中小企業が置かれている経済状況は依然として厳しいものですが、そのような状況を打破するためにも強い組織を作り上げることは重要です。全体をまとめ上げて組織を引っ張ることができるリーダーとはどのような人なのか、経営難に陥った会社をV字回復させた凄腕経営者にはどのような特徴があったのか、紹介していきます。
大成功には“ビジョン”がある
どのようなプロジェクトにおいても、数値目標よりも先に“ビジョン”がなければ大成功はありえません。「今月の売上○○円」、「今期営業利益○○円」といった目標が先んじてしまえば、「自分たちはどのような未来に向かって仕事しているのか」というイメージが湧きにくくなってしまい、仕事へのモチベーションが低下してしまいかねません。
“ビジョン”が大成功へと導いた最たる例として、スティーブ・ジョブズの経営が考えられます。Mac OS X、iPod、iPhone、iPad―これらによってパソコン業界、音楽業界、通信業界など、業界全体を巻き込んだイノベーションを引き起こし、従来とは根本的に変わった新しい未来を切り開いたのは言うまでもありません。
iPodでいえば、「音楽を手軽に楽しめる携帯音楽プレイヤーを作りたい」、iPadでいえば「従来のキーボードを使ったテキスト入力は美しくなく、よりシンプルなものが望ましい」といった強いビジョンのもとに、斬新なアイディアが次々と生まれてきました。つまり、これから来る未来、より望ましい未来を語ることが明確な“ビジョン”を持つ、ということなのでしょう。このようなビジョンに共感することによって、人々はワクワクし、その未来の実現に向かって仕事がしたいという力強い意欲も湧いてきます。もしこれが、「売上2倍」などという数字目標であった場合、今のアップルの成功はなかったでしょう。
また、セブンイレブンを設立し、コンビニエンスストアという形態を全国に広め、小売業界を激変させたことで知られる鈴木敏文の経営も力強い“ビジョン”によって支えられていると考えられます。愚直なまでに率直に意見を述べ、顧客目線を徹底的にこだわった経営手法は、「絶えず変化する消費者のニーズに常に寄り添い、消費者の欲しいものを提供するコンビニエンスストアを作りたい」という考えが根本にあったのではないでしょうか。
ビジョンはプロジェクトを成功させる核となるものなので、中途半端なものでは成功しません。シンプルで共有しやすいビジョンを、自信をもって掲げる必要があります。ビジョンが複数あったり、抽象的すぎたり、複雑すぎたりするとビジョンは浸透せず、組織のメンバーがどう仕事に取り組めばいいのか分からなくなり、統制が取れなくなってしまいます。
ときには、「本当にこのビジョンは実現するのだろうか」と不安に思うメンバーも出てくるかもしれません。それに対してリーダーは「絶対に成功させる」という気概を持って振る舞い、メンバーの不安を払拭する必要があります。そのためにもリーダーは、掲げているビジョンを常にメンバーに確認することが大切です。カリスマ経営者の中には、1日に20回以上も部下に「僕たちが目指しているビジョンって何だっけ?」と確認する人もいるといいます。
少し話のスケールが大きくなってしまいましたが、ここで述べたリーダーのあるべき姿については、中小企業の経営者においても同じことがいえるでしょう。iPodやiPhoneなど、世界を震撼させるほどのイノベーションを起こさなくても、自分たちが目指している未来、世界観を常に共有し続けることで、社員のモチベーションを引き上げ、結果的にプロジェクトや事業の成功に繋がるのではないでしょうか。
リーダーが組織を引っ張れ!
明確な成功ビジョンを持ったとして、次にそれを確実にメンバーと共有するためには、リーダーが現場に立つことが一番だと考えられます。頑張らないリーダー、あるいはその姿を見せないリーダーでは、「大層なビジョンを掲げても行動がそれに伴っていない」と評価されてしまいます。自分の掲げたビジョンの達成ために、リーダー自身が実際に現場に立ち、邁進する姿をメンバーに見せることが重要です。
ビジョンを浸透させ、全体のモラルを高める方法は組織の内側からだけではなく、外側からも可能です。例えばあなたがスポーツチームを運営していて、「リーグで優勝する」という目標を掲げていたとします。このとき、外部のメディアの力を借りれば、それをきっかけにチームの士気を高めることができますし、良い成績を残せばさらにメディアで取り上げられ、よりチームの士気が高まるといった好循環も生まれるでしょう。
中小企業に置き換えると、例えば飲食店では口コミサイトやソーシャルメディアの活用などによって自分たちのビジョンを発信してもらい、それによって自社のモチベーションを高めるといった方法も有効です。
一方で、組織を運営していく中でどうしてもビジョンについていけない、信じることができない、といった人も出てきます。このような場合は、説得を諦めて排除するというのもリーダーの仕事です。プロジェクトをスタートする時点からそういった人材はメンバーに選ぶべきではありませんが、仮に選んでしまった場合、彼らは自社の成長の障害になりかねません。
自社のビジョンに共感し、社風に合う人材を集めることは近年重要視される傾向にあり、大企業でも実践されています。これまでは学歴・経歴重視で行われていた採用プロセスも、学生インターンからの採用やリファラルリクルーティングなどに置き換わりつつあるようです。若者の離職率の上昇というのは近年社会問題として取り上げられている通り、中小企業においても、自社のビジョンに共感する人材を確保することが重要であり、そうでない人は排除するといったことが今後求められてくるのかもしれません。
カリスマ経営者カルロス・ゴーンから学ぶリーダー術
みんなが共感できる夢やビジョンを掲げて進めるビジョン駆動型と合理的思考に基づいて、目標となる数字を設定する合理的計算型によって日産自動車のV字回復を成し遂げたカルロス・ゴーン。カリスマ経営者から、その成功の要因を紐解いていきましょう。
コストカッター”のミシュラン・ルノーでの活躍ぶり
カルロス・ゴーンは日産に来る前、フランスの大手タイヤメーカーであるミシュラン社と自動車会社のルノー社でその敏腕をふるっていました。ミシュランでは、現場の工場従業員に積極的に声をかけ、製造の問題点を見つけ出してはその都度改善していきました。その働く姿勢を認められ、わずか2年で工場長に、のちにブラジル・ミシュランの社長にまで上り詰めます。赤字閉鎖間際のブラジル・ミシュランを1年で黒字に転換したり、北米ミシュランの黒字化に貢献したりしました。
そしてミシュランでの活躍が認められ、ルノーにヘッドハンティングされます。当時ルノーは経営難に陥っており、とても好調とは言えない状況にありました。そこでゴーン氏は、ベルギー工場や不採算事務所の閉鎖、調達先の集約や人員の削減などによるコストカットの施策を設け、見事ルノーを再建しました。これにより、“コストカッター”としてカルロス・ゴーンの活躍が世界に知られることになりました。
日産のV字回復を支えた施策とは?
