所得税や住民税、消費税など、個人事業主は多くの税金を納める必要があります。その多くが業種に関係なく、もうけなどに応じて税額が決まる税金になっています。しかし、個人事業主が営む業種によって、税金の額が変わるものがあります。それが個人事業税です。ここでは、個人事業主が支払う個人事業税について解説します。
個人事業主が支払う個人事業税とは
個人事業主は、個人事業税を支払う必要があります。しかし、すべての個人事業主が個人事業税を支払う義務があるわけではありません。ここでは、そもそも個人事業税とは何か、どのような人が支払わなければならないかについて、見ていきましょう。
個人事業税とはどんな税金?
個人事業税とは、個人が営む事業に対して課される税金のことです。国に納める国税ではなく、都道府県に納める地方税となります。あくまで事業に対して支払う税金になるため、住んでいる場所ではなく、事業所や事務所がある都道府県に納めます。
個人事業税を納める人と納めない人
個人事業税は、すべての個人事業主が納める税金ではありません。個人事業主の中に、個人事業税を納める人と納めなくてもよい人がいます。次の2つによって判断します。
①営んでいる事業が法定事業かどうか
個人事業税が課される事業は、地方税法等で定められています。これを法定事業といいます。法定事業として70の業種が定められています。営んでいる事業が法定事業に該当する場合は、個人事業税が課され、そうでない場合は、個人事業税を納める必要はありません。
②所得金額が290万円をこえるかどうか
個人事業税には、290万円の事業主控除があります。つまり、営んでいる事業が法定事業に該当している場合でも、所得金額が290万円を超えない限りは、個人事業税を納める必要はありません。
個人事業税の計算方法と申告方法
個人事業税を納めなければならない事業主は、その税額を計算し、納税資金を用意しておく必要があります。ここでは、個人事業税の計算方法と申告方法、納付方法について見ていきましょう。
個人事業税の計算方法
個人事業税も所得税と同じく、所得金額に対して課される税金です。しかし、所得税と個人事業税では考え方が異なる部分があるため、所得税の計算で求めた所得金額を調整する必要があります。個人事業税の納付額は、次の計算式で求めます。
(所得金額+所得税の事業専従者給与(控除)額-個人事業税の事業専従者給与(控除)額+青色申告特別控除額 -事業主控除-各種控除額)×税率
それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
①事業専従者給与(控除)額
青色申告や白色申告の事業専従者給与(控除)額は、所得税と個人事業税で金額が異なります。そこで、所得金額に所得税の事業専従者給与(控除)額をプラスし、そこから個人事業税の事業専従者給与(控除)額を差し引きます。個人事業税の事業専従者給与(控除)額は、次のとおりです。
- 青色申告の場合:その給与支払額
- 白色申告の場合:配偶者86万円、その他1人50万円を限度とする
②青色申告特別控除額
個人事業税では、青色申告特別控除額の適用はないため、所得金額にプラスします。
③事業主控除
年間290万円です。営業期間が1年未満の場合は月割額となります。その他、繰越損失などの控除があります。
④税率
個人事業税の税率は、事業の種類によって次の表のように異なります。
区分 | 税率 | 事業の種類 | |||
---|---|---|---|---|---|
第1種事業(37業種) | 5% | 物品販売業 | 運送取扱業 | 料理店業 | 遊覧所業 |
保険業 | 船舶定係場業 | 飲食店業 | 商品取引業 | ||
金銭貸付業 | 倉庫業 | 周旋業 | 不動産売買業 | ||
物品貸付業 | 駐車場業 | 代理業 | 広告業 | ||
不動産貸付業 | 請負業 | 仲立業 | 興信所業 | ||
製造業 | 印刷業 | 問屋業 | 案内業 | ||
電気供給業 | 出版業 | 両替業 | 冠婚葬祭業 | ||
土石採取業 | 写真業 | 公衆浴場業(むし風呂等) | - | ||
電気通信事業 | 席貸業 | 演劇興行業 | - | ||
運送業 | 旅館業 | 遊技場業 | - | ||
第2種事業(3業種) | 4% | 畜産業 | 水産業 | 薪炭製造業 | - |
第3種事業(30業種) | 5% | 医業 | 公証人業 | 設計監督者業 | 公衆浴場業(銭湯) |
歯科医業 | 弁理士業 | 不動産鑑定業 | 歯科衛生士業 | ||
薬剤師業 | 税理士業 | デザイン業 | 歯科技工士業 | ||
獣医業 | 公認会計士業 | 諸芸師匠業 | 測量士業 | ||
弁護士業 | 計理士業 | 理容業 | 土地家屋調査士業 | ||
司法書士業 | 社会保険労務士業 | 美容業 | 海事代理士業 | ||
行政書士業 | コンサルタント業 | クリーニング業 | 印刷製版業 | ||
3% | あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復 その他の医業に類する事業 |
装蹄師業 |
例えば、所得金額が500万円(青色申告特別控除前)の場合で、専従者給与がない場合、製造業と水産業では、次のように税額が異なります。
【製造業の場合】
【水産業の場合】
個人事業税の申告方法と納付方法
次に、個人事業税の申告方法と納付方法について見ていきましょう。個人事業税は、それ自体の申告をする必要はありません。所得税の確定申告書にある、事業税についての記載箇所に該当事項を記載するだけです。
また、自分で個人事業税の金額を計算する必要はありません。所得税の確定申告書のデータが都道府県に届くため、都道府県から個人事業税の金額が記載された納付書が届きます。その納付書で個人事業税を支払います。原則として8月、11月の年2回に分けて納付します(納付期限は各自治体によって異なる)。
個人事業税を支払ったときの処理方法
ここまでは、個人事業税の概要や納付額の計算について見てきました。ここからは、個人事業税を支払ったときの処理方法について見ていきましょう。
個人事業税は経費にできる?
個人事業税を支払ったときの処理方法を理解するためには、まず、個人事業税が経費になるかどうかを考える必要があります。個人事業主は所得税や住民税など多くの税金を支払いますが、その多くは経費にすることはできません。それは、これらの税金はもうけに対して課されるものだからです。
一方、個人事業税はどうでしょうか。個人事業税は、所得金額をもとに税額を計算しますが、営んでいる事業に対して課される税金です。所得税や住民税とは性格の異なる税金のため、個人事業税は経費にすることができます。ちなみに、個人事業税と同じように、経費にできる税金には、事業用資産にかかる固定資産税や印紙代などがあります。
個人事業税を支払ったときの仕訳とは
では、個人事業税を支払ったときの仕訳を見ていきましょう。
例)個人事業税の納付書が届いたので、個人事業税10万円を現金で納付した。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
租税公課 | 10万円 | 現金 | 10万円 | 個人事業税 |
個人事業税は、経費科目の「租税公課」勘定で処理します。消費税の課税事業者の場合、消費税の納付額を計算する必要がありますが、個人事業税はあくまで税金のため、消費税は不課税となります。そのため、消費税の納付額の計算には含みません。
まとめ
個人事業税も、所得税や住民税と同じように、個人事業主に毎年課される税金になります。
ただし、所得税のように確定申告をすることがないため、ついその存在を忘れがちです。
しかし、業種により3%~5%の税率で個人事業税が課されるため、その金額は低いとは限りません。個人事業税を考慮しておかないと、資金繰りに困る可能性もあります。
個人事業税は、各自治体から納付額が記載された納付書が届きますが、あらかじめ、どれだけの個人事業税を納める必要があるかを把握しておくことが、重要となるでしょう。