今、世界中が、脱炭素や環境問題に取り組んでいます。わが国でも、脱炭素や環境問題に取り組んでいますが、その一環として、政府が新築住宅の太陽光パネル設置義務化を検討し始めたというニュースが流れました。
そこで、ここでは新築住宅の太陽光パネル設置義務化や、太陽光発電と税金の関係について解説します。
新築住宅に太陽光パネルの設置を義務化へ
脱炭素化社会の実現に向けて、政府はさまざまな施策を講じています。そのひとつが再生可能エネルギーです。再生可能エネルギーとは、太陽光発電、風力発電、バイオマスなど温室効果ガスを排出せず、エネルギー源として永続的に利用できると認められるもののことです。
再生可能エネルギーの利用拡大を図ることを目的に、政府は2021年4月19日に新築住宅に太陽光パネルの設置を義務付ける検討を始めました。これは、国土交通省や環境省が開いた建築物の省エネ対策を考える有識者会議で提言されたものです。
ただし、新築住宅に対する太陽光パネル設置義務化の実現に向けては、新築住宅の価格が上昇し、新築住宅市場が停滞するのではないかとの反対の意見も出ています。政府は、6月下旬にも方向性を示す方針です。
太陽光パネルの設置義務化で税金がかかる
太陽光パネルのついた新築住宅を購入すると、発電した電力を使用しますが、実は税金が発生することがあります。
そこで、ここでは太陽光パネルの設置義務化で税金がかかるケースについて見ていきましょう。
太陽光発電で税金がかかるケース
太陽光パネルの設置義務化で税金がかかるケースは、電力を売却した場合です。太陽光パネルを使った太陽光発電による電力は、電力会社などに売却できます。太陽光発電による電力の売却の形態は、余った電力を売却する余剰分の売電とすべての電力を売却する全量売電の2つです。
実は、余剰分の売電と全量売電では、税金の取り扱いが異なることがあります。わが国の所得税は、収入の種類によって給与所得や事業所得など10の区分に分かれます。原則、余剰分の売電と全量売電は「雑所得」に該当します。ただし、余剰電力や全量売電を事業として行っている場合や、事業所得に付随する場合(太陽光発電の電力を店舗で使い、余剰電力を売却しているケースなど)は「事業所得」になります。
そのため、サラリーマンが家で太陽光発電の電力を使い、余剰電力を売却している一般的なケースでは、雑所得として税金が課されることになります。雑所得の所得金額は、次の計算式で求めます。
例えば、余剰電力の収入金額100万円、必要経費70万円の場合における雑所得金額は、収入金額100万円-必要経費70万円=30万円となります。
太陽光発電の売電収入と確定申告
太陽光発電の売電収入があった場合は、所得金額に対して税金が課されます。そのため、原則、新築住宅で太陽光発電の売電収入があった場合は、確定申告が必要です。太陽光発電の売電収入が雑所得になる場合、確定申告で必要な書類は次のとおりです。
- 確定申告書A(第一表、第二表)
- 源泉徴収票
- 生命保険料などの控除証明書(年末調整しているものを除く)
ただし、サラリーマンで、太陽光発電による雑所得の金額が20万円以下の場合は、確定申告が不要です(副業が太陽光発電のみの場合)。
また、公的年金の受給を受け、その収入金額が400万円以下(公的年金等の全部が源泉徴収の対象となる場合)の人も、太陽光発電による雑所得の金額が20万円以下であれば、確定申告が不要です(副業が太陽光発電のみの場合)。
売電収入がある場合の経費とは
雑所得の所得金額は、「収入金額-必要経費」で求めます。収入金額は電力の売却価格ですが、必要経費とはどのようなものがあるのでしょうか。必要経費で大きなものは、何といっても「減価償却費」です。そこで、ここでは太陽光発電における減価償却費について見ていきましょう。
減価償却費を忘れずに計上する
備品や機械などの固定資産は、購入時に一括に経費にすることはできません。なぜなら、備品や機械は、それらを使うことで、数年間にわたって収入の発生に貢献するからです。そこで、固定資産の取得価額を複数年にわたって、少しずつ経費にしていきます。
太陽光発電設備も、将来に渡って売電収入を生み出す機械装置であるため、購入時に一括で経費にせずに、17年に渡って経費にします。このように、複数年にわたって少しずつ経費にすることを「減価償却」、経費にした金額のことを「減価償却費」といいます。
減価償却の方法には毎年、同じ金額を経費にする「定額法」と、初年度に大きな金額を減価償却費として計上し、年々、減価償却費の金額を減らしていく「定率法」の2つがあります。また、何年で経費にするのかの年数を「耐用年数」といいます。太陽光発電設備の耐用年数は17年です。個人の場合は、原則「定額法」を用いて減価償却費を計算します。
定額法の減価償却費の計算は、次の計算式により算出します。
償却率は、耐用年数によって決まっています。耐用年数17年の場合における定額法の償却率は、「0.059」です。
太陽光発電の減価償却の具体例
それでは、太陽光発電の減価償却の計算を具体例で見ていきましょう。太陽光発電の減価償却の計算は、電力の売却が全量売電なのか、余剰売電なのかによって異なります。それぞれを見ていきましょう。
・全量売電
全量売電では、太陽光発電設備で発生した電力をすべて売却します。そのため、太陽光発電設備の減価償却費は、全額経費にできます。
例)太陽光発電設備のついた新築住宅を購入した。太陽光発電設備の価格は1,000万円だった。
上述したとおり、太陽光発電設備の耐用年数は17年、償却率は「0.059」です。これを用いて、1年間の減価償却費を計算します。
59万円が雑所得の経費となります。
・余剰売電
余剰売電では、太陽光発電設備で発生した電力の一部のみを売却します。そのため、太陽光発電設備の減価償却費は全額を経費にすることができません。経費にできる減価償却費の金額は、総発電量のうち、売却した電力量の占める割合分のみです。
例)太陽光発電設備のついた新築住宅を購入した。太陽光発電設備の価格は1,000万円だった。1年間の総発電量は4,000kWh、そのうち、電力会社に売却した電力は1,000kWhだった。
この場合の雑所得の経費にできる減価償却費は、次のように計算します。
経費にできる減価償却費=59万円×1,000kWh/4,000kWh=147,500円
147,500円が雑所得の経費となります。
まとめ
再生可能エネルギーの利用拡大を図る目的で、政府は2021年4月19日に新築住宅に太陽光パネルの設置を義務付ける検討を始めました。反対意見もあったため、6月をめどに方向性が示されますが、もし義務化されれば、新築住宅を購入する多くの人が、太陽光発電の売電収入について、確定申告や納税が必要となるかもしれません。
そこで重要なのが、減価償却費です。減価償却費は金額の大きな経費のため、納める税金を抑えることができます。太陽光発電の売電収入がある場合は、減価償却費の計算方法を正しく理解し、きちんと申告することが重要です。