住宅ローンを組んでマイホームを購入したり、増改築したりすると、年末時点でのローン残高の1%の税金が戻ってくる「住宅ローン控除」。家を持ちたい人にとっては、大変ありがたい制度ですが、その見直しの機運が高まっていることをご存知でしょうか? 問題となっているのは、「1%」という税金の控除率です。どういうことなのか、わかりやすく解説します。
延長された「特例措置」だが
住宅ローン控除(住宅ローン減税)の“基本形”は、「住宅取得などを目的に住宅ローンを組んだ場合、契約時期や入居時期などの要件を満たせば、年末のローン残高の1%が10年間税額控除される(支払った所得税などが戻ってくる)」というものです。控除の上限は、一般の住宅で年40万円、長期優良住宅、低炭素住宅ならば50万円となっています。
2019年度の税制改正で、この控除を受けられる期間が、10年間から13年間に延長されました。消費税率の引き上げに伴う駆け込み需要-その後の反動、という事態を避けるための特例措置(時限立法)だったわけですが、その後に起こった新型コロナの感染拡大という状況を踏まえ、21年度の税制改正では、この特例自体が延長(契約期間1年、入居時期2年)され、現在に至っています。
現状を整理すると、
- 契約時期:新築=2021年9月30日、建売・増改築=同11月30日まで
- 入居時期:2022年12月31日まで
という要件を満たせば、基本的に今説明した特例措置の対象となるのです。
低金利という「不測の事態」
このように、拡充の方向にあった住宅ローン減税ですが、一転して“逆風”が吹き始めました。現行の制度に「待った」をかけたのは、会計検査院(※)です。
彼らが問題視したのは、住宅ローン残高の控除率「1%」という数字でした。そもそも、国が住宅ローン減税を行っているのは、ローンの金利負担を軽減して、多くの国民に家を持ってもらおう。加えて住宅需要を喚起することで、経済の活性化に結び付けよう――という目的のためです。
消費税率引き上げやコロナ禍に際して、制度に特例を設けたり、それを延長したりしたのも、そうした意向に沿ったものだったわけですが、そこにもう1つ、無視できない経済的なファクターが意識されるようになりました。住宅ローン金利の大幅な下落です。
では、その結果、どういう問題が起こるのでしょうか? 会計検査院の「租税特別措置(住宅ローン控除特例及び譲渡特例)の適用状況、検証状況等について」を基に要点をまとめると、次のようになります。
国会及び裁判所に属さず、内閣からも独立した憲法上の機関。国や法律で定められた機関の会計を検査し、会計経理が正しく行われるように監督する職責を果たしている。
借金したら儲かる!?
- 1986年に住宅ローン控除(控除率1%)が創設された際の旧住宅金融公庫の融資基準金利は5.25%だった(同年3月時点)。一方、2003年から導入された全期間固定金利の代表的な住宅ローンである「フラット35」の借入れ金利は、08年4月時点で最低2.64%、19年8月時点では最低1.11%となるなど、近年、住宅ローンの借入金利が低下している。
- 通常、固定金利に比べ変動金利の住宅ローンの金利は低いので、住宅ローン控除の1%より低い金利で住宅ローンを借り入れている人がいると考えられる。
- そこで、46税務署において、2017年に住宅ローン控除の適用を開始した納税者約1,700人について調べたところ、実際に78%の人が1%を下回る借入金利で、住宅ローンを借りていた。
- このような場合には、毎年の住宅ローン減税による税金の控除額が、ローンの支払額を上回ることになる。住宅ローンの借入金利が低くなるほど、その差額は大きくなる。
- そうした状況が生まれると、住宅ローンを組む必要がないのに借り入れをしたり、住宅ローン控除の適用期間が終了するまでローンの繰り上げ返済をしなかったりする動機づけになる可能性がある。
簡単に言えば、低利の住宅ローンを組んで借金すれば、その金利分を上回るお金が、毎年税金の控除の形で国からもらえる、ということです。国にとってもまさに想定外の事態といえるでしょうが、ネット上で住宅ローンを「打ち出の小槌」にたとえ、「ローン金利が1%を下回るならば、慌てて繰り上げ返済しないこと」が指南されるような状況が、実際に生まれているのです。
この逆ザヤが続くと、会計検査院が言うように、例えば家を買う十分な資金があったり、将来親からの援助が期待できたりしたとしても、わざわざローンを組む人が増えるでしょう。収入の安定した人ほど、「優遇金利」でローンが組める=控除額との大きな差額を手にできる、という現象も固定化されます。
「家は早く買ったほうがいい」のか?
こうした指摘を受けて、2022年度の税制改正では、1%という控除率についての見直し(引き下げ)が議論される見通しです。報道によれば、財務省内には「支払った金利分のみ控除」といった案も浮上しているもよう。ただし、依然として新型コロナの着地点が見えない中で、「増税」方向の話がどれだけ具体化できるのか、流動的な要素もあるようです。
思わぬところから問題を抱えてしまった住宅ローン控除ですが、とはいえこれからマイホームを持とうと考えている人にとっては、できるだけ有利な制度を利用したいもの。仮に控除率が引き下げになったとしても、それ以前に1%が適用された人までその対象になる可能性は低いものと考えられます。「減税」という観点からすれば、最初に説明したような契約、入居時期の要件を満たすかたちで、13年間控除の特例措置を確実に受けられるようにするのがベストといえるでしょう。新築住宅だったら、今年9月末日までに契約を済ませるのです。
ただし、家は「一生の買い物」です。来年度の税制改正で議論されるのも、あくまでも「控除率の見直し」で、住宅ローン控除という制度がなくなるわけではありません。「1%」に目を奪われて、後悔の残る結果を招かないよう、慎重な判断も求められるのではないでしょうか。
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まとめ
金利の低下によって、住宅ローンの支払額が、控除額を下回る逆ザヤが生じています。そうした状況を是正するために、控除率1%の見直しが現実味を帯びてきました。これからマイホームの取得などを考えている人は、今後の情報にも注意しながら、購入計画を立てましょう。中長期的な視点を忘れないことも大事です。