多くの個人事業主が、事業の経費の支払いに、クレジットカードを使う場合があります。クレジットカードを使うと明細を受け取りますが、その際に気になるのが、クレジットカードの明細が領収書として使えるのかどうかということでしょう。そこで、ここではクレジットカードの明細と確定申告との関係について解説します。
クレジットカードの明細には利用明細と請求明細がある
実は、クレジットカードの明細には、利用明細と請求明細があります。そこで、まずはクレジットカードの利用明細と請求明細にどのような違いがあるのかを見ていきましょう。
クレジットカードの利用明細とは、クレジットカードを利用した際にお店などから受け取るものです。クレジットカードの利用明細には一般的に、使用した店の名前や利用日時、利用金額が記載されているので、どこでクレジットカードを利用したのかがわかります。また、お店によっては、購入した商品名が記載されているものもあります。
一方、クレジットカードの請求明細とは毎月、利用しているクレジット会社から送付される引き落とし内容が記載された明細のことです。クレジットカードの請求明細には一般的に、引き落とし日時、引き落とし金額、利用日時、利用実績が記載されています。いつ、どこで、いくら利用したのかが一覧として記載されているため、利用実績を簡単に確認することができます。
確定申告で領収書となるものには記載内容が決まっている
ここでは、クレジットカードの利用明細と請求明細の2つの明細書のうち、領収書として使えるのはどちらなのか見ていきましょう。
領収書に記載が必要な項目とは
そもそも、領収書が必要となる理由は、大きく分けて2つあります。
1つ目が、経費を計上する際の証拠になることです。税務調査では、帳簿に記載された経費が実際に支払われたものなのかを確認します。領収書があれば、その経費が実際に支払われた証拠となります。そこで、税法でも、領収書の保存を義務付けています。領収書は、原則、青色申告で7年間、白色申告で5年間、保存しておく必要があります。
2つ目が、消費税の経費にするためです。消費税の納付額は、簡単にいうと、売上で預かった消費税から、経費などで支払った消費税を差し引いて計算します。経費などで支払った消費税のことを仕入税額控除といいます。いわば、消費税の経費のことです。
実は、消費税の経費にできるのは、帳簿に次の4つが記載された場合のみです。
- 発行者名(お店の名前など)
- 取引年月日
- 取引内容(商品名など)
- 金額(本体価格、消費税の金額、税込価格など)
領収書には、この4つが記載されているため、帳簿への記載が可能です。
では、領収書には、何が記載されているのでしょうか。実は、領収書には記載しなければならない項目が決まっていて、次の5つが記されています。
- 発行者名(お店の名前など)
- 取引年月日
- 取引内容(商品名など)
- 金額(本体価格、消費税の金額、税込価格など)
- 宛名(購入者の氏名など)
この5つの項目が記載されて、初めて領収書としてみなされます。
クレジットカードとインボイス制度の関係
2023年10月1日からインボイス制度が始まったことで、これまで以上に書類の取り扱いが複雑になりました。
インボイス制度とは、事業者が消費税の仕入税額控除を適用させるために必要な制度のことです。
例えば、「請求書」「納品書」「領収書」などの書類を対象に、「登録番号」や「適用税率」など特定の事項を記載することで、仕入額控除が適用されます。
そして、クレジットカード払いもインボイス制度の対象です。
利用した店舗から発行されたレシート(領収書)に必要事項が記載されていれば、仕入税額控除を受けられます。
クレジットカード利用明細書を保存していても、仕入れ税額控除はできません。ただし少額特例の対象となる取引や公共交通機関特例などはインボイス保存が不要であるため、クレジットカード利用明細書を使用して仕入れ税額控除の処理を行うこともできます。
またETCの利用に関しては、クレジットカードの利用明細書とダウンロードした利用証明書が必要になります。
利用明細と請求明細はどちらも保管する必要がある
次に「クレジットカードの明細が領収書になるのか」ということについて確認していきましょう。
まず、クレジットカードの請求明細は領収書の代わりにはなりません。なぜなら、取引内容(商品名など)の記載がないためです。利用したお店などの情報は確認できますが、1つ1つの商品名などは記載されていないため、領収書にはなりません。
ただし、支払いが実際にあったという証拠にはなるため、通常、税務調査のために保存しておきます。
一方、クレジットカードの利用明細は、領収書になる場合とならない場合があります。
取引内容(商品名など)の記載がある利用明細では、領収書の記載事項をすべて満たしているため、領収書になります。しかし、取引内容(商品名など)の記載がない利用明細では、領収書の記載事項のすべては記載されていないため、領収書になりません。
