融資やローンの契約時に使うことがある確定申告書の控えを紛失した場合、どうすればよいのでしょうか。実は税務署には、提出した確定申告書の内容を確認できる「閲覧請求」と「開示請求」という方法があります。2つの内容の違いを解説するとともに、確定申告書の控えを紛失した場合にどうすればよいのかご紹介します。
そもそも確定申告書の控えはなぜ必要か
確定申告書には提出用と控え用があります。申告書を書面で提出する場合、税務署で提出用と控え用に収受印を押してもらい、控え用を返却してもらいます。収受印が押された控えは、確定申告書を提出した証明になるほか、所得証明の書類や融資審査の材料としても使われます。
会社員の場合、源泉徴収票が所得証明の書類となりますが、個人事業主の場合は収受印が押された確定申告書の控えが所得を証明する書類に相当します。保育園の入園や住宅ローンなどの申し込み、金融機関から融資を受ける際などに、収受印が押された確定申告書の控えが必要になります。
なお、e-TAXで確定申告書を作成・提出している場合は控えに収受印を押してもらうことができません。申告データと受信通知データを印刷して、2点をセットで提出することで収受印が押されている確定申告書の代わりとなります。
過去に提出した確定申告書の情報を知るための2つの手続き
「収受印が押された確定申告書の控えが必要なのに、収受印が押された確定申告書の控えを紛失してしまった」「そもそも控えを提出していないので収受印を押してもらっていない(控えだけを後日持参して、収受印を押してもらうことはできません)」という場合、税務署で「閲覧請求」または「開示請求」という手続きをすれば、提出した過去の確定申告書を知ることができます。
閲覧請求と開示請求の違い
「閲覧請求」とは、税務署で過去の確定申告書を閲覧するための手続きです。閲覧した内容はメモしたり、スマートフォンなどで画像を保存したりできますが、申告書の控えをもらうことはできません。
一方の「開示請求」とは、確定申告の控えをもらうための手続きです。各種申し込みのために確定申告書の提出が求められている場合、開示請求を利用します。
いずれの場合も、納税者本人または代理人が請求できます。
閲覧請求と開示請求の対象となる申告書
閲覧請求・開示請求ができる申告書は以下のとおりです。書面提出のほか、e-Taxで提出されたものも閲覧請求・開示請求の対象となります。
- 所得税及び復興特別所得税申告書
- 法人税及び地方法人税申告書、復興特別法人税申告書
- 消費税及び地方消費税申告書
- 相続税申告書
- 贈与税申告書
- 酒税納税申告書
- 間接諸税に係る申告書
- 各種の申請書、請求書、届出書及び報告書等
- 上記申告書等に添付した書類(青色申告決算書や収支内訳書など)
閲覧請求と開示請求の手続き
閲覧請求をすれば、請求したその日に税務署で申告書を閲覧することができます。一方、開示請求は請求書を提出してから申告書の控えを受け取るまで日数がかかります。それぞれの手続き方法や必要書類について見ていきましょう。
閲覧請求の手続きと必要書類
閲覧請求の手続きはさほど複雑ではありません。
(1)申請
確定申告書を提出した税務署の窓口に「申告書等閲覧申請書」を提出します。その際、本人確認書類(運転免許証・健康保険証・マイナンバーカード・住民基本台帳カードなど)を提示します。また、窓口で申請書を作成したり、持参した申請書に不備があったりしたときのために印鑑も持参しましょう。
なお、代理人が閲覧する場合は、委任状・代理人の印鑑・委任状に押印した実印に対する印鑑登録証明書(申請日前30日以内に発行されたもの)が必要です。
(2)閲覧
原則、申請書を出したその日に税務署内で閲覧ができます。手書きでメモを取るほか、スマートフォンやデジタルカメラを使って静止画を撮影することができます。撮影後は署の担当職員に画像をチェックしてもらい、閲覧終了です。
ただし、国税庁の「申告書等閲覧サービスの実施について」には「撮影した写真は申告書等の内容確認以外で使用しないこと」と記載されているため、画像を所得証明には使えないので注意しましょう。
開示請求の手続きと必要書類
確定申告書の控えをもらう開示請求の手続きは、閲覧請求に比べて少し手間がかかるうえ、時間もかかります。
(1)申請
「保有個人情報開示請求書」または「特定個人情報開示請求書」を税務署の窓口に提出するか、郵送します。マイナンバー(個人番号)が記載されている申告書の控えが欲しい場合は「特定個人情報開示請求書」を使います。
開示請求書の「2 求める開示の実施方法等」で、窓口で開示を受けるか写しを送付してもらうかを選択するようになっています。あらかじめ方法を決めている場合は、記入しておきます。申請時点で未定の場合は、開示決定後に提出する「保有個人情報の開示の実施方法等申出書」に記入するので、空欄でもかまいません。
- 税務署の窓口で申請
開示請求書とともに、本人確認書類として下記のいずれかを提示または提出します。
運転免許証
健康保険証
マイナンバーカードなど
開示請求手数料(確定申告書1件につき300円)を開示請求書に収入印紙を貼付するか、現金で支払います。また、念のため印鑑も持参しておくとよいでしょう。 - 開示請求書を郵送
上記の本人確認書類のコピーと住民票の写し(開示請求日前30日以内に作成され、マイナンバーが記載されていないもの。コピー不可)を請求書に添えて提出します。マイナンバーカードのコピーを本人確認書類として提出する場合、表面(マイナンバーが記載されていない面)のみを提出します。
開示請求手数料は、収入印紙を開示請求書に貼付して納めます。
(2)開示・不開示の決定通知
原則30日以内に開示・不開示の決定が通知されます。
(3)開示実施
開示決定通知を受けたら、通知のあった日から30日以内に開示の実施を申し出て、確定申告書の控えを受け取ります。
開示の際には「保有個人情報の開示の実施方法等申出書」を提出する必要がありますが、開示申請書で希望した開示の実施方法で開示できる旨が開示決定通知書に記載されています。もし変更する必要がない場合は「保有個人情報の開示の実施方法等申出書」は提出不要です。
申請時点で開示申請書に開示の実施方法を決めていなかった場合、開示決定通知書に開示の実施方法が記載されているので選択し、「保有個人情報の開示の実施方法等申出書」に開示の実施方法などの必要事項を記載して提出します。なお、確定申告書の控えを郵送で希望する場合は、返送用の切手が必要になります。
※代理人も委任状などを添えることで開示請求を行うことができます。ただし、代理人が法定代理人ではなく、任意代理人である場合、開示請求できるのはマイナンバーが記載された確定申告書の控えのみになります。
まとめ
個人事業主にとって、税務署の収受印が押された確定申告書の控えは所得を証明するための重要な書類です。提出済みの確定申告書の内容を税務署で確認する方法には、閲覧請求と開示請求がありますが、手元に確定申告書の控えが欲しい場合は開示請求をする必要があります。
開示請求による確定申告書の交付を受ける際は、開示申請-開示決定-開示実施と手続きを経る必要があり、申請当日には交付できないことに注意しましょう。