事業主は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた「子育て世帯の従業員」を支援することで、国から様々な助成金を受給することができます。本記事では、フリーランス・個人事業主の支援金制度も含め、子育て世帯にかかわる主な助成・支援金制度についてのまとめと、受給した際の会計処理について解説します。
企業が行う子育て世帯の従業員に対する支援金とは?
2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で学校等が臨時休校となり、保護者が会社を休まなければならなかったケースがありました。会社勤めをする保護者は有給休暇を使うこともできますが、通常の有給休暇とは別に、休校期間中に会社を休んでも給与を支払う事業者に対してはその分を国が支払う「小学校休業等対応助成金」制度を設けました。
事業主は小学校休業等対応助成金の他にも、雇っている子育て世帯の従業員を支援することで、国から助成金(※1)を受給することができる様々な制度があり、フリーランスや個人事業主に対する支援金(※2)の制度もあります。
ちなみに子育て世帯とは、主に児童(18歳未満の未婚の者)のいる世帯のことをさし、厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、2019年(令和元年)6月6日現在(※3)における全国の世帯総数は5,178万5世帯で、うち1,122万1千世帯が児童のいる世帯であり、全世帯数の21.7%となっています。事業主は、アフターコロナ時代における労働力確保のためにも、子育て世帯の従業員に向けた支援が求められるようになるでしょう。
※2 支援金とは給付金に含まれ、申請した住民がもらえるお金。
※3 2020年の調査は新型コロナウイルス感染症への対応等への観点から中止。
子育て世帯のための主な支援金・助成金制度
小学校休業等対応助成金【事業者】
新型コロナウイルス感染症の影響により小学校等が臨時休校になり、子供の保護者である労働者の休職に伴う所得の減少に対応するため、正規・非正規問わず、有給の休暇(労働基準法上の年次有給休暇を除く)を取得させた事業主を助成する制度です。
対象者:事業主
下記記載の①または②の子供の世話を保護者として行うことが必要となった労働者に対し、労働基準法上の年次有給休暇とは別途、有給(賃金全額支給)の休暇を取得させた事業主。
①新型コロナウイルス感染症に関する対応として、ガイドライン等に基づき、臨時休業等した小学校等(※1)に通う子供。
小学校、義務教育学校の前期課程、各種学校(幼稚園または小学校の課程に類する課程を置くものに限る)、特別支援学校(すべての部)、放課後児童クラブ、放課後等デイサービス、幼稚園、保育所、認定こども園、認可外保育施設、家庭的保育事業等、子供の一時的な預かり等を行う事業、障碍児の通所支援を行う施設等
②新型コロナウイルスに感染した子供など、小学校等を休む必要がある子供
支給額:有給休暇を取得した対象労働者に支払った賃金相当額(100%)
(支給上限は1日あたり8,330円。令和2年4月1日以降に取得した休暇については15,000円)
適用日:令和2年2月27日~9月30日の間に取得した有給の休暇
(春休み・夏休み等、学校が開校する予定のなかった日等は除く)
申請期間:令和2年12月28日まで
問い合わせ・手続き:学校等休業助成金・支援金、雇用調整助成金コールセンター
小学校休業等対応支援金【個人事業主】
新型コロナウイルス感染症の影響により小学校等が臨時休校になり、子供の世話を行うために契約した仕事ができなかった個人で仕事をする保護者へ支給される支援金制度です。
対象者:委託を受けて個人で仕事をする人
前項記載の①または②の子供の世話を行うことが必要となった保護者であって、一定の要件(※2)を満たす人。
- 個人で就業する予定であった場合
- 業務委託契約等に基づく業務遂行等に対して報酬が支払われており、発注者から業務内容、業務を行う場所・日時などについて一定の指定を受けているなどの場合
支給額:就業できなかった日について、1日あたり4,100円(定額)
(令和2年4月1日以降の日については、1日あたり7,500円(定額))
適用日:令和2年2月27日~9月30日
(春休み・夏休み等、学校が開校する予定のなかった日等は除く)
申請期間:令和2年12月28日
問い合わせ・手続き:学校等休業助成金・支援金、雇用調整助成金コールセンター
企業主導型ベビーシッター利用者支援事業
新型コロナウイルス感染症によって小学校等が臨時休校になり、企業で働く保護者が仕事を休んだり、放課後児童クラブ等の利用もできなかったりして、ベビーシッターを利用した場合の利用料金を補助する制度(特例措置)です。事業主は、利用する労働者の申請手続きをしなくてはいけませんので、万が一に備え、制度について把握しておきましょう。
