【比較検証】個人事業主が支払う税金は 高すぎるって本当!? | MONEYIZM
 

【比較検証】個人事業主が支払う税金は
高すぎるって本当!?

個人事業主として開業し、算出された納税額を見て「こんなに支払わなければならないのか!?高すぎる!」「税金が高いから法人化したい」と思われる方も多いのではないでしょうか?

本当に個人事業主が支払う税金は高すぎるのか?法人の方が節税になるのか?今回は例を挙げながら比較検証していきます。

個人事業主が支払う税金は高すぎる!?節税には法人化がおすすめ?!

個人事業主が支払わなければならない税金の種類

個人事業主が支払わなければならない主な税金の種類は以下のとおりです。

 

1.所得税及び復興所得税
2.消費税及び地方消費税
3.個人事業税
4.市県民税(住民税)
5.固定資産税
6.源泉所得税

 

確定申告で納める税金が「所得税」であり、売上高が1,000万円を超える場合には「消費税」も併せて納付しなければなりません。

 

事業のもうけ(所得)がある一定の金額を超えれば「個人事業税」、土地・建物等の固定資産を所有すれば「固定資産税」、従業員を雇用した場合には「源泉所得税」と、これだけの税金がかかります。

法人が支払わなければならない税金の種類

一方、法人の場合は以下のようになります。

 

1.法人税及び地方法人税
2.消費税及び地方消費税
3.法人事業税
4.法人県民税、法人市民税
5.固定資産税
6.源泉所得税

 

対象期間や計算方法の違いはありますが、個人事業と法人の1.~6.を比較してみると、税金(税目)名が若干異なるだけで、種類的に特別な違いはありません。

 

つまり、個人事業と法人の違いは課税される税金の多寡ではなく、

  • 利益(所得)に対する税金の計算方法
  • それぞれに認められる税法上の特典

 

の違いがポイントとなります。

「納税」徹底比較!個人事業主と法人、どっちがいい!?

開業・設立後に支払う税金

では、具体的な計算方法や税法上の特典を踏まえて、個人と法人の税率を比較していきます。

※個人と法人で税額に差が出ない税金は割愛します。

※前章で挙げた税金のうち「2.消費税及び地方消費税」「5.固定資産税」「6.源泉所得税」については計算方法が同じであるため有利不利という問題は発生しません。

1.~6.に挙げていない他の税金についても同様です。

<東京都渋谷区で利益(所得)400万円の物品販売業を営む事業者の場合>
個人事業主 法人
所得税/法人税 約9.5% 15.66%
個人事業税/法人事業税 1.375% 約4.86%
市県民税(住民税)/法人県民税法人市民税 約9.3% 約3.19%
合計 約20.105%
(約804,200円)
約23.71%
(約948,400円)

▼参考サイト

単純な実効税率(所得に対して支払う税金の割合)の比較であれば個人事業の方に軍配が上がります。

 

しかし、事業を法人化した場合、事業主が無給で仕事をするわけではありません。当然「役員報酬」を会社から貰い、その支払額を経費として計上しますので上記の比較に事業主個人の役員報酬に対する所得税、住民税を加味する必要があります。

 

<上記の例で、法人が役員報酬400万円を支給(=所得0円)した場合>
個人事業主 法人
所得税/法人税 約9.5% 0%
個人事業税/法人事業税 1.375% 0%
市県民税(住民税)/法人県民税法人市民税 約9.23% 1.75%
役員報酬(400万円に対する)
役員報酬(400万円に対する所得税) 約12.68%
合計 約20.105%
(約804,200円)
約14.43%
(約577,200円)

 

トータルで支払う税金を比較すると、今度は法人の方が有利となります。

税金だけで比べるのは危険!!

