法人税や所得税の節税対策には、中小企業だけに認められているものがあります。その中には、「経費で落とせるのが当たり前」といわれている費用も含まれています。しかし、中小企業と認められるのには細かい条件があります。その条件と節税対策について徹底解説します。
そもそも中小企業って何?
一般的に中小企業といえば、規模が小さい会社のことを意味します。しかし、税金の計算時の場合、規模だけで中小企業と決めるわけではありません。節税対策が認められるためには、法人・個人事業主が青色申告で確定申告する必要があります。それでは、節税対策に有利な中小企業の条件について詳しく解説しましょう。
中小企業は2つに分かれる
一口に中小企業といっても、節税対策をする上では大きく2つに分かれます。ひとつは「中小企業者等」であり、もうひとつは「特定中小企業者等」です。それぞれの条件について紹介します。
(1)中小企業者等
次の条件を満たす法人・個人事業主のことを指します。
① 法人
・青色申告で確定申告をする
・株式会社など資本金または出資金が1億円以下
・大企業のグループ会社でない
・NPO法人など資本金または出資金のない場合は従業員が1,000人以下
② 個人事業主
・青色申告で確定申告をする
・従業員が1,000人以下
(2)特定中小企業者等
中小企業者等のうち、次の条件に当てはまるものをいいます。
・資本金または出資金が3,000万円以下の法人
・資本金または出資金のない法人・個人事業主
資本金を減らす・増やさないことで中小企業になれる
大企業が中小企業になるため、従業員の数を1,000人以下に減らすことは現実的ではありませんが、資本金をコントロールすることは可能です。その方法を2つ紹介します。
(1)減資で資本金を減らす
現金預金や借入金などの残高を表示した貸借対照表の官報公告など、減資で資本金を減らす手続きは大変ですが、節税対策の一環として検討する価値はあります。たとえば、資本金1億1,000万円の会社の場合、1億円まで減資すれば、「中小企業者等」の条件の一つを満たします。
(2)出資するとき資本金をなるべく増やさない
実は出資するとき、資本金とは別口に「資本準備金」とすることができます。資本準備金の最高額は出資額の半額までとなります。たとえば、2億円を出資するとします。資本準備金を出資額の半額にすれば、資本金は1億円で済み、「中小企業者等」の条件の一つを満たします。仕訳で示すと次の通りになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 2億円 | 資本金 | 1億円 |
資本準備金 | 1億円 |
実は中小企業だけに認められる節税対策
当たり前に経費で落とせる費用でも、実は中小企業だけに認められている項目があります。おもな費用を2つ紹介します。
30万円未満の備品・消耗品が全額経費に落とせる
一般的に30万円未満のパソコン代は全額経費で落とせるといわれていますが、実は「中小企業者等」だけに認められている特権です。大企業や白色申告の中小企業などは、購入価格10万円未満の備品・消耗品しか全額経費で落とせません。そこで、20万円のパソコンを購入したケースで「中小企業者等」と大企業などを比較しましょう。
(1)中小企業者等
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 経費の計算方法 |
---|---|---|---|---|
消耗品費 | 20万円 | 現金預金 | 20万円 | 全額経費で落とせます。 |
(2)大企業など
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 経費の計算方法 |
---|---|---|---|---|
減価償却費(経費) | 5万円 | 現金預金 | 20万円 | 全額経費で落とせないため、使う年数で按分して減価償却費を計算します。 パソコンを使う年数は4年で計算するため、「20万円÷4年=5万円」だけが経費で落とせます。 |
備品 (資産) |
15万円 |
交際費が経費に落とせるのは中小企業の法人と個人事業主だけ
実は接待費やお歳暮代など交際費を経費で落とせるのは中小企業の法人と個人事業主の特権です。両者に分けて詳しく説明します。
