弔慰金は経費になる? 弔慰金の税務処理について解説 | MONEYIZM
 

弔慰金は経費になる? 弔慰金の税務処理について解説

弔慰金とは慶弔見舞金の一種で、多くの会社において従業員や従業員の家族に不幸があった際に支給されます。弔慰金は遺族を慰めるためのものであり、従業員本人が亡くなった場合は功労金の意味合いもあります。また、弔慰金は基本的に損金として計上できるので、節税のための手段としても有効といえます。ただし法律で義務付けられている制度ではないため、特に規模の小さな会社では弔慰金に関する規定がない場合が多く、頻繁に発生するものでもないことから税務処理の際に迷うケースもあるようです。そこでこの記事では、弔慰金について知っておくべきポイントを解説します。

弔慰金とは

弔慰金の支給額は企業によって異なります。勤続年数が一年以上の従業員に支給するなど、給付に条件を設けている企業も少なくありません。また、従業員本人の死亡だけでなく従業員の家族の死亡の際にも支給する規定を定める企業もあります。

弔慰金の相場

弔慰金の支給額に明確な基準は定められていませんが、一律定額支給と勤務年数に応じた金額を設定している企業が多いようです。

 

一律定額と勤続年数にかかわらず、社員本人が死亡した場合の金額相場は以下のとおりです。

 

  • 業務中の死亡のとき
    日本実業出版社調べ(2018年)によると、最低支給額5万円、最高支給額4,000万円、中央値は10万円~100万円と、企業によって金額に大きな差があることがわかります。一般に業務中の死亡に対する支給額は、残された遺族の生活補償の意味合いも含むため、プライベートでの死亡の場合よりも高い傾向にあります。また、団体保険に加入しているかどうかや、亡くなった状況、会社の責任の重さによっても金額は大きく変わるでしょう。後述しますが、業務上死亡の場合は「普通給与の3年分」が社会通念上相当と認められる金額とされることから、給与の高い従業員が死亡した場合は弔慰金の額も高くなる傾向があります。
  • 業務外の死亡のとき
    最低支給額2万円、最高支給額の500万円、中央値は10万円~25万円と、こちらも金額に開きがあります。業務外での死亡に対する弔慰金は、勤続年数を反映した金額になる傾向があるようです。業務外死亡の弔慰金で社会通念上相当と認められる額は「普通給与の6ヶ月分」なので、この金額が基準となる場合もあります。

弔慰金を渡す相手

弔慰金は遺族に渡します。葬儀に出席する際は香典を喪主に渡しますが、多くの場合弔慰金は香典とは別の機会(多くの場合後日)に渡されるようです。なお、企業の弔慰金規定に定められた遺族に渡すため、喪主や法定相続人とは異なる場合があります。

弔慰金の税務上の取り扱い

弔慰金をもらう遺族側の税金

  • 相続税
    弔慰金は故人が生前有していた財産ではないため相続財産にはならず、原則として相続税は生じません。しかし、弔慰金が高額になる場合は、死亡退職金として「みなし相続財産」とされ相続税の課税対象になります。相続税を考えなくて良い弔慰金の支給額は、業務上死亡の場合「普通給与の3年分」、業務外死亡の場合「普通給与の6ヶ月分」までです。
  • 所得税
    弔慰金には所得税がかかりません。ただし、生前すでに退職している企業から弔慰金という名目で金銭が支給されることがありますが、この場合は遺族の一時所得として扱うことに注意が必要です。
  • 死亡退職金との違い
    死亡退職金は、相続財産に含まれる場合とそうでない場合があります。死亡退職金が法定相続人に支給される場合は、財産を引き継ぐのと同義であることから「みなし相続財産」とされ、遺産分割協議の対象になります。一方、会社が規定で定めた遺族など、実際の相続人とは違う遺族に支給された場合は、相続財産とされません。ただし、税法上では「個人の死亡後3年以内に支給が決定した死亡退職金」は相続税の対象になるので注意しましょう。法定相続人に支給される場合は「500万円×相続人の数」までは非課税枠が設けられているので、この金額を超えた分は課税対象になります。(法定相続人以外に支給される場合にはこの非課税枠の適用はありません。)なお、弔慰金において非課税枠を超えた分も死亡退職金として扱われるので、両者の金額が大きい場合は計算が複雑になるでしょう。

