原価とは販売する商品の仕入経費のように売上の元手となる経費のことです。建設業には工事を完成させるためにかかる「工事原価(完成工事原価)」が存在し、会計処理は「建設業会計」という特殊な会計処理基準を用います。本記事では、工事原価の捉え方や計算方法、一般会計との違いについても解説します。
「モノづくり」における原価の捉え方
原価とは何か?
原価とは、売上を得るために直接要した仕入経費のことであり、売上から「原価」を差し引きした金額のことを「粗利益」と呼びます。
商品を販売するためには販売するためのモノを仕入れなければなりません。知識やサービスで収入を得ている場合など、仕入が発生しない業種もありますが、一般的には「モノを仕入れて売って、また仕入れて売って…」というサイクルで循環しています。一般的な商品販売業であれば原価は商品の仕入経費だけですが、原材料を仕入れて加工し完成した製品を販売する、いわゆる「モノづくり」の業種の場合はどうでしょうか。
製造業や建設業のように「仕入れて加工して販売する」業種では原価の捉え方が少し変わってきます。仕入れた材料を完成品として販売するまでの過程で、仕入に加えて製造するための人件費や水道光熱費などの経費が発生するからです。したがって、完成するまでに要した経費全体を売上に対する原価として認識する必要があります。
知っておきたい原価の4要素
製造業や建設業の「モノづくり」における原価は大きく分けて4つの要素に分類されます。
- 材料費…製造に要する原材料、製品、半製品など
- 労務費…製造に要する人件費、法定福利費、福利厚生費など
- 外注費…外部企業に製造を委託した際の費用
- 経費…上記以外で製造に要した費用(減価償却費、水道光熱費、消耗品費など)
これらに共通しているのは全て「製造するにあたって直接要した費用」であるという点です。販売商品が完成するまでにかかった費用を直接経費として捉え、原価として集計していきます。
工事原価を把握するために必要な建設業会計
「一般会計」と「建設業会計」の相違点
例えば、製造業における原価のことを「製造原価」と呼ぶのに対し、建設業では原価のことを「工事原価」といい、会計処理も「建設業会計」という特殊な会計処理基準を用います。
建設業は「工事の請負」を商品とし、完成引き渡しをもって売上(完成工事高)を計上します。請負ってから完成にいたるまでに直接要した費用を工事原価として集計し、粗利益を求めるという点では一般会計や製造業と何ら変わりません。ここでは相違点に着目してみていきましょう。建設業会計が一般会計と違う点は以下のとおりです。
(1)勘定科目の表記
具体的には下記のとおりになっており、工事に関する勘定科目であることを分かりやすく表記することを求めています。
- 売掛金→「完成工事未収入金」
- 仕掛品→「未成工事支出金」
- 買掛金→「工事未払金」
- 前受金→「未成工事受入金」
- 売上高→「完成工事高」
(2)完成工事高の計上基準
通常であれば販売して商品の引き渡しが終わり代金を貰えることが確定した時点で売上を計上(実現主義)します。しかし建設業会計では、完成工事高の計上基準について「工事完成基準」と「工事進行基準」の2とおりがあります。工事完成基準とは、工事が完成して完了審査が終わった時点で完成工事高を計上する現実主義の基準です。ただ、建設工事というのは受注してから工事をし、完成・納品にいたるまでの過程が他の業種よりも長く、場合によっては1つの工事で数年かかってしまう、というケースもあります。例えば1件の工事を3年がかりで完成させるとした場合、「工事完成基準」では、工事が完成するまでの初年度・2年度は完成工事高が「0円」となってしまい、企業の活動実態を決算書に正しく反映させているとは言えません。
そこで建設業会計では、工事の進捗割合、出来高に応じて完成工事高を部分的に計上することを認めています。これを工事進行基準といいます。工事進行基準での計算式は以下のとおりです。
工期が1年以上に渡る工事のうち、「請負額が10億円以上で請負対価の2分の1以上が工事の目的物引渡期日から1年を経過する日までに支払われること」が契約で定められているものは「工事進行基準」が強制適用されます。
(3)出来高払いの外注費の処理
「工事完成基準」を適用している場合に気をつけたいのが外注費です。工事を外注契約により下請業者に依頼した場合、支払った出来高分の外注費については「前渡金」として処理しなければなりません。これは下請業者が工事を完了するまで外注費にかかる消費税を仕入税額控除することができないということを意味します。外注費を税抜処理し「未成工事支出金」に含めて処理すると間違いになりますので、消費税の原則課税事業者の方は十分注意してください。