ルノー入社後、カルロス・ゴーンはルノーと日産の資本提携という一大プロジェクトを任され、見事完遂。しかしその日産も、バブル崩壊後、約2兆円もの有利子負債を抱え経営危機に陥ってしまっていました。
そこで、カルロス・ゴーンは両社間の車の部品を共通のものにし、購買の共同化などを進めることで両社の経費削減につなげていきました。さらに、“日産リバイバル・プラン”を発表し、これが達成できなければ経営陣全員が退陣するとまで断言したのです。
そこまでしてカルロス・ゴーンが全力を注ぎ、日産のV字回復を支えた“日産リバイバル・プラン”ですが、その内容は大きく分けて3つあります。
① 2000年度に連結当期利益の黒字化を達成
② 2002年度に連結売上高営業利益率4.5%以上を達成
③ 2002年度末までに自動車事業の連結実質有利子負債を7000億円以下に削減
といったものです。そして3つのプランを完遂するために、カルロス・ゴーンはルノーでの施策と同様に、工場の閉鎖や調達先の削減などを進めていきました。まさにコストカッターたるこれらの施策は目標、意気込み、方法すべてにおいて躊躇ない思い切ったものでした。
カルロス・ゴーンがこのプランにおいて一番大切にしていたことは、「コミットメント」です。「目標を達成できなければ退陣する」という彼の発言、彼が率先して現場で働く姿、責任を負う姿に、落ち込んでいた日産の人々は触発され必死に働いたそうです。こうして、彼の施策は功を奏し、日産の経営状態は見事V字回復。当時12%前後まで落ち込んでいた日産車のシェアも、20%近くまで回復したのです。さらに蓋を開けてみれば、予定よりも1年早く、2003年までに2兆円あまりもの借金を完済することに成功しました。
中小企業でのコストカットを考えてみる
大企業と同じ方法ではダメ
カルロス・ゴーンは“コストカッター”という異名をとりましたが、中小企業の場合のコストカットは大企業に右にならえでよいのでしょうか。
コストカットというと、電気代の節約、通信費の見直しなどを考えると思いますが、これが有効なのは大企業の場合で、従業員の少ない中小企業ではこの削減はあまり効果がないものとなってしまいます。削減するのは事務所の賃料、人件費といったものがより効果的となります。
事務所の賃料は下げられないという固定観念がありますが、賃料は変動するものであり、削減余地のあるコストといえます。家賃の相場など根拠のある具体的なデータを元に交渉すれば、賃料ダウンの可能性もあります。
人件費に関しては、いわゆるリストラが最も効果的な方法ですが、従業員のモチベーションを下げるなど最も弊害が出やすいので、最終手段とした方がいいでしょう。
固定費である賃料、人件費を抑えることができれば、確実にコストが下がるということになります。
従業員のコスト意識を経営者と共有することも大切です。実際にお金を使うのは従業員です。彼ら自身が「自分たちはどのようにお金を使うべきか」「お金を一番生かせる使い方とは何か」を考えて行動できるよう、経営者は従業員へのコスト教育をすべきです。教育には、税理士など専門家のアドバイスをもらうと良いでしょう。正しい知識を伝えることに慣れており、最新の情報を持っていることが多いからです。そうすることで従業員のコストに対する意識が変わっていき、計画的なお金の使い方が出来るようになります。結果、経営に参加していると実感するようになり、モチベーションも上がっていきます。
まとめ
アップルのスティーブ・ジョブズや日産のカルロス・ゴーンから学んだ、カリスマ経営者として組織を引っ張るために必要なことは以下の3つではないでしょうか。
「一貫して、大きく単純明快なビジョンを持つこと」
「ビジョンを支える、細かく具体的な数字目標を掲げること」
「リーダーが現場に立ち、障害物を排除しながら組織を引っ張ること」
言葉にしてみるとシンプルですが、これらを常に意識し、強い組織を作ることはとても難しいことです。中小企業においても強い組織づくりが求められており、それを実現するためには、リーダーとしてどのようなビジョンを掲げるべきで、それを達成するためにはどのような目標を設定すればいいのかを考える必要がありそうです。