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相続税の債務控除とは? 控除対象となる債務や注意の必要な債務をご紹介
2021年2月19日
相続財産には相続税が課されますが、債務控除という制度を利用することで、課税対象となる財産総額から一部を控除できる可能性があります。相続税をできるだけ小さく抑えられるよう、あらかじめ債務控除について理解を深めておきましょう。この記事では、債務控除の対象となる債務や注意の必要な債務について解説します。
債務控除とは
債務控除とは、相続税の算出にあたり、借入金や未払金など債務の金額を相続財産の総額より差し引くことができる制度です。ここで債務控除の基本的な考え方を確認しましょう。
財産を相続すると相続税を支払わなければならない
一定の基準を超える金額の財産を相続した人は、相続税を納付しなければなりません。具体的には、遺産に係る基礎控除額(3,000万円と、相続人1人につき600万円をあわせた額) を上回る金額の財産を相続した場合に、相続税の納付義務が生じます。納付税額は、相続財産から基礎控除額を除いた課税遺産総額に対して税率をかけた金額から、さらに一定の控除額を差し引くことで計算されます。税率は、課税遺産総額が1,000万円の場合は10%、6億円超の場合は55%、というように変動するため、課税遺産総額が高くなればなるほど高い税率が課される仕組みだといえるでしょう。
相続されるのはプラスの財産だけではない
相続といえば、現預金や不動産、有価証券などのプラスの財産を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、相続される財産にはマイナスのもの、つまり負債も含まれます。死亡した人が借入金や未払金といった債務を負っている場合、その人の財産の相続人が債務を負って返済しなければなりません。
「確実な債務」が控除の対象になる
借入金や未払金といったマイナスの財産は、相続税を算出するときに財産の総額から控除できます。死亡した人の債務を引き継がなければならないというのは相続人にとって多大な負担であるように思えますが、債務控除の仕組みがあることで多少は負担が軽減されるといえるのです。
ただし、控除できる債務は被相続人が死亡した時点で支払うことが確実であったと認められる債務に限られます。具体的にどのような債務を控除できるのか、この後詳しく説明します。
対象となる債務
それでは、具体的にどのような債務が控除を適用できるのか、確認しましょう。債務控除の対象には、大きく分けて債務と葬式費用の2種類があります。
債務
すでに説明したとおり、債務のなかでも被相続人の死亡時点で支払うことが確実であったものが対象になります。「確実な債務」とみなされる債務には、例えば以下のようなものがあります。
- 銀行などの金融機関や個人からの借入金
- 住宅などのローン残高の未払い分
- 住民税や固定資産税などの租税公課の未納分
なお、被相続人が死亡した時点で納税の通知がまだ来ていない場合も、課税の決まる基準日より後に死亡したのであれば、死亡した時点で支払うことが決定しているため債務控除を適用できます。例えば固定資産税の場合、1月1日時点で所有している土地や建物が課税対象となるため、被相続人が1月2日に死亡した場合でも、その年の6月や9月といったタイミングで納税の通知が来ることになります。この納税通知により相続人が支払わなければならない固定資産税は、債務控除を適用できます。
また、債務控除の申告を行った後に税額が変更になった場合は修正申告や更正の請求ができます。 - 水道光熱費、医療費などの未払金
特に被相続人が死亡する前に入院していたというときに、医療費が未払いになっているケースが多くあります。
なお、被相続人にかかる医療費は、その被相続人と生計を一にする相続人の確定申告において、医療費控除を適用できます。 - 賃貸に出している不動産の敷金などの預り金
- 買掛金など事業にかかわる未払金
葬式費用
葬式費用は一般にいう債務ではありませんが、被相続人が死亡した際に相続人が負担するのが通例であることから、相続財産の総額から控除することが認められています。具体的には以下のような費用が該当します。
- 火葬や納骨など、葬式や葬送にともない発生する費用
ただし、仮葬式と本葬式を行った場合は、その両方で発生した費用が対象になります。 - 遺体の捜索、遺体や遺骨の回送・運搬にかかる費用
- 葬式の前後に生じる費用のうち、通常の葬式には欠かせないと判断される費用
例えば、葬式・お通夜の費用、食事代、会葬御礼費用、手伝ってくれた人への心付けが挙げられます。 - 読経料や戒名料、お布施など、葬式に際してお寺などに支払う費用