対象者:民間企業等で働く人で、配偶者が仕事をしていたり、ひとり親であったりしてベビーシッターを利用しないと働くことができない(新型コロナウイルス感染症の影響で子供の通う小学校や保育所等が休校・休園等になっている場合)
特例措置の内容:小学校や保育所等が臨時休校・休園となった場合に使用できる割引券2,200円/枚)支給。
- 1日の上限枚数 5枚/人
- 1か月の上限枚数 120枚/家庭
- 年間の上限枚数 上限なし
申請手続等・詳細:全国保育サービス協会ホームページ
企業主導型ベビーシッター利用者支援事業【個人事業主】
新型コロナウイルス感染症によって小学校等が臨時休校になり、個人で仕事をする保護者が仕事を休んだり、放課後児童クラブ等も利用することができなかったりして、ベビーシッターを利用した場合の利用料金を補助する制度(特例措置)です。
対象者:個人で仕事をしている(自営業、フリーランスなど)で、配偶者が仕事をしていたり、ひとり親であったりしてベビーシッターを利用しないと働くことができない(新型コロナウイルス感染症の影響で子供の通う小学校や保育所等が休校・休園等になっている場合)
特例措置の内容:小学校や保育所等が臨時休校・休園となった場合に使用できる割引券2,200円/枚)支給。
- 1日の上限枚数 5枚/人
- 1か月の上限枚数 120枚/家庭
- 年間の上限枚数 上限なし
申請手続等・詳細:全国保育サービス協会ホームページ
新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援助成金
新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置として休業が必要とされた妊娠中の女性労働者が、安心して休暇を取得して出産し、出産後も継続して活躍できる職場環境を整備するため、該当女性労働者のために有給の休暇を設けて取得させた事業主に対する助成金制度です。
対象者:下記の条件をすべて満たす事業主
- 令和2年5月7日から同年9月30日までの間に新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置として、医師または助産師の指導により、休業が必要とされた妊娠中の女性労働者が取得できる有給の休暇制度(年次有給休暇を除き、年次有給休暇の賃金相当額の6割以上が支払われるもの限る)を整備。
- 当該有給休暇制度の内容を新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置の内容とあわせて労働者に周知した事業主。
- 令和2年5月7日から令和3年1月31日までの間に当該を合計して5日以上取得させた事業主。
支給額:対象労働者1人当たり 有給休暇計5日以上20日未満 25万円
以降20日ごとに15万円加算(上限額:100万円)
申請期間:令和2年6月15日から令和3年2月28日まで
※事業所単位ごとの申請。
申請手続等・詳細:厚生労働省ホームページ、都道府県労働局雇用環境・均等部屋
両立支援等助成金(介護離職防止支援コース(新型コロナ感染症対応特例))
新型コロナウイルス感染症への対応として、家族の介護を行う必要がある労働者が育児・介護休業法に基づく介護休暇とは別に、特別な有給休暇を付与し、介護を行えるような取り組みを行う中小企業事業主を助成する制度です。
対象者:事業主
新型コロナウイルス感染症への対応として利用できる介護のための有給の休暇制度(※3)を設け、該当制度を含めて仕事と介護の両立支援制度の内容を社内に周知。新型コロナウイルス感染症の影響により対象家族の介護のために仕事を休まざるを得ない労働者が、合計5日以上の休暇を取得すること。
法定の介護休業、介護休暇、年次有給休暇とは別の休暇制度
支給額:取得日数(合計5日以上10日未満) 20万円
取得日数(合計10日以上) 35万円
対象者:
- 介護が必要な家族が通常利用している又は利用しようとしている介護サービスが、 新型コロナウイルス感染症による休業等により利用できなくなった場合
- 家族が通常利用している、または利用しようとしている介護サービスについて、新型コロナウイルス感染症への対応のため利用を控えている場合
- 家族を通常介護している者が、新型コロナウイルス感染症の影響により家族を介護することができなくなった場合
適用日:令和2年4月1から令和3年3月31日に取得した休暇
申請期間:支給要件を満たした翌日から起算して2か月以内
申請手続等・詳細:厚生労働省ホームページ、都道府県労働局雇用環境・均等部屋