領収書にならない場合であっても、支払いが実際にあったという証拠にはなるため、クレジットカードの利用明細も通常、税務調査のために保存しておきます。
ここまでのことをまとめると、クレジットカードの利用明細が領収書になるかどうかは、取引内容(商品名など)の記載があるどうかで決まります。取引内容(商品名など)の記載がない場合は別途、取引内容(商品名など)がわかるものを用意しておく必要があります。
お店でクレジットカードを利用した場合、クレジットカードの利用明細と別に領収書を受け取ったら、領収書を保存しておきます。ネットショップなどで商品を購入した場合は、購入明細書など、購入した商品が記載されているものも、クレジットカードの明細と一緒に保存しておくようにしましょう。
クレジットカードの明細を領収書として使う場合の注意点
ここからは、クレジットカードの明細を領収書として使う場合の注意点について見ていきましょう。
WEBの明細書は早めに印刷しておく
ネットショップなどで商品を購入した場合は、購入明細書などWEBの明細書に、取引内容(商品名など)が記載されていることが多いです。ただし、WEBの明細書に取引内容(商品名など)が記載されているからと、そのまま放置しておくと、WEB上から消えてしまうことがあるので、注意が必要です。
WEBの明細書は表示される期間が決まっているため、期限を過ぎると見られなくなります。見られなくなると、証拠書類にならない可能性があるため、早めに印刷しておく必要があります。
また、WEBの明細書が見られなくなった場合でも、追加料金を支払えば郵送で明細を受け取れるケースがあります。事前に、WEB上での表示期間や、郵送での明細書の受け取りの可否を確認しておくようにしましょう。
発生主義での帳簿付けに注意する
クレジットカードの明細を帳簿付けする際、注意が必要となるのが、発生主義での帳簿付けです。
実は、支払ったときではなく、商品を購入したとき(商品の引き渡しを受けたとき)に経費となるのが原則です。現金で購入したときは、商品購入時と支払い時が同じのため問題ありませんが、クレジットカード利用の場合は、商品購入時と支払い時が同じではありません。特に決算月には、商品購入が今年、支払いが翌年となることが多いです。この場合は、今年の経費として商品購入の仕訳を行う必要があります。具体例で見ていきましょう。
・12月に、クレジットカードで5万円の消耗品を購入した。支払いは翌年1月である。
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
消耗品費 | 5万円 | 未払金 | 5万円 | 消耗品購入 |
12月の時点では、代金の支払いがまだ完了していないため、貸方勘定科目は「未払金」科目を使用します。
・1月になって、事業用の通帳からクレジットカード利用料金5万円が引き落とされた。
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
未払金 | 5万円 | 普通預金 | 5万円 | 消耗品購入代金 |
クレジットカード代金の引き落とし時には、12月に計上した未払金を支払った仕訳を行います。
5万円以上の明細は収入印紙が必要
通常、クレジットカード払いで発行された領収書は、代金の支払いが完了していないため、印紙税がかかりません。しかし、クレジットカードで支払った旨が記載されていない場合は、5万円以上の取引で収入印紙が必要となります。
そもそも収入印紙とは、契約書や領収書などの経済的な取引にともない、印紙税を支払うために使用されるものです。印紙税以外にも、不動産登記、登録免許税、国家試験の受験手数料、免許の交付手数料などさまざまなケースで利用されています。
収入印紙の金額は、次のとおりです。
出典:No.7105 金銭又は有価証券の受取書、領収書|国税庁
ただし、領収書の場合、営利を目的とした営業に関する領収書であれば収入印紙が必要ですが、営業とは関係ない領収書に関しては非課税であるため収入印紙の貼り付けは必要とされない場合もあります。
クレジットカード関連の書類を電子帳簿保存法で保存する場合
2024年1月1日、「電子帳簿保存法」の義務化に伴い、クレジットカード関連での電子取引において、電子帳簿での保管が必須となりました。
例えば、帳簿や領収書、請求書などの書類の保存処理を電子データで行うことを指し、これまで電子データで取引された領収書をプリンターなどを利用し、紙媒体として保管することが許可されていましたが、原則データでの保管が義務化されたのです。
万が一、電子帳簿保存法に違反した場合は、これらの罰則が科せられてしまう可能性があるため、注意しましょう。
- 青色申告の承認が取り消される
- 追徴課税などが課せられる
- 会社法による過料が科せられる
また、この法律はクレジットカード関連の書類にも適用されます。
詳細については「2024年の電子帳簿保存法改正、個人事業主・法人の対応を解説!タイムスタンプは不要?」をご覧ください。
