代理人として行動します。依頼する側からすると、自分に不利な遺産分割が行われようとしているときに、法律の専門家である弁護士を代理人に立てる、というイメージです。結果的に遺産分割協議がまとまらず、裁判所での「調停」や裁判になった場合には、弁護士に代理人を依頼して争うことになります。
税理士
遺産の総額が、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えると、相続税の支払いが必要になります。税理士には、この相続税の計算や申告を依頼することができます。相続税には、要件を満たせば、税額を大幅に削減できる(場合によってはゼロにできる)いくつかの特例があります。こうした特例の活用をはじめ、節税の相談にも乗ってもらえます。
遺産額が大きいケースでは、節税の鍵は、生前の対策にあるといっても過言ではありません。相続に詳しい税理士は、そうした生前対策についての知見も持ち合わせています。
なお、税理士は後述する行政書士登録も可能なため、まとまった協議に基づいて「遺産分割協議書」を作成することができます。
司法書士
司法書士の代表的な業務は、登記手続きの代行です。登記とは、物や土地などの権利関係などを社会に公示するための制度で、不動産登記、法人登記、債権譲渡登記をはじめ、対象は多岐にわたっています。相続に関係するのは、主として不動産登記(相続登記)です。
相続財産に不動産が含まれている場合、被相続人からその不動産を譲り受ける相続人に、所有名義を移転するための登記を行わなくてはなりません。実際の相続では、遺産の不動産を売却し、現金化して分けることもありますが、その場合にも一度相続人に名義変更したのち、売却相手に所有権移転登記を行うことになります。司法書士に依頼すれば、こうした手続きをミスなくスムーズに完了させることができます。2024年4月1日からは、この相続登記が義務化され、正当な理由なく放置すると、10万円以下の過料の対象になります(法改正以前の不動産も対象)。
なお、司法書士は、「遺産分割協議書」の作成を行うことができます。
行政書士
行政書士の主な業務は、官公庁(省庁、都道府県庁、市町村など)に提出する書類の作成、権利義務に関する書類の作成、事実証明に関する書類の作成などです。この「権利義務に関する書類の作成」には、相続における「遺産分割協議書」が含まれます。また、建設業や運輸業などの業種の相続による事業承継の際には、新たに行政の許認可が必要になりますが、行政書士には、その申請を依頼することができます。 被相続人の所有していた自動車や上場株式などを譲り受けた際にも名義変更しなくてはなりません。行政書士には、これらの煩雑な手続きを代行してもらうことが可能です。
不動産鑑定士
相続財産に土地、建物(不動産)が含まれていると、多くの場合、遺産総額に占めるその金額のウェートが高くなります。そのため、遺産分割の方法や納税額に、大きな影響を与えがちです。ただし、例えば同じ広さ・立地の土地であっても、形状や道路とのアクセスといった様々な条件によって、相続の際の評価額は変わる余地があります。このように、複雑な要因が絡み合う不動産の価格を公正に判断、決定する専門家が不動産鑑定士です。
通常、相続における不動産評価額は、土地は「路線価」(※)、建物は「固定資産税評価額」をベースに算出されます。その評価額が妥当な不動産については、わざわざ鑑定料を支払って不動産鑑定士に依頼する必要はないでしょう。ただし、建物を建てるのに不向きな土地など、特殊な条件を抱えていて、通常の方法よりも大幅な評価額の引き下げが可能な不動産については、専門家による鑑定を依頼する意味があるでしょう。
※路線価 毎年国税庁が公表する、道路に面する土地の1平方メートル当たりの評価額。
ファイナンシャルプランナー(FP)
ファイナンシャルプランナーは、人生を通じた資産の作り方、お金の使い方などマネー全般のアドバイスを行う専門家で、やはり国家資格です。相続に関しては、生前は、円満な相続、生前贈与をはじめとする相続税対策、事業承継などについて助言をもらうことができます。また、相続発生後も、相続にまつわる相談や、残された家族のライフプランの再設計などに関して相談することが可能です。ただし、相続税についてできるのは一般的なアドバイスで、具体的な節税方法の相談などについては、以下に述べる税理士の「独占業務」となっているため、FPが行うことはできません。FPには、案件に即したよりよい税理士、司法書士などの専門家の紹介という機能もあります。
これらの「士業」には、その資格を持っていないとできない「独占業務」があります(FPにはありません)。例えば、税務代理業務(税務署への相続税の申告など)は、税理士資格がないとできないのです。
相続に関連する民間資格とは?国家資格との違いは?
