空き地が増加している原因に、所有者が不明になっている土地の増加が挙げられます。所有者不明土地は、防犯面などのさまざまな問題が生ずるため、国や地方自治体でさまざまな取り組みが行われていますが、令和2年以降、所有者不明土地への対応が変わります。
ここでは、所有者不明土地の変更点などを解説します。
所有者不明土地等の内容と問題点
所有者不明土地等への対応の変更点を見ていく前に、そもそも所有者不明土地等とは何か、どのような問題点があるのかを確認していきましょう。
所有者不明土地等とは
所有者不明土地等とは、その名のとおり、所有者が不明な土地やその権利等のことです。では「所有者が不明」とはどのような状況を指すのでしょうか。
「所有者が不明」とは、不動産登記により所有者が直ちに判明しない状態、もしくは所有者が判明しても連絡がつかない状態のことをいいます。
売買などで土地を取得した場合は、所有権の移転登記を行い、公に自分のものにします。
第三者からの土地の取得の場合は、通常、不動産業者などが仲介するため、所有権移転の登記をし忘れることはありません。
しかし、例えば親族からの売買や、相続による土地の取得の場合は、所有権移転の登記をし忘れることがあります。特に、相続による土地の取得の場合、何代も前の相続から登記を行っておらず、昔に亡くなっている人の名義のままになっていることも多くあります。
所有者不明土地等の問題点
所有者不明土地が増加しだした背景には、人口減少や高齢化により、利用しないまま放置されている不動産が増えたことや、都心部への人口集中が多いことによって地方の土地の活用が少なくなったことなどが挙げられます。
所有者が不明な不動産が増えたことで、さまざまな問題点も生じています。例えば、建物の老朽化が進み、屋根や外壁が剥がれ落ち、通行人にけがをさせたり、草木が生い茂り防犯がしにくくなる、自治体においても固定資産税が徴収できないなどの問題があります。
また、業者がその不動産を事業用や住宅用に購入しようとしても、所有者の探索に多くの時間や費用がかかってしまうために購入できず、所有者不明土地が減らないという問題点もあります。
平成30年に公表された「所有者不明土地問題研究会 最終報告概要」によると、所有者不明土地の増加防止にかかる新たな取組が進まない場合、2040年には全国の所有者不明土地の面積は約720万㏊にのぼるとのことです。北海道本島の土地面積が約780万haであることを考えると、これは相当の面積となります。
これほど大きな面積の土地が、有効活用されていないということは、我が国の経済発展にも大きな影響を与えます。このままでは、ますます所有者不明土地等の問題が大きなものになっていくことが予想されるでしょう。
所有者不明土地等についてのこれまでの取り組み
所有者不明土地等の問題が大きくなっていく中、政府や自治体もさまざまな取り組みを行ってきました。ここでは、所有者不明土地等についてのこれまでの取り組みについて見ていきましょう。
政府は、2017年、2018年、2019年と所有者不明土地等問題解消に向けた骨太方針を示してきました。その中で特に問題視されているのが、相続における登記の問題です。長期間、相続登記が未了な土地の解消を図るために、骨太方針に沿ってさまざまな施策を講じつつあります。
そのひとつが「法定相続情報証明制度」です。法定相続情報証明制度は、平成29年5月から運用された、相続登記を促進させるための制度です。
相続が開始されると、登記や預貯金の払い出しなど、さまざまな手続きを行わなければなりません。その際には、被相続人や相続⼈の戸除籍謄抄本が必要です。被相続人の数が多いと、戸籍謄本などは多くの枚数が必要になるため、手続きが煩雑になります。
法定相続情報証明制度により、被相続人や相続⼈の情報をひとつにした証明書を発行できるようになりました。現在、法定相続情報証明は、国内のほとんど全ての銀行における被相続人の預金の払出し手続にも利用可能な状況にあります。そのため、この制度を利⽤するために登記所を訪れる相続⼈も多く、相続登記の直接的な促しの契機を創出しています。
相続人としても、被相続人や相続⼈の戸除籍謄抄本を取得する手間が省けるため、コストの削減にもつながっています。
所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法について
法定相続情報証明制度よりも、さらに所有者不明土地の解消に力を入れた法律が「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」です。
ここでは、この特別措置法の内容や、さらに直近の取り組みについて見ていきましょう。
所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法とは
所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法とは、平成30年に施行された法律で、所有者不明土地の利用の円滑化を図るものです。この法律のポイントは、次の3つです。
- ①長期間、相続登記がされていない土地について、登記官に所有者の探索に必要な調査権限を付与すること
- ②所有者探索の結果を、職権で、土地の登記簿に反映させるための不動産登記の特例を設けること
→法定相続人等が判明した場合は、登記手続を直接促すこともできます。 - ③所有者が特定することができなかった場合は、適切な管理を可能とする制度の創設
→地方公共団体の長等に財産管理人の選任申立権を付与する民法の特例も設けられました。
所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法では、このように相続登記がなされていない土地をなくすことを目的とした施策を多く定めています。政府は今後も、不動産登記法の改正など、所有者不明土地解消に向けたさまざまな取り組みを行うことを検討しています。
所有者不明土地等に係る固定資産税の課税について
ここまでは、所有者不明土地等に対する国の取り組みについて見てきました。では、都道府県や市区町村などの自治体では、何も取り組みをしていないのかというと、そういうわけではありません。
自治体においても、所有者不明土地等の問題解決にむけて、多くの取り組みを行っています。中でも、税金にかかわる取り組みが、固定資産税の課題への対応です。
所有者が不明な土地の場合、誰から固定資産税を徴収してよいのかわからないという課題がありました。そこで、2020年度税制改正で、土地の使用者を所有者とみなして、固定資産税の徴収ができるようになりました(令和3年度以後の固定資産税について適用)。
土地の使用者を所有者とみなして、固定資産税の徴収を行うといっても、いきなり徴収を行うわけではありません。まずは登記上ではなく、実際に所有している相続人などに、氏名や住所などの必要な情報を申告してもらいます。
調査をしてもなお、所有者が全くわからない場合は、事前に使用者に対して通知をした上で、固定資産税の徴収を行います。
この税制改正により、固定資産税の公平な課税が進むだけでなく、相続登記がされず、所有者が不明となっている土地の解消が進むと考えられます。
まとめ
所有者不明土地等の問題は、もはや個人の問題ではなく、自治体や国に政策にも影響を与える大きな問題となっています。近年、所有者不明土地等の解消に向けてさまざまな施策が行われていますが、今後もこの傾向が進みます。
もしも、相続登記などを行っていない土地を所有している場合は、できるだけ早く、相続登記を済ませておいたほうが良いでしょう。