表面税率と法定実効税率の違いを正しく理解していますか? 大きな違いではないと考えている方もいるかもしれませんが、経営判断を正しく行なうための大事な知識です。ここでは、その違いを解説し、使い分けるべき場面を紹介します。
表面税率・法定実効税率とは?
概要
会社が利益を上げた場合、必ず支払う必要が生じるのが税金です。企業が支払う税金には様々な種類が存在しますが、そのなかから主要な税金についてまとめられたものが、法定実効税率と表面税率です。どちらも法人税、地方法人税、住民税、事業税の合算から算出され、会社の利益を基に課税されます。
相違点
上記の説明だけでは、表面税率と法定実効税率はまったく同じものであるように感じられるかもしれません。確かにこの2つの税率は同一の分野・種類の税に関わるものではありますが、両者の違いは、1つの同じ対象における税率の名目と実質、もしくは当初の想定と実際の結果と捉えることができます。より具体的に換言すると、まず表面税率とは、国税庁等の公表する各税の税率を単純に総和したものであり、申告や納税の際に用いられます。しかしここで、上に挙げた税金のうち、事業税だけは損金に算入することが認められている点を考慮する必要があります。法定実効税率とは、この事業税の損金算入の分を反映する形で計算し直された税率のことです。そのため、会社が実質的に負担する税額に近くなるのは法定実効税率の方であり、法定実効税率は常に表面税率を下回ることになります。
計算方法
それぞれの計算方法は以下の通りです。なお、以下における住民税とは、都道府県民税と市町村民税の合算を指します。また、2019年に廃止が予定されている地方法人特別税を組み入れる場合は、表面税率では計算式の最後にそのまま地方法人特別税率を加え、法定実効税率では分子と分母のそれぞれで事業税率の後ろに地方法人特別税率を足します。
表面税率の計算方法
「法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率」で算出します。
法定実効税率の計算方法
「(法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率)/(1+事業税率)」で算出します。つまり、表面税率を(1+事業税率)で割ると算出できます。事業税分の差を直すため、式が表面税率に比べて煩雑になります。
計算例
各税率は資本金額や利益額の大きさにより左右されます。ここでは例として、東京23区を本拠とする、資本金1億円以下で年所得が800万円の中小法人を想定し、2018年4月1日以後に開始した事業年度の表面税率と法定実効税率を計算します。
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法人税
2018年4月1日以後の開始事業年度における中小法人の所得税率は、年800万円以下の部分に関しては15%、800万円を超える部分では23.2%となっています。ちなみに、中小法人以外の普通法人ではすべて23.2%です。今回のケースでは年所得が800万円ですので、15%になります。
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地方法人税
その事業年度の基準法人税額×4%で求められます。
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住民税
法人住民税は個人の場合のように、所得にかかわらず必ず一定額を支払わなければならない均等割と、法人税額を基に税額が決定される法人税割がありますが、表面税率と法定実効税率の計算においては、後者の法人税割だけを問題にします。東京23区内に事業所を設けている場合、住民税率は、都道府県税の標準税率2%と市町村民税の標準税率9.7%を合わせて、計12.9%と算出されます。
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事業税
東京都では、資本金1億円以下かつ年所得2,500万円以下かつ年収入2億円以下の法人の事業税については、標準税率が適用されます。その内訳は、年所得400万円以下で4%、400万円超~800万円で5.1%、800万円超で6.7%となっているため、今回のケースでは5.1%です。なお、地方法人特別税については、年所得400万円以下で1.469%、400万円超~800万円で2.203%、800万円超で2.894%であるため、この場合は2.203%です。
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合計
以上を上記の計算式に当てはめると、表面税率が24.898%、法定実効税率が23.204%となります。なお、中小法人で年所得400万円以下ならば、表面税率22.464%で法定実効税率21.421%、所得が800万円を超えると、表面税率36.808%で法定実効税率33.585%という結果になります。
注意点
表面税率を利用すべき場面
表面税率は会計上の納税額を算出するのに適します。そのため、資金繰りの計算の際に税金としての支払い額を明確化させるなどの目的に適します。
法定実効税率を利用すべき場面
法定実効税率は実際に支払う負担額を導出します。そのため、実際に会社がどれだけの税金コストを負っているか、どれくらい節税すべきかなどを分析するためにはこちらを用います。
使い分けが必要
表面税率と法定実効税率の数字の違いを微々たるものと捉え、差額を気にしない方もいるかもしれませんが、特に会社の規模が大きくなる程、当然ながらこの表面税率と法定実効税率の幅がもたらす影響も広がります。上記の計算例で示した中小法人ではその差は1.694%でしたが、同じ中小法人でも年所得が800万円超であれば3%以上となり、大きな違いを生むことが予測できます。加えて、表面税率も法定実効税率も、所得額をベースとした計算によるため、状況によっては、消費税や住民税均等割などのその他の税金も考慮に入れ、より正確な課税額を予測する必要が生じる場合もあります。経営判断などにおいては、どの場面でどちらをどのように適用すべきかを、その都度適切に決定することが重要になります。
まとめ
納税額の計算は大抵煩雑であるにもかかわらず、少しの差額や制度利用の有無が、後に重要な違いを生むことも少なくありません。何種類とあるうちのたったひとつの税率の差異になど、いちいち目を光らせているわけにいかないと思いたくもなりますが、毎回どちらが正しいか判断していくことが大事です。