車を購入した場合、購入費用の全額を経費で落とすことはできません。しかし、自動車ローンを組むと年間の現金支出額よりも多く経費に計上できる場合があります。それが減価償却の「定率法」という計算方法です。もちろん節税効果は抜群。そこで減価償却の定率法について解説します。
そもそも減価償却の定率法とは?
減価償却の計算方法はいろいろあります。その中でも、定率法は他の計算方法と比べて独特です。
車の減価償却の計算方法は主に3種類ある
そもそも減価償却とは、車の使用に伴い消耗する金額を見積もって経費で落とす計算方法です。そのため、購入費用を耐用年数という税法上の使用可能期間で、複数年にわたって減価償却費に計上します。しかし、計算方法によって、経費で落とせる減価償却費の金額が違ってきます。その計算方法は主に3種類あります。
(1)定額法
車の購入費用を毎年均等に経費で落とす計算方法です。計算式は次の通りです。
車の消耗は毎年同じであることを前提にしているため、経費で落とせる金額は毎年均等です。
(2)リース期間定額法
リース会社に所有権のある車をリースしたときに用いる計算方法です。計算式は次の通りです。
基本的に支払ったリース料が経費で落とせます。そのため、減価償却費は毎年均等であり、現金支出額と一致します。
(3)定率法
定率法は前倒しで減価償却費を計上することが特徴です。計算式は次の通りです。
①車を購入した年
②2年目以降
※車の帳簿価額は「車の購入費用―過去に計上した減価償却費の累計額」で計算します。
購入した年から前倒しで消耗することを前提に減価償却費を計算するため、経費で落とせる金額が毎年違ってきます。
なお、定額法と定率法で用いる償却率は耐用年数が短いほど数値は高くなります。その結果、経費で落とせる金額が多くなります。
ローンで車を購入した場合は年間の減価償却費が現金支出額を上回る
車をローンで購入すると支払金額は毎月同額なのが普通です。そのため、毎年の現金支出額は均等になります。
一方、定率法は前倒しで減価償却費に計上します。そのため、車を購入した年は「経費>現金支出額」となります。
そこで、新車100万円を5年間のローンで購入したケースで減価償却費をシミュレーションしましょう。なお、使用方法を営業車(耐用年数6年)と貨物自動車(耐用年数5年)に分けて計算します。
使用年数 | 営業車の減価償却費 (償却率:0333) |
貨物自動車の減価償却費 (償却率:0.400) |
ローンの年間支払金額 |
---|---|---|---|
1年目 | 33万3,000円 | 40万円 | 20万円 |
2年目 | 22万2,111円 | 24万円 | 20万円 |
3年目 | 14万8,148円 | 18万円 | 20万円 |
4年目 | 9万9,115円 | 9万円 | 20万円 |
5年目 | 9万9,115円 | 8万9,999円 | 20万円(完済) |
6年目 | 9万7,510円 | 0円 | 0円 |
購入した年は減価償却費が現金支出額よりも多いのはもちろん、耐用年数が短いほど前倒しで経費として落とせる金額の大きいことが分かります。
また、その年度の途中で車を購入した場合には、年間の減価償却費のうち、その年度で使用した月数により按分します。たとえば、個人事業主が新車の営業車100万円(耐用年数6年、償却率0.333)を7月に購入したとします。その年でその年度で使用した月数は6カ月となり、定率法で計算すると減価償却費は次のように計算します。
以上から車を用いた節税は購入時期がその年度の始めに近いほど効果が高くなります。反対に決算日の間際に購入しても、その年度で使用した月数が短いため、減価償却費の計上できる金額は少なくなります。
中古車を購入すると税金はさらに安くできる
一般的に中古車を購入したほうが節税効果は高いといわれています。使用可能期間が新車よりも短いのが普通だからです。減価償却費の計算でもその点を加味します。
中古車の場合は新車よりも多く減価償却費が計上できる
中古車は使用可能期間が短いため、新車の耐用年数よりも短いのが特徴です。そのため、償却率は高くなり、減価償却費に計上できる金額が多くなります。中古車の耐用年数の算式は次の通りです。
たとえば、2年使用した中古の営業車を購入したとします。新車の場合の耐用年数は6年です。その場合の耐用年数は次の通りです。
4年落ちの営業車は年間の減価償却費が購入金額のほぼ同額である
「4年落ち」とは4年間使用したことを指します。4年落ちの営業車を購入した場合、定率法で計算すると節税効果が抜群です。
例)4年落ちの営業車(新車の耐用年数6年)を100万円で購入した場合
耐用年数2年における定率法の償却率100%
定率法による年間の減価償却費は次の通りです。
車の購入費用100万円のうち4年落ちの営業車は残存簿価1円を差し引いたほぼ全額に近い99万9,999円が減価償却費に計上できます。
定率法で減価償却費を計算するための条件
車の減価償却費の計算方法は主に3種類ありますが、無条件で定率法を選択できるわけではありません。税務署への届出など細かい条件が定められています。その詳細について見ていきましょう。
車の減価償却費の計算方法は定率法を選択する
定率法を選択するための大前提は車を購入することです。正確にいえば、車の所有権を自分の物にすることを意味します。
言い換えれば、車をリースで使用する場合は減価償却費の計算はリース期間定額法で行い、定率法を選択することができません。
そこで、車を購入した場合における減価償却費の計算方法について、法人と個人事業主に分けて説明します。
(1)法人
減価償却費の計算方法について税務署へ届出をしなければ、自動的に定率法が選択されます。そのため、特に手続きの必要はありません。
(2)個人事業主
法人と異なり、税務署へ届出をしないと減価償却費の計算方法は自動的に定額法が選択されます。定率法を選択するためには、確定申告の申告期限(3月15日)までに税務署に届出書を提出する必要があります。
たとえば、個人事業主が平成28年まで定額法で減価償却費を計算していたとします。平成29年から定率法を選択するためには、確定申告の申告期限である平成30年3月15日までに税務署へ届出書を提出しなければなりません。
税務署へ届出した減価償却費の計算方法は基本的に変更できない
減価償却費の計算方法を定額法や定率法などの選択をすると基本的に3年間は変更できません。たとえば、車の減価償却費を今年は定率法、来年は定額法といったように自由に選択することは不可能です。
特に個人事業主は注意が必要です。減価償却費の計上は強制的だからです。たとえば、今年は車の減価償却費100万円を計上するとします。そのとき、利益と所得税率が低い理由で減価償却費を60万円だけ計上して、所得を自由に調整することは認められません。そのため、個人事業主の場合、車の減価償却費の計算方法を慎重に選択する必要があります。
まとめ
定率法で減価償却費を計算したほうが車の購入による節税効果は得られます。しかも、中古車のほうが新車よりも耐用年数が短くなり償却率は高くなります。その典型的な例が4年落ちの営業車であり、償却率は100%です。車の購入による節税を考えるなら、年度の始めに購入して定率法により減価償却費を計算することがポイントといえます。
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2106.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5404.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5410.htm
- http://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/21.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5407.htm