ゴルフ会員権に多額の含み損がある場合、現金化は難しい傾向にあり、できれば経費で落としたいと考えている法人が 多いでしょう。しかし、ゴルフ会員権の含み損を利用した節税対策はハードルが低くありません。そこで、ゴルフ会員権の含み損と税金の関係について徹底解説します。
ゴルフ会員権の税金の基本
ゴルフ会員権の税金の基本的な内容について説明します。
ゴルフ会員権とは
ゴルフ会員権は次の種類によって税金の計算方法が異なります。
(1)預託金制のゴルフ会員権
預託金制のゴルフ会員権とは、クラブ経営会社にお金を差し出すことにより、会員の資格が発生します。優先プレー権・預託金返還請求権を持ちますが、経営に口ははさめません。
(2)株主会員制のゴルフ会員権
クラブ経営会社の株主であり、上記(1)の権利に加えて、株主総会などで議決権(経営に携わる権利)を持てます。
含み損は売却した時点で経費計上するのが原則
ゴルフ会員権は売却をして売却価格が分かり、含み損の金額が確定した段階で経費に計上できるのが原則です。言い換えれば、ゴルフ会員権の評価損(確定していない含み損)は基本的に経費として認められません。
売却した場合の所得金額の計算方法
ゴルフ会員権を売却した場合における所得金額の計算方法を個人と法人に分けて説明します。
(1)個人
ゴルフ会員権の売却による所得は基本的に総合課税の譲渡所得になります。そのため、計算方法は実際に所有していた期間(所有期間)が5年以内かどうかで区分されます。
- ①所有期間が5年以内:短期譲渡所得
譲渡収入金額(=売却価額)-取得費(=取得価額)+譲渡費用(=売却費用)-特別控除額50万円 - ②所有期間が5年を超える:長期譲渡所得
(譲渡収入金額-取得費+譲渡費用-特別控除額50万円)÷2
ゴルフ会員権の売却による所得が同額なら長期譲渡所得の方が短期譲渡所得の約半分になり節税効果が高くなります 。
また、2014年4月1日以降に売却したゴルフ会員権にかかる損失は給与所得や事業所得などの他の所得との相殺(損益通算)は認められていません。言い換えれば、2014年3月31日以前の売却にかかる損失のみ損益通算が可能になります。
(2)法人
法人の場合、個人と違い、所有していた期間に関係なく、特別控除も存在しないため、計算方法は次の通りになります。
また、ゴルフ会員権の売却にかかる損失は他の法人所得との損益通算が可能です。そのため、法人の方が含み損を利用した節税対策がしやすいといえます。
ゴルフ会員権の評価損を経費で落とす方法
ゴルフ会員権の含み損の取り扱いについて詳しく説明します。
ゴルフ会員権の評価損は本当に経費で落とせないのか
そもそもゴルフ会員権で物納(納税)するケース は認められていません。そのため、所有している限り、たとえ多額の評価損が計上できても、売却した場合と比較すると所得金額が大きくなり、納税資金の確保が難しくなるかもしれません。
しかし税法上、売却した場合との不公平感を緩和するため、ゴルフ会員権を所有している場合でも評価損を経費で落とせる方法が存在します。
評価損を経費で落とすための条件
ゴルフ会員権の評価損の経費で落とせるのは法人のみで、個人には認められません。そこで、法人が経費で落とすための条件について預託金制のゴルフ会員権と株主会員制のゴルフ会員権に分けて説明します。
(1) 預託金制のゴルフ会員権
そもそも預託金制のゴルフ会員権は保証金に該当し、預託金返還請求権(金銭債権)を返還した時点で評価損を「個別評価金銭債権に係る貸倒引当金」または「貸倒損失」して経費に計上できます 。経費処理の条件として法人税法基本通達9-7-12の注意書きに「退会の届出、預託金の一部切捨て、破産手続開始の決定等の事実に基づき預託金返還請求権の全部又は一部が顕在化(返還されない)した場合」と明記されています。
(2)株主会員制のゴルフ会員権
そもそも株主会員制のゴルフ会員権は「上場有価証券等以外の有価証券」に該当し、評価損を経費で落とせる条件は、ゴルフ場側の資産状態が著しく悪化した場合になります。資産状態が著しく 悪化したとは、次の通りです。
- ①ゴルフ会員権を取得して相当期間の経過後、ゴルフ場側に次の事実が生じた場合
- 特別清算開始の命令
- 破産手続開始の決定
- 再生手続開始の決定
