2019年10月に「値上がり」したのは、消費税だけではありません。住居を自然災害などから守る火災保険の保険料も引き上げられました(保険会社、地域などによっては値下げのケースもあります)。ところで、この火災保険の保険料は、還付(支払った保険料が戻ってくる)の対象になるのでしょうか? 今回は、「保険料と税」についてまとめました。
自然災害の急増を背景にした保険料値上げ
2019年9月に首都圏を襲った台風15号は、千葉県を中心に甚大な被害をもたらし、大規模停電も引き起こしました。家屋の損壊は2万戸に及ぶとの報道もありましたが、そうした被害を補償してくれるのが火災保険です。火災保険は「火事」を補償するだけではありません。契約内容によって、今回のような台風や落雷、水害、雪害などの自然災害に加え、漏水事故や盗難などにも対応しているのです。
その火災保険の保険料が、10月から基本的に値上がりしました。「基本的に」というのは、損害保険会社やプランの内容、建物のある地域、耐火か否かといった建物の構造などによって、保険料が倍以上に引き上げられた場合もあれば、据え置きや、反対に値下がりになったケースも一部ながらあるからです。被災リスクの差や、会社ごとの経営状況、商品戦略なども、価格に反映されたわけです。
今回の保険料値上げは、損保各社が保険料改定の目安とする「参考純率」が、全国平均で5.5%引き上げられたのを受けたもの。背景には、近年の自然災害の増加があります。被害が増えれば、それだけ損保会社が支払う保険金が膨らみますから、それに備える必要があるということです。
確かに、今回の千葉の事態を含め、毎年各地で発生する災害を目の当たりにすると、今の日本列島は「明日は我が身」の状況。火災保険の必要性を認識している人も多いのではないでしょうか。でも、しっかりした補償を受けようとすれば、それなりの保険料を覚悟しなくてはなりません。一部でも年末調整、確定申告で戻ってくるとありがたいのだけれど……。
生命保険に入っている場合は、毎年保険会社から「生命保険料控除証明書」が送られてきますから、保険料の一部が控除される(所得税の計算から除かれる=還付される)ことがわかります。火災保険も同じ保険。だから返ってくるのでは? 残念ながら、そうはなりません。かつては火災保険の保険料も所得控除の対象だったのですが、損害保険料控除の廃止に伴い、2007年以降、その対象から外れてしまいました。
地震保険は、控除の対象である
では、生命保険以外に、保険料が控除される保険はあるのでしょうか? その答えは「YES」で、公的年金や健康保険、介護保険などの社会保険料と地震保険料は、控除になります。保険料控除の対象になるのは、この3種類のみ。ですから、例えば自動車保険や旅行保険など、その他のものはすべて対象外なのです。ちなみに自動車保険は、社用車の保険料を会社が負担している場合には、会社業務に関連する経費として、法人所得から差し引くことが可能です。
この地震保険料控除は、さきほど述べた損害保険控除に代わって設けられたもので、原則として、所得税の控除額は最高5万円。年間の保険料がそれ以下の場合には、全額が控除されます。
さきほどの火災保険では、同じ自然災害でも、地震の被害は補償されません。一方、地震保険に加入するためには、必ず火災保険に入る必要があります。つまり、災害に備えてセットで加入した火災保険と地震保険のうち、後者の保険料だけが控除されることになるのです。
火災保険がNGで地震保険がOKというのは、ちょっと不思議な感じもしますが、そもそも地震保険は、他の保険と大きく性格が異なっています。保険というより制度に近い仕組み、と言ったらいいでしょうか。実は、地震保険という商品は、1種類しかありません。他の保険と違って、法律に基づいて国と民間の損害保険会社が共同で運営されていて、どこの損保を通じて加入しても、保険料も補償内容も被害の判定基準も同一なのです。
「制度」という意味が、わかっていただけたでしょうか。要するに、日本は世界に冠たる地震国である。いったん見舞われたら、甚大な被害を被ることになる。個人個人で、それに備えてもらいたい――ということ。保険料の控除は、国レベルでその備えを推進するためのインセンティブと言っていいでしょう。「税」には、そうしたメッセージが込められることもあります。
まとめ
支払った保険料が控除されるのは、社会保険料、生命保険料、地震保険料の3つ。火災保険などには、保険料の控除はありません。