会社側の会計処理

  • 従業員の遺族に支払うとき
    福利厚生費として扱われるため、経費としての計上が可能です。経費への計上にあたって後から疑義が出ないようにするためには、弔慰金の支給金額が「社会通念上相当と認められる金額」であることと、就業規則の中で「慶弔見舞金規定」を定めておくことが有効です。社会通念上相当と認められる金額とは、上記の相続税の非課税枠の範囲内とされています。
  • 取引先に支払うとき
    取引先に渡す弔慰金は接待交際費になるため、資本金が1億円未満の中小法人でない限りは経費としての計上ができない場合があります。しかし社外への弔慰金であっても、専属下請先など自社の従業員と実質同じである場合は福利厚生費として扱います。また、取引先が災害に遭った際には、交際費としての弔慰金ではなく取引関係の維持を目的とした災害見舞金として扱いうことで損金に計上できる場合があるので、状況に応じて確認しましょう。
  • 保険金で弔慰金を支払うとき
    団体保険の保険金を弔慰金に充てる場合、保険金は一度「雑収入」として企業の益金とすることに注意しましょう。保険積立金がある場合は取り崩し、保険金より多いか少ないかで差額を雑収入、雑損失として処理します。保険金は基本的には遺族に支給しますが、従業員死亡による企業損害へのリスクヘッジとして企業側に属することができる可能性もあります。トラブルを避けるためにもルールを明確化する必要があるでしょう。

弔慰金の適正額とは

弔慰金の遺族側における相続税の非課税枠は、業務上死亡で「普通給与の3年分」、業務外の死亡では「普通給与の6ヶ月分」です。これは企業側の弔慰金の「社会通念上相当と認められる金額」と同じです。よって遺族側と企業側、双方にとって都合が良い金額もこの範囲内になるでしょう。

 

一方、業務上の死亡など会社が金額で誠意を見せるべき場合や、団体保険の保険金を充てることができる場合など、この範囲を超えて支給することもあるでしょう。その場合、超過分は死亡退職金扱いになりますが、この場合も企業は損金として計上することができます。ただし、遺族側にとっては死亡退職金の非課税枠を超えた金額には相続税がかかるため、弔慰金の金額が大きい場合で、法定相続人が少ない、あるいは就業規則で受取人が法定相続人以外を指定している際は、遺族側に思わぬ負担をかけてしまう場合があるので注意が必要です。

 

☆ヒント
弔慰金と死亡退職金はどちらも損金として処理することができるため、従業員の福利厚生だけでなく節税にもなります。ただし、適正額の範囲内に納める必要があるほか、受け取る遺族への税金への配慮や保険金を充てた場合の保険差益にかかる税などについても把握しておくべきでしょう。ただし、頻繁に発生する費用ではないことから、判断を迷う事業主も多いようです。必要に応じて専門家である税理士に相談すると良いでしょう。

弔慰金の準備

就業規則に定める

弔慰金は就業規則に必ず定めるべきものではありません。しかし、就業規則に定めることで従業員の公平性や金額の妥当性を担保することができ、実際に支給する際の思わぬトラブルを避けられる可能性があります。なお、弔慰金を含め、慶弔見舞金は原則賃金ではないとされていますが、就業規則などで支給要件を詳細に定めた場合は賃金としてみなされることがあり、定めた金額の支給義務が発生することに注意しましょう。ただし賃金として扱われたとしても、弔慰金は社会保険料の対象にはなりません。

団体保険などを活用する

総合福祉団体定期保険などの団体保険は、企業が全従業員を対象に加入する保険です。団体保険に加入することで弔慰金や死亡退職金の資金を用意することができるだけでなく、その他の付帯サービスを利用することで企業の福利厚生を充実させることができます。また、従業員を失ったことでの会社側の損害の補償を考えるうえでも団体保険の利用は有効です。保険料は掛捨てで比較的安いものが多く、損金として参入することができます。

まとめ

この記事では弔慰金について解説をしました。同じ慶弔見舞金でも、結婚祝いなどと違って弔慰金の規定を積極的に定めようとする経営者は少ないかもしれません。しかし、不幸はいつあるかわからず、その際に支給額や会計処理に迷う事態は避けたいものです。従業員や従業員の身内の不幸はとても悲しいことですが、このような際に会社の思いやりが感じられれば、従業員のワークエンゲージメントの向上にもつながるのではないでしょうか。弔慰金などの慶弔見舞金についての制度があるならば、従業員に広く周知させると良いでしょう。弔慰金には節税効果が期待できるので、適正額を踏まえた上で自社に合った制度をつくることをおすすめします。

坂下慶太
東京大学卒。米国大学院に進学予定。 東証一部上場企業にて経理業務を担当。 経理業務で体得したスキルや知識を中心に解説していきます。
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