フリーランスの方で税務調査を受けたことがあるという方はそう多くないでしょう。しかし、フリーランスでも税務調査の対象となることはあるので油断は大敵です。そこで、今回は税務調査の流れなどの基礎知識から対策まで徹底解説します。
フリーランスは税務調査の対象になるのか?
税務調査は、フリーランスでも対象となります。しかし統計的な数字を見てみると、2016年度における所得税の税務調査件数は7.0万件、法人税は9.7万件で、全体の確率で言えば個人が1.1%、法人でも3.2%に過ぎません。さらに、個人の場合は相続税や贈与税の調査なども含まれますので、フリーランスに対する税務調査の確率は極めて低いと言えます。
とは言え、売上高の割に所得金額が極端に低い場合などは、税務調査が入りやすくなります。可能性がゼロではない以上、いざという時のために、税務調査がどのような手順で行われるのか、一連の流れを知っておくことは決して無駄ではないでしょう。
税務調査の流れ
事前調査
税務署内で、どの企業または個人に対して行うのかを調査して選定します。事前調査では、過去数年の申告の推移を参考に、急激に増えた売上にどのような意味があるのか、仕入、経費におかしな点はないかなどを調査します。さらに、調査対象となる店舗や車の外観チェックを行ったり、実際に店舗内に入って内偵調査をしたりする場合もあります。これらの調査結果により、対象の企業や個人に事前通知をして実地調査に入ります。
事前通知
一般的な税務調査の場合は、税務署から通知が送られます。顧問税理士がいる場合は顧問税理士に電話で連絡が入ります。その内容は、税務調査の日時、調査場所、調査の目的、調査対象の税目、調査期間などが伝えられます。税務署が指定した調査日程が難しければ、納税者側で日時の指定を行うことも可能です。
なお、現金取引の多い飲食店や、関係者からの通報、過去に悪質な脱税があった場合は、事前通知が行われずに抜き打ちで調査が入ることがあります。これを「現況調査」と呼びますが、抜き打ちといっても強制ではないため、顧問税理士立ち会いのもとで調査を受けることが可能です。
調査には、この「現況調査」の他に「一般調査」「特別調査」「反面調査」があります。通常、税務調査と言えば一般調査のことを指し、事前通知の上、過去の帳簿を元に調査が進められます。特別調査は、多額の不正があったと疑われる場合に行われ、一般調査よりもさらに詳細な調査となるので長引くことがほとんどです。反面調査は、調査対象の企業または個人と関係のある取引先などへの調査を指します。
実地調査
事前に税務署から通知を受けた内容に沿って調査が進められ、通常は2日から3日で終わります。顧問税理士が立ち会っている場合は、税務署からの指摘に対して税理士が対応します。顧問税理士がいない場合は納税者が自ら対応することになりますが、過度に恐れる必要はありません。ただし、調査中の軽率な発言が後々トラブルに発展する可能性もあるため、指摘や質問に対しては慎重に答えましょう。
調査結果の連絡
実地調査後、税務署員は実地調査で収集した資料を基に分析を行います。分析の結果、問題がなければ「申告に問題はなく適正である」という旨の是認通知が届きます。これによって税務調査は終了となります。
万一、問題があると指摘された場合は、指摘事項について通知があります。この指摘事項についてどちらの主張が正しいのかをさらに検討し、解決するまで税務署とやり取りを行わなければなりません。
問題があった場合の対応とペナルティ
税務署からの指摘事項について、それを認める場合は修正申告を行います。逆に、指摘事項が不服である場合は、修正申告を行わずに更正処分の通知を待ちます。更正処分では、申告した内容に関して税務署側が強制的に修正を加え、納めるべき税金の不足分を求められます。この更正処分に納得できない場合、再調査の請求(異議申し立て)、審査請求といった流れで税務署と裁判で争うことになります。
修正申告後に納めるべき税金は、不足分の税金の他にも、延滞税、過少申告加算税がペナルティとして加算されます。また、申告自体をしてしなかった場合は無申告加算税が、悪質な申告を行っていた場合は重加算税がそれぞれ加算されます。また、修正申告によって所得額が変わるため、住民税や健康保険税も増えてしまいます。
なにを見られるのか?
税務調査が入った場合、以下の書類が必要になります。通常は過去3年間分ですが、調査内容が疑わしい場合は最大7年前まで遡ってチェックされますので、事前に準備しておきましょう。
- 総勘定元帳
- 申告書の控え
- 領収書
- 請求書
- 預金通帳
- 販売契約書などの契約書
- 従業員関係の書類
- 給与関係の書類
- 議事録
- その他必要書類
税務調査官は、これらの資料のほぼすべてに目を通しますが、その中でも特に重点的に調査するのが売上と経費です。具体的には、以下のポイントが精査されます。
- 売上の計上ミスや抜け
- 個人の経費が計上されていないかどうか
- 在庫の評価額
- 人件費・外注費
他にも、税務調査が始まる前に調査官が事業内容の確認や現状についてのヒアリングを行い、話の内容に調査内容との相違点がないかどうかをチェックします。
税務調査の対策
税務調査に対して、どのような対策をすればいいのでしょうか。まず前提として確認しておきたいことは、よほど悪質な申告をしない限り、いきなり調査官が押しかけるようなことはないという点です。事前通知が入った後に調査がありますので、当日までに準備をしておき慌てないようにしましょう。
領収書やレシートは整理して保管する
税務調査で提出を求められる書類に必ず含まれるのが領収書です。提示を求められたらすぐに対応できるよう、きちんと整理して保管しておきましょう。できれば、月ごと日ごとに分類しておくと良いでしょう。その際には、領収書やレシートの裏に使用用途、相手がある場合は相手の名前などのメモを書いておくことをオススメします。
申告書は税理士に確認してもらう
申告書に税理士の署名・捺印があれば、その申告書の内容は税理士によって保証されているということになります。この場合、税理士の署名・捺印がない申告書よりもはるかに信頼性が高まることは明白です。ただし、税理士が確認しているからといって税務調査が来ないとは限りませんので注意しましょう。
適切な勘定科目を使う
経費の中でも、「雑費」の勘定科目は内容が不明瞭なため、この金額が大きすぎると税務調査の対象になりやすくなります。勘定科目の知識をしっかりと身につけて計上することが大切です。
申告書の「特殊事情欄」を使う
前年と比較して売上が急伸している場合も、税務調査の対象となる可能性が高まります。そのため、申告書にある「特殊事情欄」を用いて、急伸している理由を注意書きしておきましょう。また、売上だけではなく経費についても、ある年だけ突出して大きくなってしまうということが起こり得ます。この場合にも、特殊事情欄に「突出した経緯・理由」を注意書きしておくと税務調査を回避しやすくなるでしょう。
まとめ
今回は、フリーランスのための税務調査の基礎知識と、その対策についてお伝えしてきました。税務調査が絶対に来ないという保証は誰にもありませんが、日々の正しい帳簿付けと申告ができていれば、それほど恐れる必要もありません。誠実に申告を行いましょう。