では逆に、相続に関連する民間資格にはどのようなものがあるのでしょうか?ネット上の情報を集めてみると、実に多彩なことがわかります。
これらは、NPO法人、一般社団法人や個人が創設したもので、多くが資格名、団体名で商標登録されています。
ただ、注意していただきたいのは、初めに説明した国家資格とは異なり、民間資格はライセンスに公的(法的)な裏付けはありません。もちろん、「独占業務」はなく、国家資格者の業務を代行することもできません。仮に何か問題が発生した場合でも、「(民間資格の)〇〇士の先生に従った」という主張は、少なくとも法的な意味は持たないことになります。
以下、順不同で挙げていきます。
相続士
的確な相続を実現するためのアドバイスと支援を行う相続に特化した専門家。
相続診断士
相続の基本的な知識を身につけ相続診断ができる資格。
相続鑑定士
相続人と専門家との橋渡しを行うプロフェッショナル資格。
相続アドバイザー
最適な相続を実現させるため依頼者と各士業との間に入り、実務的見地より問題点を指摘し、的確なアドバイスをする専門家。
相続法務指導員
相続・遺言実務のプロフェッショナルに与えられる称号。依頼者である相続人の利益のみを追求するのではなく、相続人全員の円満な合意のために助言、調整を行う専門家。
相続知識検定
相続に関する法律・税制・不動産評価・株式評価・生命保険などのあらゆる制度を横断的に捉え、これらの知識を多面的に勉強することにより、国民生活にとって有意な人材を育成することを目的とした検定制度。
相続マイスター
丸の内相続大学校の修了など、一定の要件を満たし、その後も継続的に相続にかかわる知識の鍛錬を行う人に与えらる資格。
相続支援コンサルタント
賃貸住宅所有者に対し、相続に係る知識と技能を持って、相続及びこれに関する不動産取引について相談に応じる。
相続ファシリテーター
遺産分割対策、納税資金準備、相続税節税対策を一緒に検証し、相続人への適切な相続対策をアドバイス。
相続手続カウンセラー
相続の仕事に関わる人に、実務の現場で生かせる知識と最新情報を提供することで、顧客に対する間違ったアドバイスを防止し、相続業界のレベルの底上げを行い、相続手続きのスペシャリストを養成。
相続カウンセラー
相続の現場で活かせる知識を身に付け、相続手続きの支援ができる資格。
遺言執行士
遺言執行者(※)として遺言書に記載されているとおりに正確・迅速に手続きを執行するための知識や技能を有していることを示す資格。
終活カウンセラー
終活に関してカウンセラーとして相談者の悩みを聞き、課題を洗い出すことができる資格。
事業承継アドバイザー
事業承継について総合的で専門的なアドバイスができる資格。事業承継をおこなう会社の企業価値を把握し、事業承継の計画を立てる。
以上がすべてではなく、この他にも多くの資格が存在します。
ただ、上述の通り、注意していただきたいのは、それぞれの資格の説明はその創設主体が自ら述べているものであり、国家資格とは異なり民間資格はライセンスに公的(法的)な裏付けは無い…ということです。その点を踏まえて相談するようにしましょう。
民間資格保有者に頼むメリット・デメリット
では、これらの資格を持つ人に依頼する意味は、どこにあるのでしょうか?
民間資格保有者に頼むメリット
相続について相談したいと思っても、例えば弁護士に頼むべきなのか、税理士なのか、と悩むことも多いはず。そうした場合に、民間資格保有者は「とりあえずの窓口」として頼ることができるでしょう。
実際、今挙げたうちの多くの資格が、税理士や司法書士などとの「協働」をうたっています。資格を付与する団体の代表やメンバーが国家資格を持つケースも少なくありません。相談の中身を聞いたうえで、そうしたネットワークの中から適切な専門家をチョイスしてくれる…というわけです。
民間資格保有者に頼むデメリット
一方、次のようなデメリット(リスク)の可能性も、念頭に置くべきでしょう。
- 国家資格者に比べ知識が乏しく、十分なアドバイスがもらえなかった
- 法的な行為ができないため、結局は国家資格の専門家に依頼した
- 直接専門家に頼むのに比べ、「窓口」としてのコストが余分にかかってしまった
依頼したいことがすでに明確な場合は、国家資格の専門家に相談を
依頼したいこと(例えば、遺産の分け方、紛争の解決、節税など)が明確な場合には、初めから、それを専門とする国家資格者に依頼するのがベターと言えるでしょう。最近は専門家同士がネットワークを組むことも増えているので、依頼内容によってはそうした事務所を選ぶこともできます。
相続で専門家への依頼を検討中の方へ
民間資格保有者に相続の相談をする場合には、その資格自体に法的な裏付けはないことに注意してください。信頼に足るものかどう・専門家のフォローがもらえるのかどうかといった点を、しっかり調べるようにしましょう。