このように一見すると法人の方が有利と思われがちですが、この例示が成り立つのはあくまで年度末の所得金額が「400万円」であり、それに対して役員報酬を400万円支給することとした、という前提があるからです。

 

実務においては、法人が支払う役員報酬については税法上、利益操作を禁止するという観点から様々な制約が課されています。

 

中でも大原則なのが「支給額を途中で変更することができない」ということです(定期同額給与)。

その年の役員報酬の支給額は、前期の決算終了後に開かれる「株主総会」「取締役会」で決定され、以降その決定額で1年間払い続けなればなりません

 

決算日直前になって利益が出そうだから、という理由で役員報酬を増額することはもちろんできませんし、赤字になりそうだから、という理由で減額することも特別な理由がなければ認められません。

▼参考サイト

つまり、表2のような例示が成立するためには、翌年期末の利益金額を正確に予想し、あらかじめ役員報酬を設定する必要があります。

 

予想が外れて利益が出てしまえば表1のように個人事業より高い実効税率で納税しなければなりませんし、逆に役員報酬が高過ぎれば赤字決算となってしまいます。

 

また、仮に1億円の利益が予想されるので役員報酬を1億円で設定できるか?という部分についても疑問があります。

先に述べましたが役員報酬には利益操作を禁止するという意味で制約が課されています。職務や職制、役員としての業務内容や同業他社との比較などを勘案し「貰い過ぎ」と税務署に判断されれば「過大報酬」として経費が認められないケースもあります。

 

 

法人化して役員報酬で節税を…と考えた場合に潜むリスクや難しさというのも考慮する必要があります。

 

また、年度末にどれだけ利益が出たとしても、役員報酬はあらかじめ定めた金額まで「しか」貰えません。

しかし、個人事業主は儲かった分をそっくりそのまま貰うことができ(当然利益に対する納税額は増えます)、法人よりもリスクが低いと考えるならば、個人事業の方が「高すぎる」という印象は薄くなるのではないでしょうか?

開業・設立時にかかる費用

参考までに、個人事業と法人でそれぞれ事業を立ち上げる際にかかる費用を比較してみましょう。

 

法人を設立するために必要な手続きとして「定款の認証」「法人登記」がありますが、全ての手続きを自分でした場合でも約25万円かかりますし、外部に委託すれば手数料込みで30~40万円になります。

 

その点、個人事業に関しては定款や登記が必要ありませんので設立時にかかる費用はありません。初期費用という観点では個人事業の方が有利です。

支払う税金以外のメリット・デメリット

前述した通り、個人事業と法人では一概にどちらが有利か?と言い切れないのが現状です。

 

ただ、個人事業、法人ともにメリット・デメリットがあり、営んでいる事業と照らし合わせ、よりマッチした方を選択することはできます。

 

最後に、税額以外のメリット・デメリットを簡単に列挙します。

 

個人事業主 法人
メリット ・決算日から納税までの期間が法人より猶予されている。
(法人は決算日から2ヶ月以内)・確定申告で作成する書類が少ないので申告が楽。・納付税額の予測計算が簡単。
(役員報酬の所得税等を勘案する必要がないため)
・役員報酬で事業主の所得が安定する。
・赤字を繰り越すことができる期間(繰越欠損金)が10年間。
・法務局で法人登記しているため、取引先(特に新規取引)に対して登記事項証明で事業内容を担保することが可能。
デメリット ・赤字を繰り越すことができる期間(繰越欠損金)が3年間のみ。

・事業内容を取引先(特に新規取引先)が把握しにくい→信用取引が法人より拡がりにくい。

・決算日から納税までの期間が個人より短い(2ヶ月以内)

・税務申告が煩雑。
(作成書類、税務判断を要する項目が多い)

まとめ

個人事業では、法人の「役員報酬」に見られるような節税テクニックがあるわけではありませんし、税額も高くなりがちです。しかし、どれだけ頑張っても貰う報酬に制約がある法人と違い、個人事業では頑張った分だけ手取りの報酬も増えますので、やり甲斐は大きいものです。事業の収益性や将来性、安定性を総合的に勘案し、自分に合ったビジネススタイルを選択していきましょう。

奥谷佳子
Webライター/ライター フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。 自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。 取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。
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