開業して個人事業主になったら、まず気になるのが税金のことでしょう。どのような税金を支払わないといけないのか、また、それはどれぐらいの金額なのか、節税方法があるのかなど、気になることはいろいろあります。今回は、そのなかでぜひ知っておきたい税金に関する3つのことを解説します。
開業して個人事業主になったら、支払う税金の種類を知ろう
サラリーマンであっても個人事業主であっても支払う税金
一言で税金といっても、いろいろな種類があります。ここではまず、サラリーマンであっても個人事業主であっても支払わないといけない税金について見ていきましょう。
(1)所得税
日本で収入を得た場合は、サラリーマン、個人事業主を問わず国に所得税を納める必要があります。サラリーマンの場合は毎月の給料から源泉徴収されており、最後の調整も年末調整を勤め先の会社が行うので、特に自分ですることはありません。一方、個人事業主の場合は、自ら1年間の収入や経費、納める税金の金額などを計算し、確定申告する必要があります。税金も自分で納付書や振替納税を利用して支払います。所得税では、所得が高ければ高いほど税率が高くなる累進課税制度を採用しています。
(2)復興特別所得税
復興特別所得税は2037年12月31日までに期限付きで課されている税金です。東日本大震災による被災地復興のために財源を確保する必要があることから制定されました。税率は一律所得税の2.1%と決まっています。サラリーマンの場合は毎月の給料から所得税と一緒に源泉徴収されているので特に自分ですることはありません。一方、個人事業主の場合は、確定申告の時に所得税と一緒に支払います。
(3)住民税
住民税は国ではなく、地方自治体に支払う税金です。1年間の所得をもとに翌年6月から支払いを開始します。サラリーマンの場合は毎月の給料から天引きされて支払います。一方、個人事業主の場合は、確定申告書の数字が国から地方自治体に伝えられ、納付書が毎年5月~6月に自宅に届きます。地方自治体により異なりますが、一般的に6月末、8月末、10月末、1月末の年4回に分けて支払います。
個人事業主のみが支払う特有の税金
ここからは、個人事業主だけが支払う特有の税金について見ていきましょう。
(1)個人事業税
個人事業税とは、個人が営んでいる事業に対して課される税金のことです。事業を営んでいない人には課されません。物品販売業や製造業など、法律で定められた70の業種に対して個人事業税がかかります。基本、ほとんどの業種でかかると思っておいた方がよいでしょう。
業種により、所得に対して3~5%の個人事業税がかかります。青色申告特別控除を受ける前の所得が290万円以下の場合は、個人事業税はかかりません。原則、8月末と11月末の年2回、都道府県税事務所から送られてくる納付書により納付します。
(2)消費税等
個人事業主の税金として大きな割合を占めるのが消費税等です。2年前の売上、もしくは1年前の上半期(1~6月)の売上が1,000万円を超えると、消費税等の納税義務があります。消費税の納付義務がある場合は、翌年の3月31日までに消費税の確定申告を行い、納付書または振替納税などで税金を納めます。
(3)償却資産税
償却資産税とは、土地や家屋以外の事業用の資産に対して課される税金のことです。
各資産に対して、市区町村が計算した評価額の1.4%の税率の税金を納めます。ただし、評価額の合計が150万円未満の場合は税金がかかりません。1月1日現在で所有する償却資産を、1月31日までに償却資産申告書に記載し、市区町村に申告します。
償却資産税の納付は市区町村から送られてくる納付書で年4回行います。納付期限は各自治体によって異なりますが、4月末、7月末、12月末、2月末が多くなっています。
(4)事業所税
事業所税は、一定の都市(人口30万人以上)において都市環境の整備や改善についてかかる費用に充てるための税金です。事業所床面積の合計が1,000㎡を超えないと課されないため、通常納めることはありません。
開業して個人事業主になったら、支払う税金の金額を知ろう
個人事業主が支払う所得税の計算方法
上述したとおり、個人事業主は多くの税金を支払わなければいけません。なかでも、やはり気になるのが、所得税と住民税です。ここでは所得税と住民税の簡単な計算方法を解説します。
個人事業主が支払う所得税の計算の仕組みを、簡単に説明すると以下の通りです。
(1)収入から経費を差し引き、所得を求める
(2)求めた所得から、所得控除を差し引き、課税される所得金額を求める
(3)課税される所得金額に税率をかけて税額を求める
(4)(3)に2.1%を掛けて復興特別所得税を求める
具体例を挙げて計算してみましょう。
(例)事業の収入800万円、経費400万円、独身、社会保険料を年間42万円支払った場合
(1)収入から経費を差し引き、所得を求める
(2)求めた所得から、所得控除を差し引き、課税される所得金額を求める
(3)課税される所得金額に税率をかけて税額を求める
