「経理」というキーワードで思い浮かぶ業務とは何でしょうか。伝票や請求書の作成管理といった、資料に囲まれて仕事をしている姿をイメージする方が多いと思います。
膨大な資料を取り扱う経理部署で書類の山を統括する「経理責任者」に求められる知識やスキル、資格にはどのようなものがあるかについて解説していきます。
まずは知っておきたい経理の業務
経理は「会社のお金」にかかわる全てを統括する部署
はじめに一般的な会社の営業サイクルについて簡単に説明しましょう。会社は営利目的で活動しますので、まずは商品を仕入れたり、材料を仕入れて加工したりして、その後得意先などに販売を行い利益を計上します。
一連の営業サイクルの中で、管理が必要なポイントがいくつもあります。例えば販売を行えば得意先に対して売上の請求書を出さなければなりませんし、入金された売掛金を元手に再び仕入れを行うためには資金繰りを考えなければなりません。事業規模が大きくなれば従業員を雇用することになりますので、給与を支給することになります。源泉所得税や社会保険の管理をする必要も出てくるでしょう。
さらに利益が出れば国や都道府県、市町村に法人税等を納税しなければなりませんので決算書を作成し税額計算をしなければなりません。会社を経営するためには上記で挙げたような業務を全てこなさなければなりませんので、必然的に専門の管理職を社内に置いている企業がほとんどです。
経理責任者として行う業務
経理責任者が管理する業務を列挙してみましょう。
- 売上の請求業務、売上代金の入金管理業務
- 商品の在庫管理
- 仕入の発注業務、仕入代金の支払業務
- 会計管理業務
- 税務申告業務
- 給与計算、源泉徴収業務、住民税の特別徴収業務
- 社会保険、労働保険の管理業務
- 金融機関からの融資を含めた資金繰り管理業務
- 商業登記業務(役員登記、登記事項の変更登記など)
入力業務や伝票整理などの日常業務については部下を使って作業させるのが一般的ですが、経理責任者は最後の「結果」に対して常に責任を持たなければなりません。内容も確認せずに責任者印を押すことはできませんから、経理責任者は各業務内容を熟知し、正しい答えを出せるだけの能力が求められます。
責任者として習得すべきスキルとは何か?
業務区分毎に必要な知識やスキル
大企業であれば「経理部」「人事部」「総務部」といったように分業することが可能ですが、人員を割けない中小企業の場合、経理担当者が全てを管理するといったケースが多いのではないでしょうか。
では前章で挙げた業務に対して、どのような知識やスキルが求められるのかを解説します。
- 売上の請求業務、売上代金の入金管理業務
- 商品の在庫管理
- 仕入の発注業務、仕入代金の支払業務
- 会計管理業務
請求業務や在庫管理等と、全体を統括する会計管理業務は全て「簿記」を通して数値化し、管理していきます。したがって責任者の方には「簿記」に対する豊富な知識やスキルが求められます。資格としては「日商2級」以上を持っていれば充分ですが、製造業であれば「工業簿記」建設業であれば「建設業会計」についての知識があればより実務に活かすことができます。
・税務申告業務
国や都道府県、市町村に対する納税額を計算し申告をする業務です。法人税や消費税などに対する専門的な知識を要しますので、税法に対する幅広い知識と難解な条文を読み解く
能力が求められます。
ただし、税務申告や準備作業である決算に関しては高度な判断が必要なケースもありますので、専門家である会計事務所と契約して処理を委託している企業が殆どです。
・給与計算、源泉徴収業務、住民税の特別徴収業務
従業員に毎月支払う給与をタイムカードなどから集計し計算する業務です。今話題の年次有給休暇の年5日取得義務や法定労働時間、時間外手当の適切な計算など、主に労働基準法に関する知識が求められます。
また、会社には給与に対する源泉所得税や住民税の徴収義務がありますので、毎月の徴収額の計算方法や年末の精算業務(年末調整)、給与支払報告などの知識も必要です。
・社会保険、労働保険の管理業務
法人の場合、社長を含めた従業員が1人でもいれば社会保険に加入する義務があります。社会保険適用事業所として、従業員の社会保険の加入手続きや算定基礎届の提出等をしなければなりません。
また、正社員・パートを問わず従業員を1人でも雇用していれば労働保険の加入義務も発生します。従業員の加入手続きや年1回の労働保険料申告書の提出等をしなければなりません。
したがって、健康保険法や労災保険法、雇用保険法など社会保険に関わる幅広い知識が求められます。
・金融機関からの融資を含めた資金繰り管理業務
会計管理業務に付随するものとして、会社の運転資金を管理していく業務です。仕入代金や給与の支払いなどをするためにはまず支払原資を確保しなければなりません。
そのためにはまず、売上代金の入金状況を常に把握し、いつ頃までに支払原資を用意できるかを管理しなければなりません。万が一、原資が不足するような場合には金融機関からの融資を受ける段取りまでこなす必要があります。
簿記の知識にプラスして「キャッシュフロー」の考え方をマスターしなければなりません。
・商業登記業務(役員登記、登記事項の変更登記など)
法人登記している役員や商号名、本店所在地などに変更があった場合、法務局に変更登記をかける必要があります。
登記手続き自体は司法書士の先生に依頼するケースもありますが、役員の任期については会社の定款をもとに自社で登記すべき時期を判断しなければなりません。したがって会社法をよく理解しておく必要があります。
経理責任者には経験値も必要になる
仮に管理すべき項目を網羅していたとしても、全ての項目がそれぞれ紐づけされていなければ実際の手続きに漏れが生じる可能性があります。例えば「従業員が入社したとき」に必要な手続きとしては以下などが必要になります。
- 雇用契約書の作成
- 社会保険の加入手続き
- 労働保険の加入手続き
また、法人税を計算して納付するためには以下のことまで考えなければなりません。
- 会計管理業務
- 税務申告業務
- 資金繰り管理業務
つまり、複数の業務を関連付けて管理していく能力が求められるわけです。実務のなかで起こり得る上記のようなシチュエーションを実際に経験したノウハウがあれば、「あの時はこうだった」「これも管理しなければならない」ということに気が付くはずです。
知識を生かした効率的な管理方法
効率的な管理には年間スケジュールの作成を
どれだけ優秀な責任者の方でも、何の資料もなく頭の中だけで全ての業務を管理することは難しいでしょう。管理不足や処理忘れ等が起こり得ますし、忘れないように意識することだけで余計な労力を使ってしまいます。
そこでお勧めするのが「年間スケジュール」の作成です。会計管理業務や税務申告業務など「1ヶ月」「1年」といった一定のサイクルで発生するものが数多くあります。年間スケジュールのなかで定期的に発生する項目を書き出しておくだけでも処理忘れを大幅に減らすことができますし、管理するにあたっていつから準備しておけばよいか?を考える余裕が生まれます。
全体の効率を上げるためには「知識の共有」を
経理部署全体の作業効率を上げるために必要なのは「知識の共有」です。例えば先にも挙げた「従業員が入社したとき」にすべきことをリスト化し、経理部署全体で知識を共有しておけば、分業しながら同時に作業を進めることができますので効率的です。
また情報を共有することで、自分1人の目線だけではなく別な視点からの新しい「気付き」が生まれることもあります。自分の頭の中だけに知識を閉じ込めておくより、全体で共有できるよう知識を文書化することをお勧めします。
まとめ
実務をこなしていると分かりますが、経理責任者は知識と経験値がモノをいう世界です。それだけに自分のバックアップができる人材の育成には膨大な時間がかかります。自分が辿ってきた道を部下と共有していくことも責任者としての「責任」であることを忘れないでください。