毎年6月頃になると、新聞やテレビなどで「株主総会」というキーワードが出始めます。大企業の株主総会では、当期の事業報告や役員の選任、今後の事業計画などを話し合いますが「身内で経営する中小企業だから」といって株主総会を軽視してはいけません。「株主総会」と会計・税務の深い関わりについて解説します。
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「株主総会」とは何か?
法人には欠かせない「株主総会」
「株主総会」は、会社法で定められた「機関」の一つであり、特に「定時株主総会」は会社法第296条において「毎事業年度の終了後、一定の時期に招集しなければならない」とされています。条文中には「大企業」「中小企業」という文言はありませんので、事業規模を問わず、必ず開催しなければならない機関です。
会社が設置することができる機関には、その他に「取締役会」があります。もし仮に「取締役会を設置しない会社(非設置会社)」である場合、「株主総会」は会社に関する一切の次項を決議することができる「意思決定の最高決議機関」という位置づけです。
「取締役会を設置できる会社」は設置要件である取締役3名以上かつ監査役1名以上を満たしていなければなりませんので、家族経営の会社では取締役会を設置せず「株主総会」を最高決議機関としているケースが多いのではないでしょうか。
「株主総会」で行うこととは?
法人税法第74条及び第75条の2で、事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内(延長の届出をすれば3ヶ月以内)に株主総会を開催しなければならないとされています。毎年一定の期限内に開催される「株主総会」のことを「定時株主総会」と呼びます。
会社法ではなく法人税法の規定ではありますが、この「事業年度終了日の2ヶ月以内」を採用し、定款にうたっている会社が多いようです。
「定時株主総会」では主に、次に挙げるような項目を決議します。
- 取締役の選任や解任
- 役員報酬に関する事項
- 定款の変更及び解散・合併・営業譲渡など、会社組織に関する事項
- 決算に関する計算書類の承認
- 余剰金の分配などの利益に関する事項
これに対し、緊急の事案が発生したときに臨時的に開催される「株主総会」のことを「臨時株主総会」と呼びます。
「臨時株主総会」では主に、次に挙げるような項目を決議します。
- 非公開会社における株式譲渡の決議
- 取締役会設置会社で役員に欠員が出た場合の選任決議
- 新株予約権の発行
毎年一定の時期に開催される「定時株主総会」まで決議を待つことができないような緊急事案が発生したときに開催するもので、決議内容もイレギュラーな項目が多いのが特徴です。
「株主総会」や「取締役会」が会計・税務に及ぼす影響
「株主総会」と「株主総会議事録」の関係性
「株主総会」では会社の運営に関する様々な重要事項を決議しますが、総会の議事内容を記録し保管しておく書類が「株主総会議事録」です。「株主総会議事録」は会社法第318条において法務省令に従って作成し、株主総会の決議があった日から10年間保管する義務があると定められた重要な書類です。
議事録作成の目的は、株主総会の議事内容が間違いなく決議されたものであることを証明することにあります。例えば、巨額の株式の購入を行った結果、会社に損害が発生したときに株主から訴訟を起こされるケースがあります。
裁判では株式の購入が株主の承認を得て行われた行為であるのか?というのが争点になるのですが、ここで株主総会で決議を受けた事案であることを証明できなければ、取締役が独断で行った行為であると言われても反論できません。株主総会で決議しなければならない議案は数多くありますが、議事録にはそこに記録された1つ1つの内容を唯一証明できる高い証拠能力があるのです。
「株主総会」と会計・税務の繋がり
会計や税務においても「株主総会」や「取締役会」の決議は非常に重要な意味を持ちます。
例えば、株主総会で経営に参画する新たな役員を選任した場合、当該役員に対する給与は税務上「役員報酬」として扱われます。会計や税務では株主総会の決議を受けて「役員報酬」として処理しなければならず、適切な勘定科目や後述する「定期同額給与」の検討をしなければなりません。
また、会計や税務側からのアプローチで節税対策をとるような場合にも「株主総会」の決議が必要になってきます。例えば黒字決算を見越して多額の「役員退職金」を支給するようなケースでは、定款に定めがない限り株主総会の決議がなければ退職慰労金の請求権は発生しないものとされています(会社法第361条)。従って「役員退職金」の支給には株主総会での決議が必須となるのです。
このように「株主総会」「取締役会」と会計・税務は密接な関係にあります。
実は大事な「株主総会議事録」「取締役会議事録」
「株主総会議事録」「取締役会議事録」はなぜ必要なのか?
では、議事録の備え付けを怠っていた場合に起こり得る税務的な弊害について例示してみましょう。
例えば、法人税には役員の給与である「役員報酬」について、ある一定の縛りを設けています。会社運営の重要事項を決定する権限をもつ取締役は、自分自身の役員報酬を決定する権限も有することになります。仮に取締役が自由裁量で役員報酬を増減させることを認めてしまえば利益操作に繋がり税務上問題が生じます。そこで法人税法では、利益操作を制限する目的で「定期同額給与」というルールを設けました。「役員報酬は定時株主総会や取締役会で定めた金額を同額で一定期間ごとに支払ってください」というものです。
具体的な手続きとしては、事業年度中の役員報酬を株主総会や取締役会で決定し「株主総会議事録」で金額や支払期間を証明するという流れになります。もしここで「株主総会議事録」が存在しなければ、役員報酬は正式な手続きを経て決定されたものではありませんので、税務調査で「全額が経費として認められない(損金不算入)」と認定されます。役員全員の給与が経費として否認されるわけですから、税額に及ぼす影響は計り知れません。
議事録の作成を要する項目と記載すべき内容とは?
税務上のトラブルを回避するために「株主総会」で決議し「株主総会議事録」に記録しておくべき項目を列挙してみましょう。
- 役員報酬の「支給金額」と「支給時期」「支給対象者名」
- 役員に対する事前確定届出給与の「支給金額」と「支給時期」「支給対象者名」
…上記1.2.は法人税法上の「役員給与」が適切なものであることを証明するための記載です。 - 役員退職金の「支給金額」と「支給時期」「支給対象者名」
…役員退職金が株主総会の決議を受けた内容であることを証明するための記載です。
支給金額が税法上適切かといった限度額計算は別途行う必要があります。 - 自社株式を譲渡する際の「譲渡株数」と「譲渡金額」「譲渡者」「譲受者」「譲渡日」
…個人売買による自社株式の譲渡については、譲渡者に発生する譲渡所得を計算する際の
証拠資料の1つになります。 - 土地や建物など会社の資産を譲渡する際の「譲渡資産」と「譲渡金額」「譲渡先」「譲渡日」
…会社が個人に会社の土地や建物等の資産を譲渡する際、著しく低い(あるいは高い)金額で
売買をおこなうと法人税や所得税、贈与税等がかかることがあります。法人税や譲渡所得を 計算する際の証拠資料の1つになります。
まとめ
1人で会社を経営している場合や、「父ちゃん社長、母ちゃん専務」といったような家族経営の会社ではとかく「株主総会」や「株主総会議事録」が軽視されがちです。しかし、解説した通り会社法や税法において非常に重要な意味をもつことはおわかり頂けたかと思います。過去分も含め、今一度会社に議事録が備え付けられているかチェックすることをお勧めします。
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