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遺産分割協議がまとまらず「調停」に その内側をリアルに紹介
2019年5月7日
親の相続で遺産分割の話が始まったとたん、長年離れて暮らしていた兄弟たちの間で揉め事になり、事態が動かなくなってしまった――。こんなときには、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てて解決する方法があります。とはいえ、そこは未知の世界。何が行われるのか、どんな姿勢で臨むのがいいのか? 実際に調停委員を経験した専門家への取材を基に現場を「再現」してみました。
右肩上がりに増えている
被相続人(亡くなった人)の残した遺産は、故人の遺言書があれば、原則としてそこに書かれた内容に従って分けられます。しかし、それがない場合には、相続人全員による「遺産分割協議」を開いて、分け方を決める必要があります。この協議は、「全員参加」が条件ですから、1人でも出席しなかったらアウト。たとえ話し合いの場は持たれても、それぞれの主張が対立して平行線をたどることも、現実には珍しくありません。
いったんこじれた話は、「いくら続けても平行線のまま」という事態になりやすいもの。でも、それでは、いつまでたっても協議が終わらず、ずっと遺産を受け取れないことになってしまいます。
そんなときに打開策の1つとして考えられるのが、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てて、話し合いの場を「公」に移すことです。ちなみに、遺産分割をめぐって調停に持ち込まれる案件は右肩上がりに増えていて、「審判」(後述)も含め、現在年間約1万5000件と、10年前のおよそ1・5倍の水準になっています。
被相続人の遺言書がない場合に、民法に定められた相続人の遺産の取り分。
調停委員とは、自分と相手が個別に話をする
遺産分割調停がどういうものか、具体的にみていきましょう。調停を行うには、まず家裁への申し立てが必要です。相続人のうちの1人ないし複数人が申立人となり、他の相続人を相手として、手続きを行います。その申し立てが裁判所に受理されると、調停期日が決定され、双方は裁判所に呼び出されることになります。
ところで、裁判所といえば思い浮かぶのが、その名の通り「裁判」。調停は、それとどう違うのでしょうか? 裁判は公開の場で行われます。その場で原告側、被告側が意見を述べ合い、それを判断材料に裁判官が判決を下します。それに対して、調停の舞台は非公開です。紛争当事者の間に立つのは、家事審判官(家裁の裁判官)と男女1名ずつの調停委員で構成される調停委員会。裁判のように、争っている双方がお互い主張をぶつけ合うのではなく、あくまでもこの調停委員会を介した話し合いでの合意を目指していくのが基本。「話し合いでの合意」ですから、調停委員会が結論を下すようなことはありません。結果的に、「やっぱり話はまとまらなかった」となる可能性もあります。
では、ここからは、奥さんとともにお母さんと同居して介護してきた長男のあなたが申立人となり、「理不尽な」要求をしてきた妹たちを相手として調停を行う、というシチュエーションで話を進めることにしましょう。調停当日、裁判所に出向いたあなたは、とりあえず妹さんたちは別の部屋に通されます。話し合いは、原則として調停委員があなたと妹さんたちそれぞれから個別に言い分を聞き、必要な場合には両者が一緒に話をする、という形で行われます。
遺産分割調停の論点は、決まっています。①誰が(相続人の確定)、②何を(財産の範囲の確定)、③どれだけ(財産の評価の確定)、④どのような割合で(具体的相続分の確定)、⑤どのように(分割方法の確定)分けるのか――。調停委員会とのやり取りは、基本的にこの内容、手順に沿って進んでいきます。
あなたは、実家で妻と自分がずっと年老いた親の面倒をみてきたという事実を挙げつつ、今回の相続にあたって自分たちがもらいたいのは自宅と預金の一部で、残りの現金などはすべて姉たちに渡すのだから不公平にはなっていないはずだ、と訴えます。一方「面倒をみたと言いながら、兄が親からお金をもらっていたのを知っている」「母はもっとへそくりを蓄えていたに違いない」というのが、妹たちの言い分。余談ながら、調停の際には、裁判官も黒い法衣などは纏っておらず、平服です。そんな裁判所とは思えないような雰囲気も手伝ってか、調停委員の前で、姉たちは感情も露わに「弟が示した金額では、取り分が足りない」と主張したようです。
当然のことながら、調停委員会は、申立人、相手側のどちらかの「味方」ではありません。一方の言うことに耳を傾けながら、それを相手側にどう伝えるべきかなどにも気を配りながら、解決策の提示を行ったり助言したりしながら、解決の糸口を探っていくわけです。
忘れてはならないのは、調停委員も「相続でもつれてしまった糸を、なんとか解きほぐしてあげたい」と考えている、やはり感情を持った人間であること。彼らの前では、遺産分割についての自分の主張を的確にわかりやすく説明するのが、第1に重要になります。同時に、相手側の言い分には一切聞く耳を持たないといった対応は、必ずしもプラスにならないことを心すべきでしょう。
「第3者の関与」が、事態を変える
調停の時間は、だいたい1~2時間程度。折り合いがつかなければ、1~2か月間隔で2回、3回と行われます。さて、初めは「聞く耳を持たなかった」妹さんたちでしたが、調停委員と何度か話をするうちに、だんだん彼らに心を開くようになったようです。調停のメリットは、利害関係者以外の第3者に話を聞き、アドバイスをもらえること。うまく事が運べば、それによって解決不能に思われた骨肉の争いが解決に向かうのです。
めでたく話し合いはまとまり、妹さんたちと「調停証書」を作成することになりました。これは判決と同等の効力を持ち、例えば調書に基づいて不動産の登記などができるようになります。
残念ながら、最後まで話し合いがまとまらなかったら? そのときは、「審判」の手続きに移行することになります。そうなると、「話し合い」の余地はなし。家事審判員が、職権で事実の調査などを行い、当事者の希望は考慮されるものの、ほぼ独断で遺産の分割が行われます。
ただし、この場合は、さまざまな不利益を覚悟しなければなりません。例えば、話し合いがついていれば売却できた不動産が、ずっと安い価格で手放さざるを得ない競売に付されることになってしまった、というようなことが起こるかもしれないのです。ここまでくると、長い時間をかけて争って、結局得るものの少ない“痛み分け”となることが、少なくないようです。
まとめ
遺産分割調停は、第3者の関与によって、相続人同士の話し合いを前進させるのに効果的。ただし、調停が始まったら、当事者自らが「必ず話し合いで解決する」という姿勢で臨み、それにふさわしい対応を心がけることが大事です。