制度を利用した際の会計処理方法
収益の課税関係
ここでは、法人が受け取る各種助成金・給付金(以下、助成金等)の会計処理と課税関係について解説します。
法人税、所得税については、新型コロナに対する特別措置は設けられていませんので助成金等は「課税」となります。補助事業の目的は様々ですが、主旨は「収益減少の補填」や「費用増加の一部負担」にあります。いずれの場合も会社が「得をする」ことになりますので、得をした部分については税負担をするのが税法のスタンスです。
ただし、子育て世帯への臨時特別給付金や特別定額給付金は本来課税ですが、令和2年4月20日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」により、家計支援という観点から特別に非課税措置が設けられました。消費税については、助成金等の全額が不課税です。消費税とは本来、国内において事業者が事業として対価を得て行われる取引に課税されます。「対価を得る」とは、例えば商品を販売して見返りとして代金を受け取るような取引を指します。助成金等の受け取りには商品の販売やサービスの提供を伴いませんので、そもそも消費税の課税取引には該当しないからです。
具体的な会計処理方法と収益の計上時期
【会計処理】
・助成金等の支給申請をした時
会計処理は不要です
・助成金等の100万円が支給決定された時
未収入金 | 100万円 | 助成金等 | 100万円 |
・助成金等の100万円を受け取った時
現金 | 100万円 | 未収入金 | 100万円 |
休業があった事業年度内に助成金等の支給額が確定しなかった場合、法人税・所得税では雇用保険法に基づき支給を受ける補助金だけは申請時点で概算額を収益計上しなければなりません。
一般的には経済産業省が支給すれば「補助金」、厚生労働省が支給すれば「助成金」といいますが、経済産業省が支給するものでも持続化給付金のように一定の支給要件を満たせば支給される「給付金」と、要件を満たし審査を経てから支給額が決定される「補助金」があります。
また、厚生労働省が支給するものは要件を満たしたのち審査を経て支給決定される「助成金(給付金)」ですが、小学校休校等対応助成金のように費用の一部(または全部)を負担する「補助金的な意味合いのもの」と母性健康管理措置による休暇取得支援助成金のように雇用改善を図ったことに対する「奨励金的な意味合いのもの」があります。
原則として、助成金等は支給額が確定した時点で収益を計上しますが、補助金的な意味合いをもつ小学校休校等対応助成金については受給額が確定していなくても概算額で収益を計上し、費用である給与・賃金と同一事業年度で計上しなければならないとされています。
「助成金」「補助金」といった名称だけで収益計上時期を判断しないよう、助成金等の制度目的や支給要件、支給額の計算方法を十分に理解したうえで処理する必要があります。
まとめ
ほとんどの給付金(支給金・支援金・協力金など)や助成金などは申請しなければ支給されません。いまだ収束の兆しが見えない新型コロナウイルス感染症の影響から従業員や会社、自分の収入を守るためにも、制度について常に最新の情報を得て正しい理解をもって運用を行いましょう。
自社やご自身にどんな制度が使えるのか、一度専門家に相談してみるのもよいでしょう。
▼参照サイト
- https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/pdf/shien-leaf_corona.pdf
- https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/02.pdf
- https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/pdf/rinji/qa_0501.pdf
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6113.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6157.htm
- https://mirasapo-plus.go.jp/infomation/6915/
- https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_continue.html
- https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_01_06.htm
- https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/18.htm