医療費控除を受けるには、会社員も確定申告を行う必要があります。確定申告に馴染みが薄いとハードルが高く感じるかもしれませんが、現在はスマホを活用した確定申告の簡略化が進み、給与所得などはスマホだけで確定申告が完結できるようになっています。
ここではスマホで医療費控除の手続きを行う方法について解説します。
スマホで医療費控除するやり方
では、スマホで医療費控除の手続きをする手順を見てみましょう。
(1) 国税庁の専用サイトにアクセスする
スマホで「国税庁 確定申告書等作成コーナー」のサイトを表示し、「作成開始」ボタンを押します。
(2)申告内容に関する質問に答える
「申告内容に関する質問」に答える。最後に提出方法を選択する指示があるので、マイナンバーカードとマイナンバーカード読み取り対応のスマートフォンを持っている人は「マイナンバーカード方式」、それ以外の人は「ID・パスワード方式」を選びます。
【マイナンバーカード方式を選ぶ場合】
「マイナポータルAP」アプリをインストール後、「e-Taxログイン」画面が表示されるので、マイナンバーカード方式の利用開始手続きを行います。その後、利用者情報の入力を行い、利用者識別番号を取得します。この過程で、マイナンバーカードをスマホで読み取る作業が発生します。
最後に「送信結果」という画面が出ると、マイナンバーカード方式の登録が完了します。「次へ」ボタンを押すと、申告書の入力操作が始まります。
「入力内容の確認」画面で入力内容を確認し、送信ボタンを押すと、「利用者識別番号の通知希望確認」画面が表示されるので、「OK」を押します。
「送信結果」を確認し「次へ」を押すと、申告書の入力画面に移ります。
【ID・パスワード方式を選ぶ場合】
「ID・パスワード方式」を選ぶと、申告内容に関する質問が引き続き表示されるので該当するボタンを押して進み、「次へ」ボタンを押します。
「利用規約の確認」画面で利用規約を確認後、「同意して次へ」ボタンを押すと、「利用者識別番号等の入力」画面が表示されます。「ID・パスワード方式の届出完了通知」に記載されている利用者識別番号と暗証番号を入力し、「次へ」を押すと、申告書の入力画面に移ります。
(3)所得の入力を行う
所得を入力します。会社員の場合は、給与にチェックを入れると「給与所得の入力」画面が表示されます。源泉徴収票を見ながら支払金額や所得控除の額の合計額、源泉徴収額などを入力します。「次へ」のボタンを押すと、「控除の入力」画面が表示されます。
(4) 控除の入力
「控除の入力」画面に表示されている「医療費控除」のボタンを押すと、医療費控除の入力画面が表示されます。「医療費控除を適用する」にチェックを入れ、「次へ」ボタンを押すと、「入力方法の選択」画面に以下のような選択肢が出ます。
- (ア)医療費の領収書から入力して、明細書を作成する
- (イ)医療費の合計額のみ入力する(別途作成した明細書を提出してください)
- (ウ)医療費通知(「医療費のお知らせ」など)や領収書から入力して、明細書を作成する
医療費通知を持っていない場合は、(ア)を選びます。
(ア)を選ぶと、「医療費の入力」画面に切り替わわるので、医療費の金額を入力します。1枚の領収書ごとに入力するのではなく、先ほど集計をする際に分けたグループに従って、「医療を受けた方」「病院・薬局などの支払先の名称」「医療費の区分」ごとにまとめ、その合計額を「支払った医療費の額」に入力します。また、そのうち、生命保険などで補てんされている部分があれば、その金額を入力します。
(5) 本人情報や還付金振込口座を入力し、申告書データを送信すれば完了です。「次へ」を押すと、申告書の保存画面が表示されるので、スマホに保存しておくことをおすすめします。
医療費控除とは~医療費になるものとならないものがある~
1年間の収入から経費を差し引いた所得(=もうけ)をもとに所得税が計算されますが、その過程でさまざまな控除が適用されます。一定額以上の医療費がかかった場合は、医療費控除が所得から差し引かれます。
ここでは、医療費控除の計算方法や、対象となる医療費について説明します。
医療費控除の申請は確定申告で行う
医療費控除の申請は確定申告で行う必要があります。確定申告とは、日本の税制において、所得税や法人税などの税金を納めるために必要な手続きのことです。毎年、1月1日から12月31日までの1年間の所得や経費などを計算し、その結果に基づいて税金を申告します。
確定申告は、個人や法人が自己申告制度に基づいて税金を納めるための手続きです。具体的には、所得税や住民税、法人税などを申告し、納税するための書類を提出します。