(1)中小企業の法人
大企業のグループ会社を除いた資本金1億円以下の法人が中小企業の法人の対象となります。このような法人を「中小法人」といい、白色申告で確定申告をする場合も含まれます。
経費で落とせる交際費の金額は年間で800万円までとなります。
(2)個人事業主
仕事に関連する交際費なら無制限に経費で落とせます。従業員が1,000人を超える個人事業主も含まれます。
ソフトウェアなどへの投資による中小企業の節税対策
中小企業はソフトウェアなどへ多額の投資をした場合、特別に税金を下げることができます。節税対策の方法は大きく2つに分かれます。
「中小企業者等」の節税対策である特別償却
購入したタイミングで全額経費として落とせない固定資産は、使う年数で按分した減価償却費だけを経費で落とすのが基本的なルールです。しかし、普通の減価償却とは別口に、さらに購入価格の何割かを追加で経費として落とせるのが特別償却です。100万円のソフトウェアを購入したケースで、特別償却をする・しない場合を比較しましょう。
(1)特別償却をしない場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 経費の計算方法 |
---|---|---|---|---|
減価償却費(普通の分) | 20万円 | ソフトウェア(経費で落とす金額) | 20万円 | 使う年数は5年で計算するため、減価償却費は100万円÷5年=20万円です。 |
(2)特別償却をした場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 経費の計算方法 |
---|---|---|---|---|
減価償却費(普通の分) | 20万円 | ソフトウェア(経費で落とす金額) | 50万円 | 普通の減価償却費にプラスして、特別償却の分だけさらに経費で落とせます。 割合は購入価格の30%であり、特別償却は「100万円×30%=30万円」です。 |
減価償却費(特別償却の分) | 30万円 |
「特定中小企業者等」の節税対策である特別控除
投資にする節税対策は経費として落とす方法だけはありません。住宅ローン控除と同じように、税金から直接控除する方法があります。それが特別控除です。計算方法は購入金額に一定の割合を掛けます。たとえば、100万円のソフトウェアを購入した場合、「100万円×7%=7万円」が法人税や所得税から直接控除できます。
特別償却と特別控除のメリット・デメリット
同じ節税対策でも、特別償却は購入した年度に経費で落とす金額が多くなり、特別控除は法人税や所得税から直接控除します。計算方法の違いで、メリット・デメリットが生じます。
(1)トータルでの節税効果は特別控除のほうが有利
特別償却は購入した年度に前倒しで経費として計上します。そのため、使う年数のトータルで見た場合、固定資産の購入価格を減価償却費として経費で落とせる金額は特別控除と同様です。
一方、特別控除は経費で落とした金額分の節税効果に加えて、さらに固定資産の購入金額に一定の割合を掛けた金額が法人税や所得税から控除できます。
例)100万円のソフトウェアを購入した場合
節税対策の種類 | 使う年数のトータルでの節税効果(法人の場合) |
---|---|
特別償却 | ・減価償却費:100万円×税率30%=30万円 |
特別控除 | ・減価償却費:100万円×税率30%=30万円 ・特別控除:100万円×7%=7万円 ・合計額:37万円 |
(2)購入した年度は特別償却のほうが節税効果あり
例)100万円のソフトウェアを購入した場合
節税対策の種類 | 購入した年度の節税効果 |
---|---|
特別償却 | ・経費で落とせる金額:100万円×30%=30万円 ・節税効果(法人の場合):30万円×税率30%=9万円 |
特別控除 | ・節税効果:100万円×7%=7万円 |
(3)購入した年度が赤字の場合は特別償却のほうが有利
特別控除は黒字で法人税や所得税が発生しないと控除できません。一方、特別償却は購入した年度が赤字でも、翌年以降の所得からマイナスすることが可能です。
(4)資産をリースした場合は特別控除だけが認められる
たとえば、1,000万円の印刷機をリースした場合は、特別償却は認められません。しかし、特別控除は認められます。
