平成28年12月5日に事業承継ガイドラインが策定され、中小企業庁から発表されました。今回は、どの中小企業もいずれは考えなければならない事業承継について、その注意点などを交えながら解説します。
なぜ事業承継は必要か?
事業承継が重要視されている所以には、中小企業を取り巻く現状が深く関係しています。中でも特筆すべきは、経営者の高齢化が進展しているという点です。
「中小企業白書(2016年版)」によれば、全国の経営者の平均年齢は59歳9か月となっており、過去最高水準に到達しています。また、これと同時に経営者交代率は、昭和50年代に平均5%であったものが2011年には2.46%まで落ち込んでおり、事業承継がうまく行われていないことが分かります。しかしながら、中小企業は日本の企業数の約99%を占めるほど重要な役割を果たしているため、事業承継の放置による技術・ノウハウの喪失は日本社会の成長の障壁となりえます。
事業承継が行われないことには、様々な理由が考えられます。まず近年、職業選択の自由をより尊重する考え方が一般的になってきており、経営者の子供が会社を継がないなど、後継者の確保が困難になっていることがあります。また、事業承継には明確な期限がないことから、後回しにしてしまっているという理由も挙げられます。
そこで、これらの要因を根本的に解決して円滑に事業承継を行うことで、中小企業の技術・ノウハウをしっかりと受け継ぎ、世代交代を通じた活性化を促進することが必要であると考えられるようになりました。
事業承継計画とは
どのような経営者であっても、まずは事業承継に向けた準備の必要性・重要性を認識し、経営状況や課題を把握する必要があります。事業承継計画は、自社の経営課題を踏まえた上で現経営者と後継者が一緒になって策定されるものです。
例えば、中長期の経営計画に事業承継の時期、具体的な対策を盛り込んだものがあります。内容には、
①事業承継の概要:後継者の確定、承継方法、承継時期等
②事業の中長期目標:経営理念、事業の方向性、将来の数値目標等
③事業承継を円滑に行うための対策・実施時期:関係者の理解、後継者教育、株式・財産の配分等
を明記します。
取引先や従業員、取引金融機関等との関係を念頭に置いて策定し、策定後はこれらの関係者と共有しておくことが推奨されます。こうすることで、関係者の協力も得られやすく、信頼関係維持もできるなど、様々な利点があります。
親族内で事業承継する際の注意
親族内で事業承継する場合には、後継者を早めに決定して計画的に準備ができること、内外の関係者から受け入れられやすいこと、などのメリットがありますが、課題もあるということを把握しておく必要があります。
後継者選定の問題
後継者の選定は事業承継に向けた第一歩であり、重要な取り組みです。しかし、経営者が勝手に決めつけるだけでは円滑な事業承継は望めません。後継者候補の同意、育成、親族などとの対話を進めていく必要があります。
財産の承継の問題
親族内承継においては先代経営者から後継者に対し、贈与・相続により移転する方法が一般的ですが、この場合には贈与税・相続税の負担が発生します。事業承継直後の後継者にはこれらの税金を支払うだけの資金力が不足している場合が多くあります。
財産の問題は税金にとどまらず、株式の相続も重要になってきます。株式の相続に際し、遺産分割などの結果によっては、株式が多数の相続人に分散してしまう場合があります。そのような場合には株主総会の運営等の株式管理コストが高まり、最悪の場合には資金流出が生ずるといったトラブルが発生します。
これら財産上の問題に関しては、先代経営者の事前の対策が重要になってきますし、すでに株式などが分散してしまった場合にも、事後的な対策を取ることが推奨されます。
債務・保証・担保の承継の問題
会社が負っている債務は事業承継に関わらず会社が負い続けるものですが、経営者個人が借入を行って会社に貸付けている場合には、これらの処理を検討していく必要があります。事業承継に向けて、経営改善等を通じた資金繰りの改善により債務の圧縮を図りながら、金融機関との信頼関係を構築することが重要となります。
資金調達の問題
事業承継にあたっては一定の資金が必要となる一方で、経営者交代により信用状態が悪化し、金融機関からの借入条件や取引先の支払い条件が厳しくなることが懸念されます。事業承継を行うにあたり、円滑な資金調達を行う必要があることから、取引金融機関等との間で事業承継計画や課題、資金ニーズについての認識を共有しておくことが重要です。
従業員へ事業承継する際の注意
第一に、従業員へ事業承継する場合は、現経営者の親族や後継者である従業員の配偶者など、様々な関係者の理解を得るのに時間がかかる場合もあるため、後継者の経営環境の整備により一層留意する必要があります。
後継者の選定の問題
従業員が後継者となる場合は、社内で経験を積み、経営に近い役割を担ってきた、いわゆる「番頭さん」が後継者となることが多いでしょう。しかしながら、従業員という立場から経営者になることで、覚悟や責任感がより一層必要になってきます。そのため、承継を行う前に候補となる従業員との対話を重ね、事前から責任のある役職に置くなどの施策が重要になってきます。
資金調達の問題
現経営者の親族外の役員や従業員は、現経営者から株式・事業用資産以外の資産の取得が期待できないことなどから、買い取り資金を調達できない傾向にあります。したがって、円滑な従業員承継を実現するためには、資金調達の成否が重要である一方で、高いハードルとなっています。解決策としては①金融機関からの借入、②後継者候補の役員報酬の引上げなどが一般的です。
社外への引き継ぎ(M&A等)の際の注意
社外への引き継ぎの場合、その手法によって注意する点が異なってきます。
株式譲渡の場合
経営者が所有している株式を第三者に売却する手法です。雇用関係や取引先との契約関係には変動がないため、円滑に事業を継続しやすいという利点があります。一方で、簿外債務や現経営者が認識していない偶発債務も含めて承継される点などは注意が必要になります。
事業の譲渡
会社や個人事業主の事業全体を売却する手法です。個別の資産に加え、ノウハウや知的財産権、顧客など、事業を成り立たせるために必要な要素が対象になります。
会社が行っている事業全体のうち個別の事業を売却する場合には、譲渡の対象資産が選別されるため、買い手にとって不要な資産は引き取ってもらうことができない場合があるので注意が必要です。また、譲渡しなかった部分は現経営者の手元に残ることとなるため、その部分の事業に対しても処理を考える必要があるといえます。
私達ビスカスは20年間様々なお客様と関わっていく中で、事業承継に関する様々な悩みをお聞きし、解決策を一緒に考えてきました。もしお悩みなどがございましたらお問い合わせください。
まとめ
事業承継は、中小企業にとっては避けては通れないものです。ここで学んだことをきっかけに、次の世代のためにどのようなことをしていくべきかというのを、改めて考えてみることも重要になります。