次からは、クレジットカードを利用した際の「利用明細」と「領収書」の取り扱いについて紹介しますので、確認しておきましょう。
クレジットカードの利用明細・領収書
電子帳簿保存法において、クレジットカードの利用明細・領収書を、電子データで受け取った場合は、電子データのまま保管する必要があります。
例えば、ネットの商品をクレジットカードを利用して購入し、利用明細・領収書がサイト上で発行された場合、サイトから利用明細・領収書をPDFなどでダウンロードし、電子データとして保管しておきます。
一方で、店舗に訪れてクレジットカードで商品を購入し、明細書・領収書を紙で受け取った場合は、これまでどおり紙の保管でも問題はありませんし、スキャナを利用して電子データに置き換えて保管することも可能です。
また、紙の領収書をスキャナで電子データにした場合は、紙の原本は破棄しても問題はありません。
法人カードとは?経費精算の4つのメリット
法人カードとは、事業の経費などを決済する事業用カードのことです。
日ごろから経費を個人カードで決済している方は、法人カードを作成し、プライベートとの支出を明確に区別することで、経費清算の効率化などさまざまなメリットが得られます。
法人カードによる経費精算の主なメリットは、以下のとおりです。
- 経費とプライベートの出費を明確に区別できる
- 精算処理を簡略化できる
- 不正や計上漏れを防げる
- 年会費を経費に計上できる
例えば、利用している会計ソフトと法人カードを連携させることで、クレジットカード決済での領収書や明細書を自動で会計ソフトに計上してくれるため、一つひとつ入力する手間を省けるでしょう。
また、法人カードには、大きく分けると2種類あるため、自身の状況に応じて作成してみてください。
∟カード使用者が20名以下の企業に発行される中小企業や個人事業主向けの法人カード
●コーポレートカード
∟カード使用者が20名以上などの企業に発行される利用者が多い企業向けの法人カード
カードの種類によって経費計上方法が異なる
クレジットカードには個人用と法人用のクレジットカードがあります。クレジットカードの記帳方法は個人用と法人用とで別れます。ここでは個人用と法人用の記帳法の違いについて、発生主義の立場から解説します。
個人用のクレジットカードの場合
個人用クレジットカードの場合、決裁した時に勘定科目を選んで、記帳します。引き落とし日の記帳は必要ありません。個人のお金を事業に使っているため、事業主借として仕訳する必要があります。
法人用のクレジットカードの場合
法人用のクレジットカードの場合、決済日に未払金を計上し、引き落とし日にも記帳が必要です。そのため個人用と違って、2回記帳する必要があります。
クレジットカードを経費計上する際の注意点
クレジットカードを経費計上する場合、以下のような注意点があります。クレジットカードを経費計上する際には、念頭に置いておきましょう。
経費に計上できるものかどうかの判断をする
個人用と法人用をクレジットカードで分けていない場合、プライベートでの支出は経費にできません。経費に計上できるのかどうかは事前に確認しておく必要があります。
例えば旅行の場合、単に家族旅行であれば経費にできません。しかし会議への出席や視察に行くための旅行代は経費にできます。このように経費にできるものとできないものがありますので、税理士と相談して進めていくのがよいでしょう。
ポイントやマイルは値引きや雑収入にする
法人用のクレジットカードで支払った場合でも、ポイントやマイルは貯まります。ポイントやマイルは値引きや雑収入として仕訳する必要があります。
支払い時にポイントで支払金額が値引きされる場合は値引きとなり、後日ポイントがキャッシュバックされる場合は雑収入となります。
保管方法と保管期間に注意する
クレジットカードで経費を計上する際には利用明細書が必要です。利用明細書は感熱紙のため、時間が経つと印字が薄れてしまう可能性があります。そのため直射日光をさけて保管する必要があります。
またひとつの決済に対して利用明細が複数ある場合は、二重計上しないように、しっかりとわけて管理しましょう。
さらにクレジットカードの利用明細の保管期間は原則7年間ですが、確定申告の種類や収入によって変わるので、税理士に相談してみましょう。
まとめ
個人事業主には、領収書の保存が義務付けられています。クレジットカードを利用した場合は、利用明細と請求明細の両方を保存しておくことで、領収書の代わりや、支払いが実際にあったという証拠になります。
ただし、利用明細に取引内容が記載されていない場合は、購入明細書など取引内容が記載されているものも別で保管する必要があります。
今後、世の中ではますますキャッシュレスが進行すると考えられます。クレジットカードの明細書の記載内容を確認し、漏れのないように保存しておくことが今までにも増して、重要となるでしょう。
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