給与に関しては、「手取り」や「額面」といったものがありますが、それぞれの意味は大きく違っています。今回は給与がどのように計算されているのかを詳しく説明します。
給与は大まかに、以下のような式によって計算されます。
総支給額-控除額=差引支給額
差引支給額が「手取り」と呼ばれる額で、自分の手元に入ってくる金額になります。給与計算にあたっては、総支給額と控除額がどれくらいになるかで差引支給額が決定されるので、総支給額と控除額の計算方法を詳しく知ることが重要になります。
総支給額
総支給額とは、いわゆる「額面」の金額です。総支給額は一般的な固定給制、または固定給+歩合給制の給与システムを採用している企業では基本給と諸手当を足し合わせたものとして計算されます。諸手当の中には支給額が固定されているものと、毎月変動するものがあります。前者には役職手当、資格手当、家族手当、住宅手当などが、後者には精勤手当、営業手当、時間外・休日・深夜労働手当などがあり、どのような種類の手当があるのかは会社によって異なります。
一方で、給与システムに完全歩合制を採用している企業に関しては、基本給と呼ばれるものがなく、すべて売り上げや業績による成果によって総支給額が計算されます。
給与の算出にあたって税金の計算も行われますが、諸手当の中には課税対象になるものとならないものがあります。原則としては、労働者に支給される手当は給与所得の一部として扱うため課税対象となりますが、例外的に次のような手当は非課税となります。
● 通勤手当のうち、一定金額以下のもの
● 転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの
● 宿直や日直の手当のうち、一定金額以下のもの
また、宿日直者などに支給される食事や制服などの現物給与の中には、法令などによって非課税となるものもあります。
中小企業で優秀な人材を確保するためにも、大企業のように年功序列で基本給を決めるのではなく、成果報酬型の給与体制にしたほうが従業員のモチベーションも上がる可能性もあります。一方で成果報酬型は、従業員にとっては給与が不安定になってしまうので、収入が安定した固定給制を導入したほうが良い場合もあります。
業界、自社のカラーなどに合わせて適切な給与体制を構築する必要があります。
控除額
労働者に賃金を支給する前に、まず税金などの金額をあらかじめ除いておく必要があります。控除額の中には、社会保険、税金、その他の控除の3種類があります。
社会保険
健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険などを合わせて社会保険と呼びます。
社会保険の加入条件は、平成28年9月末までは、一般的に週30時間以上働く人となっていましたが、平成28年10月に適用が拡大されたことによって、従業員が501人以上の会社で週20時間以上働く人まで加入対象が広がっています。
健康保険、厚生年金保険、介護保険にかかる費用は、労働者と会社側で折半するということになっているので、本人が実際に負担する額は半分になります。保険料の計算の際には、報酬月額によって分類された標準報酬月額という値に保険料率をかけることで計算されます。保険料率は、時期や地域などによって異なります。例えば、平成28年9月分の東京都においては、健康保険が9.96%、厚生年金保険が18.182%という保険料率となっています。
また、介護保険は健康保険に付随するものとなっており、40歳以上65歳未満の人は介護保険第2号被保険者として、健康保険料率に介護保険料率が加算された保険料率が適用され、介護保険料として負担することになります。さらに、65歳以上の方を第1号被保険者として扱い、保険料は地域や所得によって大きく変わってきます。
雇用保険は、1か月の総支給額に雇用保険料率をかけることで計算されます。保険料率は平成28年4月のもので1.1%となっており、0.7%分が事業主負担、0.4%分が被保険者負担となっています。
社会保険に関する控除額は上記の保険料が加算されたものになります。労災保険も社会保険の一種ですが、全額を事業主が負担することになっているので控除額には含まれません。
税金
控除額に含まれる税金には、おもに所得税と住民税があります。
所得税
所得税は本来従業員が税務署に払うものですが、会社が給料から差し引くという形で納税が行われます。具体的な税額は複雑な計算によって算出されますが、年間の給与が103万円以下の場合には所得税は発生しません。以下に、所得税の計算手順を示します。
①まずは、総支給額から給与所得控除額を計算し、その分を差し引きます。給与所得控除額は収入金額によって異なりますが、最低でも65万円は控除されます。
