大企業のほとんどが株式会社であり、馴染み深いでしょう。一方、西友が合同会社というように確実に注目度が増しています。しかし、両者の違いが分かりづらいためか、選択ミスにより無駄なコストがかかるケースがあります。そこで、会社を作る前にこそ知っておきたい株式会社と合同会社を選ぶポイントについて解説します。
株式会社・合同会社とは
株式会社と合同会社の違い
株式会社と合同会社は会社法上の会社であり、全部で4種類あります。
(1)株式会社
出資者である株主で構成されている会社です。株主は有限責任であり、債権者に対して出資した金額の範囲内で責任を負います。たとえば、会社が倒産して、最終的に借入金3,000万円が残ったとします。出資した金額が500万円なら株主の損失も同額(500万円)で済み、残額(2,500万円)の返済義務は負いません。
(2)合同会社
出資者である有限責任の社員で構成されている会社です。
(3)合資会社
無限責任の社員と有限責任の社員で構成されている会社です。無限責任とは、社員が債権者に対して債務の全額の返済義務を負うことを指し、責任の範囲は出資した金額に関係ありません。最低2人以上の社員が必要であり、単独で設立することは認められないのが特徴です。
(4)合名会社
無限責任社員から会社であり、債権者に対する責任が個人事業主と同じなのが特徴です。
株式会社と合同会社の大きな違いは次の通りです。
- 株式会社:株主(出資者)と取締役(経営)を分離することが可能
- 合同会社:社員と取締役が同一人物でなければならない
株式会社と合同会社の共通点
株式会社と合同会社の共通点についても知っておく必要があります。
(1)会社法上の会社
会社法上の会社は営利目的の団体です。そのため、利益の獲得が前提となり、税金の計算にも影響します。たとえば、ある人に無利子でお金を貸し付けた場合、税法上では営利企業なら受け取るはずの利息を相手に寄付したという取り扱いになり、会計処理は次の通りです。
借方 | 貸方 | 金額 | 備考 |
---|---|---|---|
寄附金 | 受取利息 | 5万円 | 受取利息は利益に計上し、寄付金は基本的に経費に計上できません。 |
(2)有限責任
有限責任である以上、その会社に対する債務の全額の返済義務がないため、出資者のリスク軽減により、無限責任よりも設立のハードルが低くなるといえます。
(3)税金の取り扱いが同じ
株式会社と合同会社は営利目的の法人であり、法人税や消費税などの税率・計算方法や納税額は同じです。
株式会社と合同会社の選択ミスによるリスク
会社の選択ミスにより、「合同会社→株式会社」または「株式会社→合同会社」の組織変更に伴うコストが増加してしまいます。たとえば、変更登記にかかる登録免許税、社名に伴う名刺代やパンフレット代などの負担が必要です。また、組織変更の完了が1ヵ月以上かかることも忘れてはいけません。
株式会社のメリット・合同会社のデメリット
「株式会社のメリット=合同会社のデメリット」を見ていきましょう。
社会的信用度
株式会社のほうが認知度が高く、事業活動で有利になる確率が高くなる傾向にあります。たとえば、求人募集をする場合、求職者は認知度の低い合同会社を敬遠するかもしれません。
融資を受けやすい
融資担当者は返済能力の目安として、その会社の社会的信用度を重視します。そのため、認知度の高い株式会社のほうが融資をしやすい傾向にあります。そのため、金融機関からの借り入れでは合同会社のほうが不利といえます。
資金調達で有利
株式会社は誰でも株主として出資できるため、不特定多数から資金調達が受けられます。たとえば、資金繰りが苦しく金融機関からの融資を断わられた場合、経営にタッチしない家族などが会社に資金投入をすることができます。しかし、合同会社は「出資者=経営者」のため、資金調達の相手先を吟味することが必要です。
キャピタルゲインが得られる
キャピタルゲインとは、保有している資産の売却による利益のことを指します。株式会社は株式の売買が自由にでき、時価である売却価格と出資金額(=購入金額)の差額(含み益)をもうけることが可能です。たとえば、創業者が会社の上場後、株価が跳ね上がったタイミングで売却すれば、多額の利益が得られます。しかし、合同会社はたとえ含み益が多額でも出資持分を自由に売買することができません。
合同会社のメリット・株式会社のデメリット
次に「合同会社のメリット=株式会社のデメリット」について説明します。
設立コストが安い
そもそも合同会社は会社設立をするのに公証人の定款認証が不要であり、5万円の手数料が節約できます。また、定款を紙媒体で作成する場合でも、4万円の収入印紙代も不要です。
役員の任期がない
合同会社は役員の任期がありません。そのため、任期満了に伴う役員変更登記の手続きや収入印紙代1万円(資本金1億円を超える企業は3万円)が不要です。しかし、株式会社の役員の任期は最長10年であり、変更の手続きを怠ると罰金が科せられてしまいます。
公告が不要
株式会社は貸借対照表などの決算公告や組織変更に関する公告などを新聞やインターネット上などに公告する義務が課せられています。公告とは、会社と利害関係のない第三者でも情報を閲覧できる制度であり、怠ると罰金が科せられてしまいます。しかし、合同会社は公告が不要であり、得意先などに情報開示をしたくない経営者に向いています。
意思決定がしやすい
合同会社は経営者と出資者が一致しているため、意思決定がしやすいのが特徴であり、利益の配当金額などの意見の食い違いによる利害対立のリスクが低くなります。しかし、株式会社の場合、事業経営の方針などで株主と対立した場合、経営者は意向を無視することができず、意思決定に支障をきたす場合もあります。
株式会社と合同会社を選択するポイント
株式会社と合同会社のメリット・デメリットを踏まえたうえで、選択するポイントについて説明します。
事業拡大をしたいなら株式会社
資金調達の有利さや社会的信用度を生かして事業拡大をしたい経営者は株式会社を選択すべきでしょう。たとえば、リアル店舗の会社が立地条件のよい一等地に新規オープンする場合、物件の改装費用や敷金・礼金、商品の購入費用などの投入資金を調達しなければなりません。その点、資金調達で不利な合同会社は事業拡大に不向きといえます。
クオリティー向上に専念したいなら合同会社
合同会社は「出資者=経営者」のメリットを生かして、クオリティー向上に集中することが可能です。しかし、株式会社は株主の意向を無視できないなどの対立により本業に専念できないケースがあります。そのため、資金調達の幅や社会的信用度を気にしなければ、合同会社を選択すべきでしょう。
まとめ
株式会社と合同会社の選択は会社設立前が肝心です。組織変更に伴うコストの増加はもちろん、「5年後、10年後の会社はこうしたい」という将来像にも関係します。まずは会社設立の事例が豊富な専門家に相談することをおすすめします。