設立したばかりの会社では、給与形態が確立していなところもあるでしょう。なかでも残業代については、それに関する法律を把握して就業規則に記す必要があるので簡単ではありません。今回は残業代の計算方法を労働時間の定義などから解説します。
労働時間の定義
残業とはすなわち時間外労働のことを指しますが、これは法律的に定義されています。しかし、時間外労働について把握する前に労働時間について熟知しておく必要があります。
第一に、労働時間、休憩、休日に関しては労働基準法によって以下のように定められています。
● 原則として、1日に8時間、1週間に40時間を限度とする
● 6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩が必要
● 少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日が必要
労働基準法で定められた上記の労働時間を法定労働時間といいます。
一方で、各企業においては労働基準法に従った就業規則が設定されており、労働時間などについても定められています。就業規則は、労働基準法に従ったものでなければいけないので、例えば1日の労働時間を9時間と設定した就業規則などは、労働基準法違反で無効となります。逆に、一日の労働時間を7時間と労働基準法よりも短縮して設定することは可能です。就業規則で定められた労働時間を所定労働時間といいます。
それぞれの性質上、必ず 所定労働時間 ≤ 法定労働時間 となっています。
法定外残業と法定内残業
労働時間に2通りの定義があるように、時間外労働についても2通りがあります。法定外残業は法定労働時間を超えた分の労働を指し、法定内残業は所定労働時間を超えたが法定労働時間内に収まった分の労働を指します。
例えば、法定労働時間8時間/日に対し、就業規則で所定労働時間を7時間/日と定めたとしましょう。そして、1日に10時間働いた場合にはそれぞれの残業時間はどれだけになるのでしょうか。法定労働時間を超えた時間は、10時間-8時間=2時間で、これが法定外残業になります。一方で、法定内残業は8時間-7時間=1時間となります。
時間外労働をした分については、給料を割増しなければならないと労働基準法で定められていますが、ここでいう時間外労働とは法定外残業のことを指します。したがって、法定内残業に関しては割増が義務付けられておらず、対応は企業の就業規則によって異なります。
法定休日と所定休日
休日に関する定義も2通りあります。労働基準法で定められている、少なくとも毎週1日の休日か4週間を通じて4日以上の休日のことを法定休日、これに対して、就業規則によってそれ以上に付与する休日のことを所定休日といいます。
したがって、週休2日制の会社であれば、1日が法定休日となり、もう1日が所定休日となります。所定休日に出勤する場合には、労働基準法で定めるところの休日労働には該当せず、その賃金制度は就業規則や給与規定で定められます。
割増率
法定外残業等の割増率は、具体的には以下のとおりです。
法定残業 | 25%以上 | 8時間/日以上の労働 |
---|---|---|
50%以上 | 1か月の残業時間が60時間を超えた場合 | |
深夜労働 | 25%以上 | 午後10時から翌午前5時 |
法定休日労働 | 35%以上 | |
法定休日労働+法定外残業 | 35%以上 | 休日労働には残業分の25%は加算されない |
法定外残業+深夜労働 | 50%以上 | 残業(25%)+深夜(25%) |
法定休日労働+深夜労働 | 60%以上 | 休日(35%)+深夜(25%) |
なお中小企業に関して、平成31年まで、法定外残業時間が60時間を超えた場合については猶予されています。ちなみに中小企業の定義ですが、資本金と常時使用する労働者の数によって決まっていますが、業界によってその数値は異なります。
割増賃金の計算
残業時間は1日毎、分単位で記録し、それを1ヶ月単位で合算して割増賃金を計算します。このとき会社側がこれを怠り、分単位を切り捨てて1日毎の残業時間を管理することは違法となっています。しかし、割増賃金の計算にあたっては、事務処理上の煩雑さを避けるために、30分未満を切り捨てることを認めています。また、どちらを単位にとっても切り上げの計算は認められています。
例えば就業規則によって、法定内残業についても法定外残業と同等の割増賃金が認められる場合を考えてみます。まずは、月額の基本給を所定労働時間で割った換算時給と、1か月あたりの法定内残業と法定外残業の時間の合計となる残業時間を算出します。ここから残業に対して得られる賃金は、残業時間×換算時給×割増率によって計算されます。
ただし、換算時給の算出にあたり、家族手当や通勤手当、別居手当、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は算定基礎から除外されることになっています。
そのため、中小企業こそ残業の効率化が求められ、「ダラダラ残業をさせない」ための仕組みを構築する必要があります。例えば、ボーナスから会社側が無駄だと判断した残業代を差し引く、残業を許可制にする、後述にある裁量労働制を導入するなどが考えられます。
どのような対策を取るべきかということは、会社の状況によって様々ですので、自社に合ったものはどれなのかをしっかり考える必要があります。
固定残業制度とは
固定残業制度とは、企業が一定時間の残業を想定して残業代をあらかじめ月給に記載し、固定の残業代を支払うことを言い、一般に「みなし残業」と呼ばれています。一見すると、いくら残業をしても残業代は変わらないと思われがちですが、固定支給額以上の残業をした場合には、その分だけ追加で残業代が支払われることになっています。固定残業制度が認められるには、以下のような条件があります。
従業員への周知
この制度についてあらかじめ就業規則に記載する必要があります。
固定残業代と残業時間の記載
給与明細に上記2点を正確に明記する必要があります。「月給30万円(固定残業代を含む)」という記載のみではいくら分が固定残業代なのかを把握しきれないので、「月給30万円(20時間分の固定残業代8万円を含む)」といった記載が必要になります。
実労働時間との勘定
みなし残業時間≥実残業時間の場合には問題ありませんが、みなし残業時間<実残業時間の場合には、追加で残業代を支払う義務があります。
企業からしてみると、みなし残業時間≥実残業時間だった場合には実際より多い額の残業代を支払っており、みなし残業時間<実残業時間の場合はさらに残業代を支払わなければならないため、メリットがないようにも思われますが、勤怠管理システムの導入などがされていない場合などは多くの企業で固定残業制が導入されています。実際には、追加分の残業代を支払わないことで残業代カットをしようとしている企業もあるようですが、それは違法ですので、経営者の方は注意が必要です。
これと似た制度に裁量労働制というものがあります。こちらは残業時間だけでなく労働時間全体を、あらかじめみなし労働時間を設定しておくという制度になっています。労働時間よりも成果が重視されるようなシステムエンジニアや企画・立案などの業務に従事する部署に認められています。
私達ビスカスは20年以上、様々なお客様の声を聞いてきました。そのため、お客様と真摯に向き合い、潜在的なニーズを掘り起こし、最適な税理士を紹介することが可能です。「給与計算などの経理業務の負担を軽減したい」「経費が財務状況を圧迫している」などの悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。
まとめ
残業に関する計算は労働基準法で定められてはいるものの、各企業の就業規則次第でその仕組みは大きく変わってきます。従業員に残業代に関する仕組みをしっかり理解させておく必要があるため、企業側としてもその仕組みを透明化させる義務があります。労使間でのトラブルが起こらないように労働者の勤怠管理や残業計算は慎重に行いましょう。