いわゆるフリーランスと個人事業者はやや混同されているようです。巷でフリーランスと言われている人たちは、必ずしも税法上は個人事業者ではありません。
税金の申告をするにあたり、個人事業者と給与所得者では方法が大きく異なります。フリーランスの人は、一度自分が個人事業者に該当するのかどうか確認してみましょう。
フリーランスにも色々!あなたは本当に個人事業者?
フリーランスの定義は曖昧
勤務先から独立し、晴れてフリーランスになる場合、「会社員と異なり、個人事業者は本業だけではなく、清掃から事務、税務申告から社会保険の手続まですべて自分でしなければならないよ」と忠告を受けることが多いようです。
あなたも、さっそく自分で会計帳簿を作成しようと入門書やウェブサイトに目を通していることでしょう。しかし、いわゆるフリーランスと呼ばれる人であっても、必ずしも会計帳簿を作成する必要はありません。
一口にフリーランスと言っても、法令上は個人事業者ではなく期間の定めのある従業員、すなわち非正規雇用の従業員とされているケースもあります。したがって、一般にフリーランスと言われる人たちは、以下の3パターンのうちのいずれかだと考えられますが、必ずしもご自分が状況を把握していないケースもあるようです。
①完全な個人事業者
②個人事業を営みながら従業員として働いている人
③個人事業は営んでおらず、複数の職場で従業員として働いている人
フリーランスの税金事情
複数の職場で働いている場合には確定申告が必要
先程ご紹介したうち③のパターンであっても、会計帳簿の作成は必要ありませんが確定申告をする必要があります。
「会社で年末調整を受けているため、確定申告は不要だと聞いたんだけど…」というご相談をよく耳にしますが、1年間の間に複数の会社から給与を受け取った場合には、本業以外の会社からの給与の合計が20万円未満である場合を除き確定申告が必要となります。
この場合には、すべての勤務先から受け取った源泉徴収票をもとに確定申告をすることとなりますが、あまり難しくありませんので国税庁のe-Taxを利用し、解説のとおりに必要事項を入力するだけで、無償で確定申告を終えることができるでしょう。
個人事業を営んでいる場合には会計帳簿の作成を忘れずに
先程ご紹介したうち①、②のパターンの場合には、確定申告はもちろん個人事業者としての所得については会計帳簿の作成が必要です。
「自分は会社員だと思っていたのだが、年末調整されないので尋ねてみたら個人事業者として契約していた」というケースを耳にしますが、このような事態は絶対に避けましょう。1年間の会計帳簿が全く作成できていないばかりか、青色申告の承認申請もされておらず、また必要経費の領収書も全く保管されていないという状況になってしまい、割高な納税をしなければならなくなってしまうことがあります。最悪の場合には、税務申告自体ができなくなってしまうことも考えられます。
また、給与の入金や金融機関の利息は個人事業者としての所得とは別枠での計算となりますので、会計帳簿への記載は必要ありません。金融機関の利息はともかく、給与の入金をうっかり記載してしまい、誤って多額の納税をしてしまったというミスを目にする機会があります。
なお、給与所得を得た場合に受け取った給与の額から差し引くことができる給与所得控除と、青色申告の承認を受けた場合に事業所得から差し引くことができる青色申告特別控除は同時に受けることができないという誤解があるようですが、両方同時に適用を受けることができます。
フリーランスの健康保険や年金はどうなってるの?
健康保険・年金のしくみ
労災保険や雇用保険、年金に健康保険と多くの制度があり、混乱されている人が多いようです。特に「自分はどの制度に入らないければならないのだろう?任意なのか義務なのかもわからない」と困っている人も多くいます。
会社員が加入している制度は、大きく労働保険と社会保険に大別できます。労働保険の中に労災保険と雇用保険が、社会保険の中に健康保険と厚生年金が含まれています。
<労災保険>
労災保険とは、仕事中の事故で病気や怪我を負ってしまった場合に様々な保障を受けることができる制度です。
<雇用保険>
雇用保険とは、一定の条件を満たした人が失業してしまった場合に給付を受けることができる制度ですが、他にも職業訓練や、育児休業の際の給付金など、手厚い給付を受けることができる制度です。
<健康保険>
健康保険とは、病院で治療を受ける場合に治療費の7割(例外あり)を負担してくれる制度です。
<厚生年金保険>
厚生年金保険とは、老齢・障害・死亡により働くことができなくなってしまった場合に年金を受け取ることができる制度です。老齢により年金を受け取ることができることはよく知られていますが、他にも障害者となってしまった場合や幼い子を残して死亡してしまった場合にも年金を受け取ることができます。
社会保険に加入している場合には手続きの必要なし
労働保険は一部の例外を除き会社員に適用される制度ですから、個人事業主は加入する必要はありませんし、加入できません。また、現在のところ個人事業主のための類似した制度はありません。
社会保険も原則として会社員に適用される制度ですが、社会保険に加入していない人のために「国民健康保険」「国民年金」という制度が準備されています。
社会保険に加入している人はすでに健康保険に加入していますし、厚生年金に加入している人は自動的に国民年金にも加入しているとみなされます。したがって、社会保険に加入している人は「国民健康保険」「国民年金」の制度に二重に加入する必要はありませんので、特に手続きをする必要はありません。
なお、社会保険は会社員としての給与・賞与に比例して掛け金が高くなります。したがって、個人事業者としての収入は掛け金に反映されませんから、パターン②の人は社会保険の掛け金の面では優遇されています。
パターン①の人は労災保険も雇用保険もありませんので保障が不足しがちです。労災保険には一定条件を満たすと個人事業者でも加入できる特別加入という制度がありますし、民間の保険会社が代替となる様々な商品を提供しています。また、病気や怪我で働けなくなってしまった場合に所得を保証してくれる保険商品も最近は充実しています。
また、厚生年金と比較して保障が少ない国民年金だけでは老後の生活設計に不安があるという人は国民年金基金などの国民年金に上積みする制度が準備されています。必要に応じて加入を検討すると良いでしょう。
まとめ
最近は働き方が多様化していると言われており、様々な勤務形態が認められるようになってきています。それに伴い、給与所得者なのか個人事業者なのか本人も理解していないというケースが目立っています。取引先にはなかなか言いにくい面もありますが、最初にきちんと確認することをお勧めします。