国土交通省が3月23日に発表した2021年1月1日時点の公示地価は、住宅地、商業地などを合わせた全国平均で、昨年比0.5%のマイナスとなりました。「マイナス成長」となるのは、15年以来6年ぶりのこと。原因は言わずと知れた新型コロナで、訪日客の激減や外出自粛により東京、大阪、名古屋といった大都市圏での下落幅が、特に大きくなりました。こうした地価の下落は、私たちが支払う税金にも影響を与えています。
3大都市圏の商業地は、1.3%の大幅下落
本題に入る前に、実は複数の“モノサシ”がある土地の価格について整理しておきます。
- ①公示地価
毎年3月半ばに国土交通省が発表します。調査主体は国で、毎年1月1日時点の「標準地」(その地域で標準的だと国交省の審議会が判断した土地)の価格です。 - ②路線価
国税庁が毎年7月1日に発表します。やはり1月1日時点の評価で、相続や贈与で土地取引があった場合の税金の算定基準となるものです。 - ③基準地価
調査主体は地方自治体で、9月中旬に発表されます。調査の目的や評価方法は公示地価とほぼ同じですが、毎年7月1日を基準日とした評価になります。 - ④固定資産税評価額
3年に1回、地方自治体によって公表されます。持ち家のある人が支払う固定資産税の基準になる価格です。 - ⑤実勢価格
実際に取引された土地価格を指します。
ちょっと混乱しそうですが、税金に関連する②路線価と④固定資産税評価額は、基本的に今回発表された①公示地価をベースに決められる、ということを頭に入れておいてください。
その今年の公示地価を用途別に見ると、住宅地は0.4%下落(昨年は0.8%上昇)、商業地は0.8%下落(同3.1%上昇)となりました。前者は5年ぶり、後者は7年ぶりのマイナスです。特に落ち込みの大きかったのが、インバウンド需要などに支えられてきた都市部の商業地で、3大都市圏では、昨年の+5.4%から-1.3%に下落。中でも大阪は、+6.9%から-1.8%へという急落ぶりでした。
とはいえ、今回の公示地価の下落は「想定内」のものでもありました。昨年、前年比プラスとなった公示地価が発表された2020年3月18日といえば、すでに新型コロナの深刻度が誰の目にも明らかになっていました。まだその影響が及んでいなかった1月1日時点の地価には、違和感を覚えたほど。案の定、9月29日発表の③基準地価(7月1日時点)は、全国全用途で3年ぶりの下落となったのでした。
路線価の「減額補正」が行われた
そうした状況を踏まえて、国税庁は昨年、路線価の臨時調査を実施しました。さきほど述べたように、相続税、贈与税の算定基準となる路線価は、公示地価をベースに決められています(税額には別の算定の仕方もあります)。具体的には、「公示地価の80%程度」で評価されるのですが、⑤実勢価格が1月1日時点よりも大幅に下落したような場合には、公示地価が基準では路線価が高すぎる=相続税や贈与税を取り過ぎる、という齟齬が生じるからです(※1)。
昨年10月28日の国税庁の発表では、調査の結果「大幅な地価下落にはなっていない」とする一方で、「7月から12月まで(7月から12月までの相続等適用分)に、広範な地域で大幅な地価下落が確認された場合の路線価等を補正するなどの対応については、今後の地価動向の状況を踏まえ、後日、改めてお知らせします」という含みも持たせていました。
そして今年1月、ついに国税庁が心斎橋2丁目など大阪の繁華街・ミナミに位置する3地点について、20年7~9月の路線価の減額補正を発表する事態となりました(補正率は、いずれも0.96)。1955年に路線価の制度が始まって以降、大規模災害時を除けば初めてのことです。
ちなみに、補正の根拠となる「大幅な地価下落」とは、「時価が、公示地価の80%=路線価を超えて下落した場合」を指します。すなわち、実際に年初から20%を超える地価の下落が起こったということですから、あらためてコロナの破壊力の大きさを認識せざるを得ません。
該当する地域で、昨年7~9月に相続や贈与で土地などを取得した場合には、減額補正後の路線価を基準に財産の評価を行うことが認められ、税の払い過ぎがあれば、更正の請求(※2)により、取り戻すことができます。
なお、10~12月の補正については、来月公表される予定で、今の3地点に加え、大阪市(6地点)と名古屋市(1地点)が「候補」に上がっています。
詳しくは、国税庁ホームページ「令和2年分の路線価等の補正について(7~9月分)」をご覧ください。
※2更正の請求
税金を払い過ぎた場合、法定申告期限から5年以内ならば、税務署に対して還付請求ができる。
コロナの影響はどこまで?
不動産の価格が下がるのは、それを売りたいと考えている人にとっては、逆風でしょう。半面、税金の支払いという面では、メリットがあります。
今説明した、地点や期間を限定した補正とは違い、公示地価そのものが下落した今年は、7月に発表される路線価自体が、全国のほとんどの地域で引き下げられることになります(地方中核都市など、公示地価の上昇した地域もあります)。つまり同じ不動産でも、昨年に比べて相続税、贈与税の算定基準が下がるわけです。
相続について考えてみましょう。2015年に相続税の基礎控除額(※3)が大幅に減額され、税率もアップして以降、特に「大都市圏での持ち家」が、大きな問題になっています。そもそも分割が難しいうえに、他に資産がなくても、その評価額の高さが高額の税金の支払いに直結するようなことがあるためです。
東京都内では、商業地ほどではないとはいえ、住宅地の公示地価も前年比0.6%の下落に転じました。都内でも地域差はあるのですが、それが路線価に反映されることで、「恩恵」を受ける人も少なくないと思われます。もしかすると、家の評価額が下がったために遺産が基礎控除の枠内に収まり相続税を支払う必要がなくなった、というケースが生まれるかもしれません。
贈与についても同様で、不動産が安くなれば、それだけ少ない相続税で譲れる可能性が広がるでしょう。いつ訪れるのかわからない相続に対して、贈与の場合には、「調整」の余地もあります。
ただ、そこでネックになるのは、「コロナの影響がいつまでどういう形で続くのか」が、はっきり見通せないことです。リモートワークによる地方移住などとも相まって、まだ比較的価格変動が小さな大都市部の住宅地価格の底が抜ける可能性は、完全には否定できません。他方、「コロナが落ち着けば、地価は力強く戻る」とみる不動産の専門家もいます。
不動産を持つ人にとっては、当面地価の動向から目を離せない状況が続きそうです。
課税のボーダーラインとなる遺産総額。「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、遺産総額がこれ以下なら相続税はかからない。
まとめ
2021年の公示地価は、全国平均で6年ぶりの下落となりました。路線価は公示地価に連動しますからので、それを基準に計算される不動産の相続税、贈与税の支払いに関しては、有利な条件が生まれています。ただ、新型コロナの先行きは、依然として不透明です。今後の情報に注意を払いましょう。