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お墓は誰が継げばいいのか? 相続税はかかるの?
2020年10月5日
新型コロナ感染症の拡大で、お盆に里帰りできなかった人たちのために、墓参りの代行をしてくれるサービスが話題になりました。ところで、親族の中で、それまでお墓を管理していた人が亡くなった場合、誰がそれを受け継ぐのか、何か決まりはあるのでしょうか? はたまた、墓も「財産」にカウントされて、相続税の申告の対象になるのか? ふだんあまり考える機会がないと思われる「お墓の承継」について解説します。
お墓は「相続財産」ではない
通常、相続になると、被相続人(亡くなった人)の残した財産は、相続人に「包括的に承継」されることになります。そのうえで、相続人が複数いる場合には。被相続人の遺言や相続人同士の話し合いなどによって、それを分割するわけです。
では、お墓も同じように扱われるのでしょうか? 民法には、次のような規定があります。
「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、(略)慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。」(第897条)
簡単に言うと、「系譜」とは家系図、「祭具」とは位牌や仏壇など、そして「墳墓」はお墓のことで、これらを総称して「祭祀財産」と呼びます。法は、これを「祭祀を主宰する者が承継する」、すなわち誰か1人が受け継ぐもの、と定めています。言い方を変えると、普通の相続財産のように、相続人の間で分けることは、基本的にできないのです(※)。このことから、「祭祀財産は、相続財産には含まれない」と解釈されています。
「祭祀を主宰する」とは?
具体的に誰がどのように承継すればいいのかを説明する前に、「祭祀承継者」の仕事、立場についてみておきましょう。一般的には、次のようなことになるでしょう。
お墓の維持管理
墓が荒れたりしないように、定期的な清掃、手入れをします。お布施や維持管理費など、維持管理に関わる費用も負担することになります。
法要を主宰する
一周忌、三回忌などの法要をはじめ、先祖の供養に関する行事を主宰します。
お墓の所有権を持ち、その行方を決定できる
祭祀承継者は、お墓の所有権を持つことになります。墓の移動や「墓じまい」などは、祭祀承継者の同意がないとできません。なお、遺体、遺骨の所有権については、定説はないようですが、やはり祭祀承継者単独の所有権を認めた最高裁の判例があります。
どのように決めるのか?
かつては、家の長男がその役目を受け継ぐのが当たり前でした。しかし、子どもの数が減り、なおかつお墓のある郷里から離れた都会などに生活の拠点を設けることが増えた結果、それは「当たり前」ではなくなりました。先祖代々の墓に対する思い入れ自体、昔に比べると希薄になっているという現実があります。
逆に、祭祀主宰者の立場をめぐって、争いになる可能性もあります。民法には、「誰それが祭祀主宰者になる」という定めがあるわけではありません。複数の親族が、「ぜひやらせてほしい」という意思を示したら、どう収集をつけたらいいのでしょうか?
法律上は、次の3つのステップが示されています。
①亡くなった人が、遺言書に書き残していた。あるいは、生前、口頭で指名されていた。
↓
②それがない場合は、一族や地域の慣習に従う。曖昧ならば、親族間の話し合いで決定することも認められる。
↓
③それでも決められなければ、家庭裁判所の調停、審判に委ねる。
仮に、知らないうちに、遺言書に祭祀主宰者として自分の名前が書かれていたら、どうなるのでしょう? そうした場合でも、祭祀承継を拒否することは、基本的にできません。
ただし、さきほど説明した祭祀主宰者の仕事=(1)、(2)は、法的な義務ではないのです。それどころか、承継後、その祭祀財産をどう扱うのかも自由。例えば処分することも可能だとされているのです。
つまり、祭祀承継者は、(3)という強い権限を持っているという点に、留意すべきでしょう。そのことを認識した上で、親族でよく話し合って、ふさわしい人を選ぶ必要があります。「とりあえずやってほしい」というような雰囲気で決めると、後々、代々の墓が意に沿わないかたちで処分されてしまった、といった事態も起こり得るわけです。
混乱を招かないためには、親の姿勢も大事になります。「長男が承継してくれるだろう」というような思い込みをせず、生前にしっかり話をして、他の相続人の同意も得ておくようにしましょう。
相続税は取られない
さきほど説明したように、祭祀財産は相続財産に含まれないと考えられています。そのため、相続が発生した際に、以下の2点についても、普通の財産とは違う扱いになります。
相続税の対象外である
お墓を承継するのは構わないけれど、財産として高い評価をされて、相続税を払わされるのはたまらない――。そう考える人もけっこういるようですが、そこは心配に及びません。「相続財産ではない」お墓をはじめとする祭祀財産は、相続税の課税対象にはならないのです。
ですから、生前、自分のお墓を建てておけば、相続税対策になります。墓に支出したぶん、課税対象となる相続財産(現金)を減らせるからです。
相続放棄しても、祭祀承継者にはなれる
被相続人が借金を背負っていたような場合、相続人はその返済義務も「相続」することになります。負債がプラスの財産を上回るときには、相続放棄によって、その義務から免れることができますが、財産も受け継げなくなります。
くり返しになりますが、祭祀財産は、そうした財産とは別物です。ですから、たとえ相続放棄をしたとしても、承継することができるのです。
まとめ
誰をお墓の承継者にするのかは、親族間で慎重に話し合って決める必要があります。承継させる人(親)が、生前、対象者にしっかり話をしておくのがベスト。その際、お墓を含む祭祀財産には、相続税がかからないことも頭に入れておきましょう。