- 死亡診断書の作成にかかる費用
注意の必要な債務
次に挙げる債務は、債務控除を適用できますが、申告にあたり以下の点に注意しましょう。
- 連帯債務の一部 被相続人が連帯債務を負っており、その金額が明らかである場合は、その被相続人が負っていた債務額のみを控除できます。
- 親族など特殊な関係にある人からの借入金
親子間などでの借入金の場合、返済日や利息などの取り決めが曖昧になっていることも多いです。その状態で返済もされていないとなると、借入ではなく贈与にあたるのではないかと指摘を受け、税務署による細かい調査が入ることがあります。 - 未払いの所得税や消費税(個人事業主の場合)
未払いの所得税や消費税には債務控除を適用できます。ただし、被相続人が個人事業主などの場合は準確定申告をする必要があります。準確定申告の期限は、未払い分の納税とあわせ、被相続人が死亡したことの分かった翌日から4ヶ月以内となっています。
対象とならない債務
次に挙げる債務は、「確実な債務」とはみなされないなどの理由から債務控除の対象にはなりません。
死亡後に発生する債務・費用
以下の費用は、被相続人の死亡した後に発生するため、相続財産の総額から控除することはできません。
- 被相続人の死亡した後に発生する租税公課や水道光熱費
- 相続の調査や相続財産分割、相続税申告のために、税理士や弁護士に支払う報酬
- 相続登記や相続財産の維持管理にかかる費用
- 遺言執行にかかる費用
- 相続税の申告・納付遅延時の延滞税や加算税
死亡時に確定していない債務
以下の費用は、被相続人の死亡時に確定していないと考えられるため、相続財産の総額から控除することはできません。
- 保証債務 被相続人が、ある債務の保証人になっているというだけでは、被相続人の債務が確実なものであるとはいえません。ただし、その債務の返済の義務が被相続人にある場合、求償権を行使し償還請求をしても補填できない金額に限り債務控除を適用できます。
- 時効となった債務 被相続人が死亡した時点で時効によりすでに消滅している債務は、確実な債務とはみなされません。
- 団体信用生命保険(団信)付き住宅ローン 団信付きの住宅ローンの場合、債務者である被相続人が死亡したとしても団信から残額の支払いがあるため、相続人の債務負担は確実ではないとみなされます。
葬式費用に含まれない費用
葬式関連で発生した費用であっても、以下のものは、債務控除を適用することができません。
- 墓地や墓石、仏壇などの非課税財産にかかる債務
- 香典返しにかかる費用
- 初七日などの法事にかかる費用
相続税申告時のポイント
申告時の必要書類
相続税の申告書には、15種類の様式があります。書類作成のステップは、大きく3つに分けられます。まず、相続税の課税対象となる財産・債務を、第9表から第15表に記入します。次に、第1表と第2表を使い、課税価額と相続税の総額を計算します。最後に、配偶者の税額軽減などの申請のため第4表から第8表を作成することで、控除できる税額を計算します。これらの様式は国税庁のホームページよりダウンロードできます。
相続税の債務控除を受けるためには、第13表の「債務及び葬式費用の明細書」を作成します。債務控除を適用できる債務と葬式費用が明らかになったら、この様式に、債務の種類や債権者、金額などの情報を記入し、相続税の申告書と共に税務署に提出します。どの債務が債務控除の対象となるかの判別さえできていれば、様式への記入自体はそれほど難しくないといえるでしょう。
申告時の注意点
相続税の手続きは、申告・納税ともに、被相続人の死亡が分かった日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。この期限を過ぎると督促状が送付されます。また、納付が遅れた日数分、延滞税が追加徴収されます。それでも納付がない場合は財産差し押さえなどの重いペナルティが課されます。また、期限内に申告をしていない場合や、実際に相続した金額よりも少ない金額で相続財産の申告をした場合など、申告に不備があると、加算税が課されます。相続税の申告漏れや疑いのある申告に対しては、税務署の調査が入るため、相続税の申告は正確に行うよう気を付けましょう。
また、特に債務控除の申告をするにあたっては、領収書やメモをとっておくよう意識するとよいでしょう。そうすることで申告時の書類への記入がしやすくなるだけでなく、税務署による調査が入ったときでも対応しやすくなります。
まとめ
今回は債務控除について、どの種類の債務が対象となるのか、あるいは注意が必要なのかに注目して説明してきました。債務控除には複雑な部分もありますが、できるだけ相続税を少額に抑えられるよう、相続財産の状況を調べたり専門家に相談したりすることで、上手な活用の仕方を見つけられるでしょう。