いぜんとして新型コロウイルス感染症の収束が見通せない中、企業経営にとって、引き続き厳しい状況が続いています。予期せず業績が悪化した場合、対応策の1つとして考えられるのが役員給与の減額ですが、通常、役員給与の「減額部分」は損金(経費)にすることができません。ただし、国税庁は、新型コロナが法人税法に定める「業績悪化改定事由」に該当するとして、損金算入を認める見解を示しています。具体的にみていきましょう。
損金算入できる「定期同額給与」とは?
法人が取締役などの役員に対して支払う給与(退職給与は除く)は、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかであれば、損金として処理することができます。裏を返すと、これらに該当しないものは、損金処理ができないのです(該当しても、不相当に高額な部分は、損金にできません)。安易に役員給与を変更して、その分を損金に算入できない=所得が減らせないことになったら、その分法人税が増加し、中小企業にとっては大きな痛手になりかねません。
本論の前に、今回のテーマに関連する役員給与の「定期同額給与」とはどういうものなのか、みておくことにします。定期同額給与とは、支給時期が1ヵ月以下の一定の期間ごと(例えば毎月)の給与で、その事業年度の毎回の支払額が同額のものを言います。
問題は、給与額を変更した場合の扱いで、原則として次のような決まりがあります。
(ア)「定時改定」ならば損金算入OK
事業年度開始から3ヵ月以内に給与額を改めた場合は、定時改定とされて、増額分を含めて全額を損金算入できます。
(イ)年度開始から3ヵ月を越えて増額すると、「差額」を損金算入できない
事業年度開始から3ヵ月を越えて増額した場合には、改定後の増額部分は、損金に算入できません。例えば、4月から新年度の始まる会社が、8月にそれまで毎月100万円だった役員給与を120万円に増額した場合、増額分(8月~翌年3月までの8ヵ月×20万円=160万円)は、その年度の決算で経費にできません。
(ウ)年度開始から3ヵ月を越えて減額しても、「差額」は損金算入できない
また、同じく期首から3ヵ月を越えて減額した場合には、改定前の「減額部分」が損金算入できません。例えば、4月から新年度の始まる会社が、11月に毎月100万円だった役員給与を80万円に減額した場合、減額分(4月~11月までの8ヵ月×20万円=160万円)は、やはり経費で落とせなくなるのです。今回のコロナ禍で問題になるのは、このケースです。
「業績悪化改定事由」が適用されるコロナ禍
予期せぬ業績悪化により、役員給与を減額せざるを得ない状況にあるものの、事業年度開始からすでに3ヵ月が経過してしまった。このような場合に、減額部分が損金に算入できないことになると、会社はさらにダメージを被ってしまいます。
そうした事態を避けるために、税法には、「業績悪化改定事由」(後述します)に該当すれば、期首から3ヵ月以上経過していても、定期同額給与の減額が可能(つまり損金算入が可能)だと定められています。結論を言えば、コロナ禍に伴う役員給与の減額は、これに該当するというのが、国税当局の基本的な立場です。
国税庁は、ホームページの「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」で、概要次のような見解を示しています。
Q)新型コロナの影響で、予定していた収入が無くなり、毎月の家賃や従業員の給与の支払いも困難な状況であることから、当社では、役員給与の減額を行うこととした。法人税の取扱いでは、年度の中途で役員給与を減額した場合、定期同額給与に該当せず、損金算入が認められないケースもあると聞く。当社のような事情によって役員給与を減額した場合、その役員給与は定期同額給与に該当するのか。
A)貴社が行う役員給与の減額改定については、業績悪化改定事由(法人税法34条1項1号、法人税法施行令69条1項1号ハ)による改定に該当するものと考えられます。したがって、改定前に定額で支給していた役員給与と改定後に定額で支給する役員給与は、それぞれ定期同額給与に該当し、損金算入することになります。
なお、業績悪化改定事由については、次のように説明しています。
経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいいますので、貴社のように、業績等が急激に悪化して家賃や給与等の支払いが困難となり、取引銀行や株主との関係からもやむを得ず役員給与を減額しなければならない状況にある場合は、この業績悪化改定事由に該当することになります。
通常、この業績悪化改定事由の適用は厳格で、「財務諸表の数値が相当程度悪化したことや倒産の危機に瀕したこと」「経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情(が生じたこと)」などが挙げられています(国税庁ホームページ「役員給与に関するQ&A」)。
ただ、今回のコロナ禍に関しては、その影響の大きさを考慮した柔軟な対応が取られていると言えるでしょう。ただし、「業績や財務状況、資金繰りの悪化といった事実が生じていたとしても、利益調整のみを目的として減額改定を行う場合には、やむを得ず役員給与の額を減額したとはいえない」(同)のは、当然のことです。
業績悪化が「見込まれる」場合は?
上記の「FAQ」では、次のような事例も挙げています。
Q)主な売上先である観光客が減少し、営業時間の短縮や従業員の出勤調整といった事業活動を縮小する対策を講じているが、いつになれば業績が回復するのかの見通しも立っておらず、さらなる経費削減などの経営改善を図る必要が生じている。一方で、当社の従業員の雇用や給与を維持するため、急激なコストカットも困難であることから、まずは役員給与の減額を行うことを検討している。当社のような理由による役員給与の減額改定は、業績悪化改定事由による改定に該当するのか。
つまり、現状で経営状況が著しく悪化したとは言えないものの、今後明らかに悪化が予想されるので、それに備えて役員給与を減額したい。そういうケースはどうなるのか、ということです。
これについても、国税庁は「役員給与の減額等といった経営改善策を講じなければ、客観的な状況から判断して、急激に財務状況が悪化する可能性が高く、今後の経営状況が著しく悪化することが不可避」と考えられるとして、業績悪化事由による改定に該当する、との見解を示しています。やはり従来の枠を超えた弾力的な対応と言っていいでしょう。
業績が回復したので「元に戻す」のは?
一方、感染拡大に歯止めがかかり、さまざまな規制が解除された結果、会社の業績が一気に回復する可能性もあるでしょう。そうした場合、いったん減額した役員給与を同じ期中に元に戻したら、扱いはどうなるでしょうか?
この点について、国税庁の「FAQ」に言及はありません。しかし、業績悪化改定事由が適用されるのは、減額改定のみ。このような形で増額した場合には、前記(イ)に当たり、増額部分は損金不算入になるものと考えられます。
まとめ
コロナ禍による業績悪化を理由にした役員給与の損金算入については、業績悪化改定事由を柔軟に解釈することで、平時よりも広く認められるようです。ただし、「経営状況の著しい悪化」には、解釈の余地もあります。実際に減額を検討する場合には、減額幅なども含めて税理士の判断を仰ぐべきでしょう。