特別償却・特別控除の対象となる投資する資産の範囲
特別償却・特別控除の種類はいろいろありますが、中小企業投資促進税制の中でも「中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却または税額控除」を取り上げます。
資産の種類 | 購入金額 | 料率 | 条件 | 対象となる主な業種 | 対象とならない業種 |
---|---|---|---|---|---|
機械及び装置 | 160万円以上 | ・特別償却:購入金額×30% ・特別控除:購入金額×7% |
・新品であること(中古は認められません) ・使用すること(たとえば、梱包したままでは認められません) |
・製造業、卸売業、小売業、サービス業など | 不動産業、物品賃貸業、電気業、水道業、映画業を除いた娯楽業、風俗業など |
工具器具備品 | 120万円以上 | ||||
ソフトウェア | 70万円以上 |
意外と侮れない住民税の均等割の節税対策
基本的に住民税の均等割は赤字でも課税されますが、法人と個人事業主では金額が異なります。それでは、詳しい内容を見ていきましょう。
赤字でも課税される均等割の計算方法
個人事業主は規模に関係なく同じ金額の均等割に対して、法人は規模によって金額が異なります。法人の規模の目安となる項目は次の通りです。
項目 | 備考 |
---|---|
資本金等 | 出資した金額(基本的に資本金と資本準備金を合計した金額) |
従業員数 | 各都道府県や各市区町村の従業員で見ていきます。(全社の従業員数ではありません) |
拠点数 | 各都道府県や各市区町村にある拠点数で見ていきます。(たとえば、同じ市区町村に2つの拠点があっても、拠点数は1つとカウントします) |
法人と個人事業主の均等割の金額
具体的には法人と個人事業主の均等割の金額は次の通りです。
(1)個人事業主
住民税の種類 | 均等割額 |
---|---|
市町村税 | 3,500円 |
県民税 | 1,500円 |
合計 | 5,000円 |
(2)法人
資本金等と拠点ごとの従業員数で、東京都町田市を例に各都道府県や各市区町村の均等割を見ていきます。(市区町村によって均等割の金額は多少異なります)
都道府県 | 市区町村 | |||
---|---|---|---|---|
資本金等の金額 | 都道府県の均等割額 | 資本金等の金額 | 市区町村内の従業者数 | 市区町村の均等割額 |
なし | 年2万円 | なし | 従業者数による区別なし | 年5万円 |
1,000万円以下 | 1,000万円以下 | 50人以下 | ||
50人超 | 年12万円 | |||
1,000万円を超え1億円以下 | 年5万円 | 1,000万円を超え1億円以下 | 50人以下 | 年13万円 |
50人超 | 年15万円 | |||
1億円を超え10億円以下 | 年13万円 | 1億円を超え10億円以下 | 50人以下 | 年16万円 |
50人超 | 年40万円 | |||
10億円を超え50億円以下 | 年54万円 | 10億円を超え50億円以下 | 50人以下 | 年41万円 |
50人超 | 年175万円 | |||
50億円を超え | 年80万円 | 50億円を超え | 50人以下 | 年41万円 |
50人超 | 年300万円 |
続いて、次の会社を例に均等割を計算しましょう。
資本金等 | 1,000万円 |
---|---|
拠点と従業員数 | 東京都町田市5人 |
神奈川県厚木市8人 |
均等割の計算
拠点 | 都道府県 | 市区町村 | 均等割の合計 |
---|---|---|---|
東京都町田市 | 東京都2万円 | 町田市5万円 | 14万円 |
神奈川県厚木市 | 神奈川県2万円 | 厚木市5万円 |
まとめ
中小企業ならでの節税対策は他にもたくさんあります。中小企業と認められるために資本金や従業員数など規模の条件を満たすのは簡単です。しかし、開業しても青色申告で確定申告をするハードルは少し高くなるため、白色申告で確定申告をするケースもあります。節税対策に不利とならないためにも、まずは開業と同じタイミングで青色申告の申請をしましょう。