2021年6月18日、政府が閣議決定した骨太の方針には、最低賃金の引き上げについても明記されました。最低賃金の引き上げは、私たちの生活に大きな影響を与えると考えられますが、実は最低賃金についてあまり理解していないことも多いのではないでしょうか。
そこで、ここでは知っておきたい最低賃金のことについて解説します。
骨太の方針に最低賃金引き上げを目指す方針が明記される
政府が2021年6月18日に閣議決定した骨太の方針に、最低賃金の引き上げについても明記されました。骨太の方針とは、政府が毎年発表する経済財政運営と改革の基本方針のことです。骨太の方針は、予算案に反映される政策の方向性ともいえます。
最低賃金は2016年から毎年3%の引き上げがされてきましたが、2020年は新型コロナの影響もあり0.1%の引き上げとなっていました。そのため、2021年に最低賃金がどうなるのかに注目が集まっていたのです。
令和2年10時点の最低賃金は東京都が最も高い1,013円、最も低いのが秋田県や鳥取県など複数の県で792円となっています。全国加重平均は902円です。骨太の方針では、より早期に全国加重平均を1,000円とすることを目指すことや、本年の引き上げに取り組むことが明記されました。
また、7月14日に開かれた厚生労働省の諮問機関である中央最低賃金審議会の小委員会では、今年度の引き上げ額の目安を28円とすることが決定されました。この決定通りに改定されれば、全国平均は902円+28円=930円となります。28円の引き上げは、2002年以降で最高額となります。
では、コロナ禍の今、最低賃金を引き上げるのはなぜなのでしょうか。最低賃金引き上げを目指す背景には、ワーキングプアの問題や政府が最低賃金の引き上げを経済活性化に有効な施策と位置付けているためです。
非正規労働者として働く人が増えたことで、フルタイムで働いても十分な収入が得られないワーキングプアの問題も大きくなっています。この問題を解消するためには、最低賃金の引き上げが重要です。また、賃金が増えれば、働く人も増え、労働者人口の減少に歯止めがかかるとの期待もあります。
一方、賃金を支払う側の企業にとっては負担増となるため、特に中小企業を中心に最低賃金を維持するよう求める声も多くあがっています。
知っておきたい最低賃金の基礎知識
ここまでは、最低賃金が引き上げられそうであるニュースについて見てきました。
では、そもそも最低賃金とは、どのようなものなのでしょうか。ここでは、知っておきたい最低賃金の基礎知識について見ていきましょう。
最低賃金の定義と対象者
最低賃金とは、簡単にいうと使用者が労働者に支払わなければならない時給の下限額のことです。都道府県ごとに定められます。
最低賃金は、最低賃金法に基づき国が定めたものなので、例えば、企業と従業員が最低賃金よりも低い賃金で働くことを同意したとしても、その契約は無効とされ、最低賃金が適用されます。最低賃金の対象者や対象となる賃金は次の通りです。
・対象者
最低賃金の対象者は雇用形態に関係なく、すべての労働者に適用されます。パートタイマーやアルバイトはもちろんのこと、臨時や嘱託など雇用形態や呼称なども関係なく、適用されます。
ただし、実は最低賃金には、都道府県ごとに定められた一般的な最低賃金(地域別最低賃金)以外に、特定の産業ごとに定められた最低賃金である「特定(産業別)最低賃金」があります。
一般的には、特定(産業別)最低賃金のほうが、地域別最低賃金よりも高く設定されていますが、そうでないこともあります。ただし、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方が適用される場合には、いずれか高いほうが適用されるので安心です。
・対象となる賃金
最低賃金の対象となるのは、毎月支払いがある基本的な賃金(基本給や諸手当)です。残業代やボーナス(賞与)などの臨時的なものは含まれません。また、精皆勤手当、通勤手当なども最低賃金の対象とならないので注意しましょう。
最低賃金の決め方とは
次に、最低賃金の決め方を見ていきましょう。最低賃金は、全国的な整合性を図るため、中央最低賃金審議会、地方の審議会、全国の労働局長を経て決められます。
まず、厚生労働省の諮問機関である中央最低賃金審議会(労働者や使用者らが議論)が毎年、労働者の生計費、労働者の賃金、通常の事業の賃金支払い能力を総合的に勘案し、最低賃金改定の目安を提示します。
その後、地方の審議会がその地方の物価等を参考に、都道府県別の最低賃金価格を提示し、提示された価格を参考に、最終的には全国の労働局長が最低賃金を決定します。改定された最低賃金は、毎年10月ごろから適用されます。
また、特定(産業別)最低賃金は毎年、改定が行われるわけではなく、申出に基づき最低賃金審議会が必要と認めた場合にのみ審議が行われます。
最低賃金についての注意点
最低賃金は、企業、従業員の区分に関係なく重要です。最低賃金について企業、従業員のどちらも注意すべきこととして、次のようなものがあります。
最低賃金は時給換算で計算される
最低賃金は、パートやアルバイトだけでなく、正社員であったとしても適用されます。しかし通常、正社員は月給です。では、どのように月給が最低賃金を満たしているかどうか確認するのでしょうか。
正社員の最低賃金は、時給換算で計算します。月給だけでなく、日給や週給の場合も同じです。給料を時間額に換算して、最低賃金額を満たしているかどうか確認します。ここでは、具体例で計算方法を見てみましょう。
例)月給20万円、職務手当月2万円、通勤手当月1万円、残業代3万円、合計26万円の場合。この会社は、年間所定労働日数は250日、1日の所定労働時間は8時間、会社のある県の最低賃金は時給900円だった。
・最低賃金の対象となる賃金額
合計26万円の賃金のうち、最低賃金の対象となるのは、月給20万円+職務手当月2万円=22万円です。
・時給換算
時給換算の計算では、いったんその月の給料を年額換算してから求めます。
1年間の労働時間数=年間所定労働日数250日×所定労働時間8時間=2,000時間
時給換算額=年換算額264万円÷1年間の労働時間数2,000時間=1,320円
・最低賃金との比較
最低賃金を超えているため、賃金額に問題はありません。
最低賃金のその他の注意点
最低賃金のその他の注意点には、次のようなものがあります。
・最低賃金に違反した場合
最低賃金に違反すると事業者に最低賃金法の第40条に基づき、50万円以下の罰金があります。そのため事業者は、月給であっても、支給額が最低賃金に違反していないかどうかを確認しておく必要があります。
・派遣労働者の最低賃金に注意
派遣労働者を使用している場合、気になるのが、どの地域の最低賃金を適用すればよいのかということです。派遣労働者の最低賃金は派遣元ではなく、派遣先の最低賃金が適用されます。そのため、派遣労働者を使用する場合は、自社の最低賃金を適用するようにしましょう。
・企業には最低賃金の周知義務がある
あまり知られていませんが、企業には最低賃金の周知義務があります。企業は、最低賃金の適用を受ける従業員の範囲や、最低賃金の金額などを常時会社の見えやすい場所に掲示するなど、従業員に周知する必要があるのです。
まとめ
骨太の方針に最低賃金引き上げが明記されたり、中央最低賃金審議会の小委員会で、今年度の引き上げ額の目安を28円とすることが決定されるなど、今年度に最低賃金の引き上げが行われる可能性が高くなっています。
最低賃金に違反すると、事業者は50万円以下の罰金が課せられます。また、最低賃金はパートやアルバイトだけでなく、月給であっても適用されます。そのため、どんな企業であっても、今後の最低賃金の動きについて注視しておく必要があるでしょう。