個人の場合、給与所得や事業所得、不動産所得などの収入や、医療費などの経費を計算し、その差額を所得として申告します。そして、所得に応じて税金を納めなければなりません。
また税金の還付や控除などの特典を受けるためにも必要です。申告期限は、通常3月15日までとなっていますが、期限を過ぎると遅延税や罰金が課される場合がありますので、注意が必要です。
医療費控除については5年前までにさかのぼって申告できます。確定申告は郵送だけでなく、ウェブでの申請もできるので、忘れずに行う必要があります。
会社員と個人事業主の違い
最初に会社員と個人事業主の違いについて、確認しておきましょう。「所得」といっても、両者には違いがあるのです。
◆会社員
サラリーマンが会社から毎月もらう給料やボーナスは、「給与所得」です。この給与所得からは、毎月、所得税が源泉徴収(天引き)されています。源泉徴収額は「仮計算」に基づくものなので、毎年12月末に、納めた税額に過不足がないか、再計算が行われます。これが年末調整です。
このように、通常は会社が納税を代行してくれるのですが、医療費控除を受けるためには、前述の通り確定申告しなくてはなりません。副業をしている場合にはやはり確定申告が必要ですから、それらと併せて申告を行うことになります。この確定申告は、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」からスマホで行うことができます。
ただし、副業の所得が事業所得や不動産所得だと、確定申告書等作成コーナーで、青色申告決算書・収支内訳書を作成する場合に限られます。副業収入が年間20万円以内であれば、雑所得となるため、問題なくスマホで完了できます。
◆個人事業主
個人事業主の所得は、基本的に「事業所得」です。個人は、自らの責任で日々の帳簿の作成(記帳)を行い、所得と納税額を計算して確定申告を行う必要がありますから、医療費控除がある場合には、そこにカウントします。
個人の確定申告も、確定申告書等作成コーナーを経由して、スマホで行うことが可能です。ただ、事業の規模によっては、記帳を含めた申告前の作業を軽減できる確定申告ソフトなどを使ってPCから行ったほうが、効率的なケースが多いかもしれません。
医療費控除の計算方法
医療費控除は、申告する人とその家族(生計を一にしていることが条件)が1月1日~12月31日に支払った医療費のうち、一定の金額を超えた分について、決められた計算式で算出した金額を所得の合計から差し引くものです。医療費控除の金額の計算方法は以下のとおりです。
※2「保険金などで補填される金額」とは、生命保険などの契約で支給される給付金や、健康保険などで支給される高額医療費・出産育児一時金などを指します。
※3その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額を差し引きます。
医療費になるものとならないもの
医療費控除の対象となる医療費は、おおまかに「治療や診察が目的のもの」とされています。例を挙げると、以下のようなものが医療費控除の対象となります。
- 治療や診察のために医師や歯科医師に支払ったもの
- 治療や療養に必要な薬の購入代金(医師から処方箋を出してもらって購入したものだけでなく、ドラッグストアなどで買った風邪薬なども含みます)
- 柔道整復師や鍼灸師などによる治療目的の施術に対して支払ったもの
- 通院のための交通費
- 入院する際にかかった部屋代や食事代
- 6か月以上寝たきりとなり、医師が「おむつ使用証明書」を発行してくれた場合のおむつ代
- 保健師や看護師などに依頼する際の費用
- 妊娠の診断結果が出てからの定期検診や検査の費用
- 助産師二に分娩を依頼した場合の介助費用
- 松葉づえなど医療用器具の購入代やレンタル料でかかった費用
- 重大な病気が発覚し、治療を行った場合の健康診断や人間ドックの費用
- 治療に必要な眼鏡にかかる費用
- レーシック手術の費用
- 歯列矯正が必要とされる場合の費用
- 海外旅行中に海外の医師にかかったときの費用
なお交通費も医療費控除の対象になる場合があります。医療費控除の対象となるのは以下の場合です。
- 治療を受けるために公共交通機関を利用した場合の費用
- 緊急時のタクシー代(高速道路料金も対象)
- 医療機関が遠方にしかない場合の新幹線代
- 1人での通院が難しい患者と付添人の交通費
対して、以下のように予防や健康維持を目的とするものは医療費控除の対象にはなりません。