- 更生手続開始の決定
- ②事業年度終了の日の時点におけるゴルフ場側の一株または一口当たりの純資産価額が購入時点よりもおおむね50%以上、下落した場合
純資産価額は決算書の「純資産の部」が参考数値になりますが、評価損を経費処理する前に専門家への相談をおすすめします。
評価損の計算方法
経費処理できる評価損の計算方法は次の通りです。
(1)預託金制のゴルフ会員権
- ①個別評価金銭債権に係る貸倒引当金:金銭債権×50%
例) 退会の届出によりゴルフ会員権のうち500万円が返還されない場合
500万円×50%=250万円 - ②貸倒損失:金銭債権の切り捨て額
例)ゴルフ場側の特別清算開始の決定によりゴルフ会員権のうち500万円が切り捨てられた場合
金銭債権の切り捨て額と同額の500万円
(2)株主会員制のゴルフ会員権
ゴルフ会員権の株価の評価損を経費に計上します。
例)100株保有のゴルフ会員権の一株当たり「購入時点5万円→事業年度終了の日時点2万円」と60%下落した場合
- ①一株当たりの下落額:3万円
- ②評価損:3万円×100株=300万円
ゴルフ会員権の取得価額の計算方法
経費に計上できる売却損や評価損の計算に影響するゴルフ会員権の取得価額について説明します。
取得価額は資産計上する項目で構成される
ゴルフ会員権の取得により資産計上する項目は次の通りです。
(1)入会金
- ①法人会員
資産計上するのが原則です。 - ②個人会員
次のすべての条件を満たす場合、資産計上をします。- 無記名式の法人会員制度がないため個人会員として入会する
- 経費処理で資産計上をする
- 業務遂行に必要な場合
(2)名義書換料
ゴルフ会員権の購入に必要な場合は資産計上します。
資産計上しない項目の処理方法
資産計上しない項目と経理処理方法についても説明します。
(1)資産計上しない項目
- ①入会金
- 法人会員:記名式の法人会員で代表者など特定の人が接待などの業務遂行に関係なく個人的にゴルフ場を利用する場合は給与になります。
- 個人会員:本人の給与になるのが原則です。
- ②名義書換料
購入以外の場合は交際費になります。 - ③年会費・年決め・ロッカー料など
入会金の 経費処理によって区分されます。- 資産計上している:交際費
- 資産計上していない:給与
- ④プレー代
上記③の入会金の経理処理に関係なく、業務遂行の必要性の有無によって区分されます。- 業務遂行に必要:交際費
- 個人的に利用する:給与
(2)経理処理
例)代表者のゴルフのプレー代を10万円負担した
- ①業務遂行に必要な場合
借方 金額 貸方 金額 交際費 10万円 現金預金 10万円 - ②個人的に利用した場合
借方 金額 貸方 金額 役員賞与 10万1,000円 現金預金 10万円 源泉所得税 1,000円 原則、役員賞与は法人の経費で落とせません。
まとめ
ゴルフ会員権に含み損がある場合は経費で落とし、節税対策に利用するのが得策でしょう。しかし、そのハードルは低くなく、原則は売却しないと経費処理ができません。そのため、保有しているゴルフ会員権の含み損を利用した節税を考えているなら、まずは専門家への相談をおすすめします。
▼参考URL
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3158.htm
- https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/07/03.htm
- https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_01_03.htm(法人税法基本通達9-1-9)
- https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_07_03.htm(法人税法基本通達9-7-12)
- https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/07/02.htm
- https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_07_03.htm(法人税法基本通達9-7-11)