利益を計上するためのツール
建設業会計の目指すところは「工事ごとに工事原価をリアルタイムに把握し、正しい損益を計算すること」であり、納品までに長い期間を要する建設工事において、確実に利益を計上するためのツールといえます。建設業の受注工事は長期間にわたるものが数多くあり、工事が全て完了してから工事原価を集計したので結果として大赤字になってしまった…ということにもなりかねません。材料費や外注費は勿論のこと、工事に投下した人件費や経費も工事原価として集計し、工事ごとに利益が確実に見込めるようリアルタイムで管理していく必要があるのです。正しい工事利益の計算は会社全体の正しい利益計算に繋がり、正しい納税にも寄与します。
工事原価の具体的な集計方法
建設業会計必須の「工事台帳」
工事原価を正確に集計するにあたって必須となるのが現場別の「工事台帳」です。会社全体で発生した工事に関する費用から当該工事で使用した部分を拾い出し、その都度工事台帳に転記することにより「どのような費用がどれだけ発生しているのか?」「工事原価の累計額はどれくらいか?」をすぐに知ることができます。
また費用を工事台帳に振り分ける際には、工事原価を原価の4つの要素ごとに振り分けておくのがおすすめです。そうすると、工事内容の分析や完成時の利益予想にも役立ちますので必ず要素ごとに集計しておきましょう。
まずは経費を現場別に分解
具体的に工事原価を効率的に集計する方法について解説していきます。工事原価管理の要点は「経費をいかに現場別に分解するか」に尽きます。
(1)仕入等の請求書を「工事にかかるもの」「工事にかかるもの以外」に振り分ける
工事部門で直接使用した経費だけを工事原価とし、管理部門で使用した経費は販管費として工事原価から除外します。材料費や外注費はもちろん、水道光熱費や通信費、飲食代や事務用品にいたるまで可能な限り振り分けていけば管理の精度が高まります。
(2)請求書の内容を工事現場ごとに分解する
請求書のなかには複数の工事が混在しているものがありますが、このままでは工事台帳に転記することができません。そこで、納品書や請求書の内容を確認しながら請求書を1枚ずつ工事現場別に分解していきます。仕入業者に依頼して現場別に請求書を作成してもらう、現場別の集計額を出してもらう等の協力があれば、分解作業が楽になります。また、現場を特定できない共通の経費が出てくる場合がありますが、現場数に応じて均等に配分したり工事規模に応じた割合で按分したり、できる限り現場に割り振るようにすればさらに精度が上がります。
工事原価管理の重要ポイント「人件費」「経費」の配賦計算
次に人件費、経費を工事現場ごとに分解していきます。
請求書のない人件費(労務費)や法定福利費等の経費については、作業員ごとの作業日報や工事現場ごとの現場日報を使用します。日報から各工事に携わった作業員の作業日数や作業時間をカウントし、作業員1人当たりの日給や時給を乗じて現場の人件費を計算します。日給や時給については、実際に支払った人件費に法定福利費等の経費を含めて作業日数や作業時間で除した実単価を使うことが可能です。また計算しづらい場合には、作業員1人当たりの概算単価(標準単価)を使う方法もあります。工事原価管理において、人件費や経費の分解が実は最も重要な箇所となります。
材料費や外注費が不要で人件費しか原価のない工事の場合、人件費や経費の振り分けがなければ「工事原価0円」となってしまいます。また後述する「共通経費の按分」で直接経費を基準として共通経費を振り分ける際にも工事原価0円だと振分額がやはり0円となってしまいます。そのため、実は人件費の振り分けこそが工事原価管理の肝なのです。
「共通経費」の配賦計算
上記の作業を終えた時点で、なお分解できない経費というのがあります。倉庫整理に従事した人件費、自社所有重機の損料(減価償却費)、工具の修理代など現場を特定できない、いわゆる「共通経費」と呼ばれるものです。共通経費も工事原価の1つですから合理的な基準で各現場に按分する必要があります。工事規模に応じて按分するのであれば工事受注高の割合を使っても構いません。また、現場の直接経費に応じて按分するのであれば、これまで分解した経費の合計額の割合を使うことも可能です。
まとめ
現場の管理責任者のなかには、工事原価管理を行わずに自身の経験をもとに工事原価を予想する「どんぶり勘定」で工事を進めていることもあるでしょう。しかし発生する経費は現場で見えているモノだけとは限りません。直接的な経費ばかり追いかけ、現場では見えない共通経費を全く考慮していないというケースが多々あります。黒字工事のつもりが会社全体でみれば大赤字だったということにならないよう、工事原価を構成する要素については財務的な観点からアプローチすることも重要です。