- 健康診断費用
- ビタミン剤など病気の予防や健康増進のために購入した医薬品の購入代金
- 体調を整えるために受けた柔道整復師や鍼灸師などによる施術
スマホで医療費控除を受けるための事前準備
医療費控除を受けるには、パソコンか紙で確定申告書を作成し、提出する必要があります。会社員の場合、年末調整で社会保険料控除や住宅ローン控除を受けることができますが、医療費控除は年末調整で受けることができません。毎年確定申告をすることのない会社員にとっては、少し手間に感じるのではないでしょうか。
ところが給与所得・一時所得・雑所得がある人は、スマホで医療費控除の手続きができるようになっています。スマホで医療費控除を受けるために必要な準備について、見てみましょう。
医療費控除を受けるための必要書類
医療費控除の手続きをするにあたり、必要な書類は以下のとおりです。
- 確定申告書(スマホから確定申告する場合は必要ない)
- 1年間分の医療機関や薬局の領収書やレシート(申告から5年間は保存義務がある)
- 医療費明細書(医療費を知らせる明細書で、確定申告と一緒に提出)
- マイナンバーカード(マイナンバーカード方式を利用する場合)
- ID・パスワード(ID・パスワード方式を利用する場合。税務署で取得します)
- 勤務先で発行される源泉徴収票(会社員の1年間の総所得や社会保険料、所得税の額が記載されている書類。確定申告での提出義務はない)
- 振込先預金通帳(所得税が還付された場合に受け取る口座)
後で詳しく説明しますが、スマホによる医療費控除の手続きには、マイナンバーカードを使う「マイナンバーカード方式」とID・パスワードを使う「ID・パスワード方式」があります。どちらの場合も、税務署への送信には、次のe-Taxを使います。
マイナンバーカードは市区町村役場に申請し、取得します。一方、ID・パスワード方式は最寄りの税務署で発行を受けます。税務署の職員と対面方式で本人確認を行い、ID・パスワードを設定すると、「ID・パスワード方式の届出完了通知」という書類がもらえます。本人確認には、運転免許証などの本人確認書類が必要となります。
毎年確定申告を行うとは限らない会社員の方が、e-Tax用のID・パスワードを取得するのは手間だと感じるかもしれません。今後、さまざまな用途が考えられるマイナンバーカードを取得しておいたほうがよいでしょう。
また、マイナンバーカード方式を利用するには、マイナンバーカードの取得に加え、スマホがマイナンバーカードの読み取り対応機種であることが条件です。注意しましょう。
【関連記事】:「確定申告で税務署へ」はもう古い!?今年の申告で急増した「自宅からe-Tax」
医療費の領収書の集計方法
スマホで医療費の明細を記入する項目があります。領収書やレシートは以下の要領でまとめておくと、スマホで入力する際にスムーズです。
- (1) 医療を受けた人の氏名ごとに分ける。
- (2) (1)をさらに病院・薬局などの支払別に分ける。
- (3) 分類したものをそれぞれクリップなどでまとめておく。
- (4) (3)でまとめた領収書・レシートのグループごとに、医療費を集計する。集計には国税庁ホームページでダウンロードできる「医療費控除の明細書」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/02/pdf/ref1.pdf)を利用すると便利です。
なお、領収書やレシートそのものは提出する必要はありませんが、5年間保存しておく必要があります。
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まとめ
マイナンバーカードと、マイナンバーカード読み取り対応のスマホがあれば、会社員の方はスマホの画面上で医療費控除の手続きが完結します。医療費控除の手続き画面にたどり着くまでにステップが多い感じはあるものの、従来に比べると郵送したり税務署に足を運んだりする手間がなくなり、時間が大幅に短縮したように思われます。活用できる方はぜひ試してみてください。
▼参考サイト
- https://amuelle.jp/article/20164/
- https://allabout.co.jp/gm/gc/14714/
- https://ztakani.com/post-6908
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/r02junbi/iryouhikoujo.htm