②その後、14個ある控除のうち該当するものを探し、その金額分控除します。これらの控除のことを所得控除といいます。所得控除の種類は以下の通りで、このうち基礎控除はすべての人に認められており、38万円が控除できます。
● 雑損控除:災害、盗難、横領などによって、資産について損害を受けた場合
● 医療費控除:自身や配偶者などのために医療費を支払った場合
● 社会保険料控除: 自身や親族の社会保険料を支払った場合
● 小規模企業共済掛金控除:小規模企業共済法に規定された掛金等を支払った場合
● 生命保険料控除:生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合
● 地震保険料控除:地震の損害のための保険料等を支払った場合
● 寄付金控除:国や地方公共団体などに対し、特定寄付金を支出した場合
● 障害者控除:自身または扶養親族等が税法上の障害者に当てはまる場合
● 寡婦(夫)控除:自身が寡婦(夫)である場合
● 勤労学生控除:自身が勤労学生である場合
● 扶養控除:税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合
● 配偶者控除:税法上の控除対象配偶者(年間収入が103万円以下)がいる場合
● 配偶者特別控除:税法上の控除対象配偶者(年間収入が103万超141万未満)がいる場合
● 基礎控除:納税者に一律に適用
③総支給額からこれらの控除分を差し引いた課税所得に、税率をかけたものが暫定的な所得税額になります。税率は課税所得の額に応じて5%から45%で7段階に区分されています。
④ ③で算出した税額からさらに税額控除が差し引かれます。税額控除には以下のようなものがあります。
・配当控除:剰余金の配当などの配当所得がある場合
・外国税額控除:日本で課税される所得の中に外国で生じたものがあり、それが外国で課税される場合
● 政党等寄付金特別控除:政党や政治資金団体に対して一定の寄付金を支払った場合
● 公益社団法人等寄付金特別控除:公益社団法人や学校法人等に一定の寄付金を支払った場合
● 住宅借入金等特別控除:住宅の新築や増築にあたり、住宅ローンを支払っている場合
④で税額控除を差し引いた際の差引所得税額に対し、復興特別所得税が課税されます。差引所得税額に税率の2.1%をかけたものです。
④で計算した差引所得税と⑤で計算した復興特別所得税を加算したものが、支払うべき所得税の額になります。
毎月労働者の給与から控除される所得税の額は、1年を通して見込まれる値を予想して計算しているものです。したがって、1年たった際に源泉徴収した額と実際に発生する所得税の額が異なった場合にはその分を補填する必要があります。このことを年末調整といいます。所得税には控除される項目が多いので、実際に発生する所得税は源泉徴収税額より少ないというケースが多くあります。
住民税
住民税の計算は、市区町村が計算してその額に関する書類を勤め先に送付します。したがって自分で計算する必要はありませんが、その額を計算で把握することは可能です。
①所得税の②までの計算手順と同様に総支給額に対して控除される額を計算し、課税される所得額を算出します。控除の種類はほとんど変わりませんが、控除される額が異なるので注意が必要です。また、計算には前年の所得が適用されるという点も重要です。
②住民税には市町村民税と都道府県民税があります。それぞれに所得割と均等割というものがあり、所得割は所得に応じて額が変動し、均等割は所得に関わらず一定の値となっています。①で計算された課税される所得額に対して、それぞれの税率(市町村民税は6%、都道府県民税は4%)をかけたものが所得割で、それに均等割を足したものが税額となります。均等割は自治体によって異なります。
③ ②で求めた税額から、調整控除と呼ばれる額を差し引きます。調整控除の額は課税される所得額が200万円以下かそうでないかで変わってきます。
200万円以下の場合、所得税との控除額の差と、課税される所得額のいずれか小さい方に5%をかけたものが調整控除額になります。
200万円を超える場合、
(所得税との控除額の差-課税される金額+200万円)×5%
が調整控除額になります。
④ ③で計算した調整控除を差し引いた分の額が1年間で支払う住民税の額となり、総支給額から差し引かれることになります。
スタートアップの事業者や、本業が忙しく給与計算などの経理作業に時間を割くことのできない経営者の方は、税理士に給与計算を依頼するのもひとつの手でしょう。自社の業種や経営状況に合わせた、適切なアドバイスを行える税理士と一緒に経理業務を行えば、しっかりとした経営基盤を作り上げることができるはずです。
まとめ
給与計算において、特に控除額の計算には複雑なものが多く含まれています。自分で会社を立ち上げるなどした際には、それぞれの控除額計算で漏れがないか、しっかり確認するようにしましょう。