「法人税」というキーワードは新聞などでよく見かけます。しかし、所得税や消費税と違い、身近な税金といえません。しかし、事業活動で税金を納めなければならない以上、法人にとって法人税の知識は避けて通れない税目でしょう。そこで、会社に課税される法人税について詳しく解説します。
法人税の基礎知識
会社に課税される法人税の基礎知識について説明します。
法人税とは
法人税は会社のもうけ(利益)に相当する所得金額に対して課税する税金であり、赤字の場合には課税されません。また、個人のもうけに相当する所得金額に対して課税する所得税と共通しているのも法人税の特徴といえます。
法人税と所得税との違い
法人税と所得税のおもな違いは次の通りです。
(1)税率
所得税は累進課税制度を採用しているため、税率が所得金額に比例します。一方、法人税の税率は所得金額によってあまり左右されないのが特徴です。
(2)経費に計上できる範囲
所得税は代表者と会社が同一人物のため、社長への給与などを経費に計上することはできません。同一人物である代表者と会社が取引をするという考えが成り立たないためです。
しかし、法人税は代表者と会社が別人物となるため、社長に対する役員報酬を経費に計上することができます。
法人税と所得税のどちらが得するの?
たとえ同額の所得金額でも、税率の違いにより、法人税と所得税とでは納税額が異なります。また、経費に計上できる範囲も違うため、同額の収支でも、法人税と所得税とでは所得金額に差が生じます。そのため、法人と個人のどちらが得するのかについては、詳しく検証して初めてわかるのが現実でしょう。
法人税VS所得税~税率の違いを検証~
税金面で法人と個人のどちらが得するのか確かめるため、法人税と所得税の税率の違いについて検証します。
法人税の税率
法人税の税率は一律なのが原則です。しかし、中小企業の場合、年800万円までの所得金額について軽減税率が適用されます。税率の一覧表は次の通りです。
区分 | 税率 |
---|---|
資本金1億円以下の中小企業 | 所得金額が年800万円以下の部分:19% |
所得金額が年800万円超の部分:23.2% | |
資本金1億円超の中小企業以外の企業 | 一律23.2% |
所得税の税率
前述の通り、所得税は累進課税制度を採用しているため、税率が所得金額に比例します。具体的には次の通りです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
地方税も加味する
税金面で法人と個人のどちらが得するのかを確かめるのに、法人税と所得税の税率のみの検証では不十分であり、地方税も加味する必要があります。
(1)法人
法人に課税される地方税は所得割と均等割に大別できます。所得割とは、所得金額に対する税金です。均等割とは、企業の規模に対する税金であり、たとえ赤字でも課税されるのが特徴です。
法人の場合、所得割の税率と均等割は自治体ごとで少し異なります。東京23区の中小企業を例にすると、税率と均等割は次の通りになります。
①税率
地方法人税と法人住民税を合計した税率は法人税に対して17.3%になります。一方、法人事業税の税率は所得金額に応じて3段階に区分されます。
- 年400万円以下の所得金額:3.4%
- 年400万円を超え年800万円以下の所得金額:5.1%
- 年800万円を超える所得金額:6.7%
②均等割
最低額は年7万円になります。
(2)個人
法人と同じように個人の地方税も所得割と均等割に大別できます。それでは、東京23区を例に所得割の税率と均等割について見ていきましょう。
①税率
所得金額に対する税率は個人住民税が一律10%、個人事業税が業種に応じて一律3%~5%になります。
②均等割
6,000円になります。
なお、法人税や所得税の国税と地方税の税率を合計した税率のことを実効税率といいます。
実効税率と均等割が損得を検討するポイント
税金面で法人と個人のどちらかが得するかどうかを検討するポイントは実効税率と均等割になります。たとえば、個人事業主が法人化を検討する場合、所得金額が多ければ実効税率で検討すべきでしょう。また別の例として、所得金額が少ない場合、均等割で検討する選択肢もあり得ます。
法人税VS所得税~法人のみ計上できる経費を検証~
法人のみ計上できる経費が本当に所得税より法人税のほうが得するのかどうかについて検証します。
役員報酬
役員報酬が法人の経費に計上できるメリット・デメリットについて見ていきましょう。
(1)メリット
メリットは次の通りです。
①税率のコントロールに利用できる
前述の通り、累進課税制度により、代表者など家族の所得税の税率は所得金額に比例します。しかし、法人の場合、役員報酬を経費に計上すれば、事業活動で獲得した利益を法人と個人に分散することができ、代表者など家族の所得税の税率をコントロールすることが可能です。
②青色申告特別控除よりも多くの経費が計上できる
支出の伴わない経費である青色申告特別控除は最高65万円ですが、代表者の給与所得(役員報酬)にかかる給与所得控除は最低65万円、最高220万円です。
(2)デメリット
役員報酬には約30%の社会保険料がかかり、法人と個人で折半して負担します。国民年金や国民健康保険よりも上回れば、コスト面においてデメリットと捉えることもできます。
社宅家賃
代表者の社宅家賃の会社負担分は福利厚生として、法人のみ経費に計上することができます。個人の場合、会社が同一人物である代表者に対する福利厚生という考えは成り立たないため、社宅家賃の会社負担分を経費として認められません。
通勤手当
法人の場合、代表者のマイカー通勤に対する通勤手当も経費に計上できます。一方、個人の場合、電車代など実際に負担した金額が旅費として経費に計上でき、そもそも代表者への通勤手当という概念が存在しません。
繰越損失
繰越損失は今年度の損失を翌年度以降に繰り越せ、経費に計上することができます。そのため、赤字分を翌年度以降の節税対策に利用できるメリットが得られます。その繰り越せる期間は法人が最大10年、個人は最大3年になります。
法人税VS所得税~税金以外の注意点~
法人税と所得税では税金の計算以外にも注意すべき点があります。
確定申告の手間の違い
個人よりも法人のほうが確定申告の手間はかかります。法人税の確定申告書や決算書の枚数が多いのはもちろん、定時株主(社員)総会議事録の作成など会社法に関係する書類も作成しなければなりません。事務的手間がかかるため、人件費などのコスト増につながる可能性があります。
経理処理の違い
法人税は定時株主総会で可決された利益に基づき、所得金額を計算する方法を採用しています。このことを確定決算主義といい、税金を計算するためには、事前に株主の同意が求められます。一方、所得税を計算する前に代表者以外の人物からの同意を必要としません。
確定決算主義では、法人の場合は経理処理ミスにより経費に計上できないケースがあります。固定資産の購入金額を経費に計上する減価償却を例にしましょう。個人の場合、確定申告で少なく申告しても、更正の請求により再計算が認められます。しかし、法人の場合、定時株主総会で事前に株主の同意を得ていないため、少なく申告した減価償却費についての再計算は不可能です。
まとめ
法人税の特徴は税率がコントロールできる点に尽きます。事業活動で獲得した利益を法人と個人に分散する金額について、役員報酬の支給額の決定など代表者の意思決定が反映されるためです。法人税を所得税と比較しながら理解し、税金面で法人と個人のどちらが得するのかについて考えてみてはいかがでしょうか。