個人事業主は退職金が貰えないため、老後が心配だと考えている方も多いのではないでしょうか。小規模企業共済は退職金の代わりとして、個人事業主の方にとって心強い味方となるだけでなく、節税効果も期待出来ます。今回は、そんな小規模企業共済について解説します。
小規模企業共済とは
制度の概要
小規模企業共済とは、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)が提供している、小規模企業の経営者や役員、個人事業主向けの共済制度のことです。退職や廃業といった事態に備え、生活の安定や事業の再建を図るための資金を前もって準備する積み立て式の退職金制度です。
加入資格
小規模企業共済制度の加入要件は、以下のようになっております。
- 1.建設業、製造業、運輸業、宿泊業・娯楽業に該当するサービス業、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社の役員
- 2.商業(卸売業・小売業)、宿泊業、娯楽業以外のサービス業を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社の役員
- 3.事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
- 4.常時使用する従業員の数が20人以下であり、農業の経営を主として行なっている農事組合法人の役員
- 5.常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
- 6.上記1、2に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)
このように、加入のための条件として業種ごとに従業員または組合員数の上限が設けられていますが、加入後に事業が拡大して規定の人数を超えても契約を継続することができます。そのため、加入の判断は事業規模が小さいうちに行っておく必要があります。加入手続きは、金融機関または商工会議所、事業協同組合などの委託事業団体を通じて中小機構に申し込みます。
掛金
掛金の月額は、1,000円から7万円までの範囲内であれば500円単位で自由に設定でき、加入後にも増額または減額することができます。掛金の納付方法は、月払い、半年払い、年払いから選択でき、納付月の18日に個人の預金口座からの振替で支払われます。なお、掛金を前納すると一定割合の前納現預金を受け取ることができます。
請求事由による共済金の種類(個人事業主の場合)
共済契約者の立場や請求を行う理由によって、請求可能な共済金の種類が異なります。個人事業主の場合は次の4種類があります。
- 共済金A
個人事業が全て廃業した場合や、共済契約者が死亡した場合に受け取れます。 - 共済金B
65歳以上で180ヶ月以上掛金を払い込んだ方が受け取れます。 - 凖共済金
個人事業を法人にした結果、加入資格がなくなり解約をした場合に受け取れます。 - 解約手当金
任意解約や12か月以上の掛金未払いによる機構解約に際して、または、個人事業を法人にして加入資格はなくならなかったが解約をした場合に受け取れます。
受け取り方法
共済金の受け取りは基本的に一括受け取りとなりますが、以下の要件を満たす場合は分割受け取り、または一括受け取りと分割受け取りの併用も可能です。
- 共済金の種類が共済金Aまたは共済金Bであること
- 請求事由が発生した日に60歳以上であること
- 請求事由が共済契約者の死亡ではないこと
- 共済金の額が、分割受け取りの場合は300万円以上、一括受け取りと分割受け取りの併用の場合は330万円以上であること
小規模企業共済のメリット
節税効果
所得税の計算において、払い込んだ掛金は「小規模企業共済等掛金控除」の対象として全額がその年の所得から控除されるので、小規模企業共済に加入して掛金を支払えば税金が安くなります。仮に掛金が最高額の7万円の場合、年間で計算上84万円の所得控除を受けることができます。また、一括で受け取った共済金は退職所得の扱いとなるので所得控除が受けられ、税負担を軽減することができます。
将来の生活資金の確保
小規模企業共催は月1,000円から7万円までという掛金設定の自由さから、積み立てのハードルが非常に低くなっています。基本的には廃業や死亡時、あるいは65歳になるまで積み立てを行うことが想定されていますが、任意の解約は随時可能となっているので、急遽まとまったお金が必要になった時などにも、積み立てたお金を受け取ることができます。さらに、契約者向けのさまざまな貸付制度があり、既に積み立てている金額の範囲内で資金を借り入れすることが可能です。審査に必要な書類が少なく、低い利率ですぐにお金を受け取ることができます。
注意点
年齢や受け取り方による税法上の扱いの差異
既述のように、税法上、一括で受け取った共済金は退職所得として扱われます。65歳以上の契約者が任意解約を行って共済金を受け取る場合も同様です。しかし、65歳未満で任意解約する場合、また年齢にかかわらず機構解約の場合は一時所得となります。
共済金の分割払いを選んだ場合は公的年金等の雑所得として扱われ、年金同様の控除が受けられます。一括払いと分割払いを併用する場合は、一括で受け取る分については退職所得、分割で受け取る分は公的年金の雑所得となります。
また、契約者が死亡した場合に遺族が受け取る共済金は、相続税法上のみなし相続財産として扱われます。
掛け捨て・元本割れのリスク
掛金納付月数が12ヶ月、すなわち1年未満で解約した場合は掛け捨てとなります。1年を超えれば解約手当金がもらえることになりますが、納付月数に応じて掛金の80%から120%に相当する額が支給されることが明記されており、その支給割合が100%となるのが240ヶ月です。したがって、掛金納付月数が240ヶ月未満、すなわち加入から20年を経ずに解約すると元本割れとなり、積み立ててきたよりも少ない額しか解約手当金として受け取れません。元本割れによる損失が節税効果を上回ることもありえます。
なお、元本割れのリスクがあるのは任意解約などによる解約手当金に限られます。そのため、契約者が死亡した場合や廃業した場合、65歳以上で180ヶ月以上掛金を払い込んだ場合などは、たとえ加入後20年未満であっても元本割れを起こす恐れはありません。
掛金を減額した場合
掛金を途中で減額した場合、その時点まで積み立てていた減額分の額はその後運用されずに放置されます。さらに、この減額分については、その後再び増額しない限りは減額後の期間が掛金の納付期間として計算されないため、解約手当金として取り戻そうとした際に掛金納付月数が足りなくなって元本割れを引き起こしてしまう可能性があります。
加入シミュレーション
35歳独身男性、掛金1万円、年収400万円の場合を想定し、小規模企業共済へ加入した際の節税効果をシミュレーションしてみましょう。2018年10月に加入し、65歳となる2048年の9月まで掛金を払い込み続けたとすると、以下のように試算されます。
加入年月 | 2018年10月 | 掛金金額 | 10,000円 |
---|---|---|---|
脱退年月 | 2048年9月 | 掛金合計金額 | 3,600,000円 |
納付月数 | 360ヶ月 | 課税所得金額 | 4,000,000円 |
この場合、共済金として以下の額が見込めます。
共済金A | 4,348,000円 |
---|---|
共済金B | 4,211,800円 |
加入前と加入後で年間の税金を比較すると、以下のようになります。
税額 | 所得税 | 住民税 | 合計 |
---|---|---|---|
加入前 | 380,300円 | 405,000円 | 785,300円 |
加入後 | 355,800円 | 393,000円 | 748,800円 |
このように、年間でおよそ36,500円の節税効果が期待できます。
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まとめ
現役世代の小規模企業経営者や個人事業主の多くは、退職や廃業の後のことに不安を感じているのではないでしょうか。小規模企業共済は、老後の生活を保障する有効な手立ての1つです。この機会に、加入を検討してみてはいかがでしょうか。