所得税では所得が高ければ高いほど税率が高くなる、累進課税制度を採用しています。
<平成27年分以降の所得税速算表>
(http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htmより引用)
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
今回のケースは、課税される所得金額が320万円のため、上記の表の税率10%、控除額97,500円を使って納める税額を計算します。
課税される所得金額320万円×税率10%-控除額97,500円=222,500円
※住宅借入金等特別控除がある場合はここからその控除額を差し引きます。
(4)(3)に2.1%を掛けて復興特別所得税を求める
222,500円×2.1%=4,672円
納付する税額は以下のようになります。
所得税+復興特別所得税=222,500円+4,672円=227,172円→227,100円
個人事業主が支払う住民税の計算方法
ここからは、個人事業主が支払う住民税の計算の仕組みを見ていきましょう。
住民税は均等割と所得割に分かれます。
均等割はその町に住んでいる人に均等にかかる税金です。また、所得割は1年間の所得に対して課される税金です。それぞれ金額は以下のようになっています。
<均等割>(「平成29年度版 税務ハンドブック」より引用)
標準税率 | 復興特別税 | 合計 | |
---|---|---|---|
市町村民税 | 3,000円 | 500円 | 3,500円 |
道府県民税 | 1,000円 | 500円 | 1,500円 |
合計 | 4,000円 | 1,000円 | 5,000円 |
平成35年までは、復興特別税が合計1,000円加算され、合計5,000円の均等割がかかります。
<所得割個人住民税速算表>(「平成29年度版 税務ハンドブック」より引用)
市町村民税 | 道府県民税 | 合計 |
---|---|---|
6% | 4% | 10% |
個人事業主が支払う住民税の計算の仕組みを、簡単に説明すると以下の通りです。
所得控除や税率は異なりますが、基本は所得税と同じ考え方です。
(1)収入から経費を差し引き、所得を求める
(2)求めた所得から、所得控除を差し引き、課税される所得金額を求める
(3)課税される所得金額に税率をかけて税額を求める
所得税と同じ具体例で計算すると次のようになります。
(例)事業の収入800万円、経費400万円、独身、社会保険料を年間42万円支払った場合
(1)収入から経費を差し引き、所得を求める
(2)求めた所得から、所得控除を差し引き、課税される所得金額を求める
※基礎控除は所得税38万円、住民税33万円です。
(3)課税される所得金額に税率をかけて税額を求める
納める住民税は以下のとおりです。
開業して個人事業主になったら、節税の方法を知ろう
節税の基本は、領収書管理
ここからは、個人事業主の節税の方法について確認していきます。
個人事業主には、いろいろな節税方法がありますが、何といっても節税の基本は、領収書をきちんと管理することです。
領収書管理とは、後で領収書を確認したときに、いつ、だれに、何を、何の目的で支払ったのかわかるようにしておくことです。こうすることで、その支出がプライベートな支出なのか、事業の支出なのかの判断につながり、利益や税金がいくらぐらいになりそうかが把握できます。利益や税金が把握できて初めて節税対策をすることができます。
青色申告の制度を利用する
青色申告をすることで、青色申告特別控除の65万円や損失の繰り越し、家族への給料を経費にできる(専従者給与)など、税金を節税できるさまざまな特典を受けることができます。たとえば、青色申告特別控除65万円を使えば、税率10%だと単純計算で6万5千円の節税効果があります。青色申告をするためには、その年の3月15日または開業後2か月以内に「青色申告承認申請書」を所轄税務署に提出する必要があります。
小規模企業共済や経営セーフティ共済(倒産防止共済)を利用する
個人事業主の助けになる制度に、小規模企業共済と経営セーフティ共済(倒産防止共済)があります。小規模企業共済は、毎月掛け金を支払うことで、個人事業主が退職したときに退職金を支給する制度です。また、経営セーフティ共済は、毎月掛金を支払うことで、取引先が倒産し売掛金が回収できない場合に無担保、無保証人で借り入れができる制度です。万が一の備えにも有効ですが、小規模企業共済の掛け金は所得控除に、経営セーフティ共済の掛け金は経費にすることができるので節税にもつながります。
まとめ
今回は、「支払う税金の種類・支払う税金の金額・節税の方法」など、個人事業主になったら知ってほしい3つのことについて解説しました。個人事業主は多くの税金や税額を支払わなければいけません。節税の第一歩は、税金について知ることです。ぜひ、この記事を参考に個人事業主と税金の関係について理解してください。