様々な事情から離婚という形を選択した夫婦の一方は、協議や時には裁判により、もう一方に財産分与を請求できます。ここでは離婚を原因とする「財産分与」について、その意義や手続き、さらに財産分与に関わる税金について、日本で割合の多い「夫から妻への財産分与」を例として詳しく説明します。
離婚時に受け取れる財産は3種類
「財産分与」とは離婚時に、結婚期間中に夫婦で築いてきた財産を夫婦で分け合うことです。協議で決められればよいのですが、夫が分与を拒否した場合や分与額に不満がある場合は、妻は夫に対し財産分与を請求できます。財産分与請求権は法律で認められたれっきとした制度なのです。(民法第768条1項)
財産分与は内容により以下の3種類に分けられます。
清算的財産分与(いわゆる財産分与)
上述のとおり、夫婦の財産を離婚時に清算して分け合う形です。
婚姻期間中に築いた財産は原則としてすべて夫婦の共有財産になります。(民法第762条)たとえ稼ぎ手が夫のみで、妻が専業主婦だったとしてもです。これは妻が家にいてしっかり家庭を守っていたからこそ、夫が働いて収入を得られ、財産形成ができたという考えに基づきます。
ただし例外があり「婚姻前から有する財産」及び「婚姻中自己の名で得た財産」(同条1項)は共有の対象となりません。例として結婚前から夫が自分名義で持っていた家、結婚期間中に妻が相続で得た財産などがあげられます。これらは「特有財産」と呼ばれ、夫婦が協力することで形成し、維持ができていた財産とは別の個人の財産になるのです。
慰謝料的財産分与
夫婦の離婚理由がどちらかの責任に帰する場合、原因を作った配偶者に対して精神的・肉体的な被害を受けたとしてもう一方が請求できる慰謝料としての財産分与です。
慰謝料が認められるケースとしては、夫婦どちらかの不貞行為やいわゆるDVなどがあげられます。慰謝料的財産分与は、清算的財産分与に加算(控除)される形になります。
扶養的財産分与
上2つの財産分与を行ってもなお、離婚後に配偶者の一方が経済的に困窮するであろうことが確実な場合に、いわば援助という形でもう一方が行う財産分与です。これまで一度も働いたことのない専業主婦が経済的に自立できる仕事を見つけにくい、あるいは妻が健康的な問題でフルタイムで働くことができないなど事情は様々ですが、期間を定めて定期的に支払いが行われるケースが多いです。
ただし、感覚的に「厚意」による財産分与といえるので、他の財産分与と違い、裁判で認められるとは限りません。夫婦間の協議での合意が原則でしょう。
なお、養育費に関しては親権を失くしても自分の子の扶養義務は続く(民法第877条参照)ことから、財産分与の中には含まれず、別に計算します。注意しましょう。
離婚時に受け取る財産には税金がかからないのが原則
「分与」という言葉から、財産分与は贈与にあたり、贈与税がかかるのではないか、また不動産を分与されたが税金はどうなるのかなどの不安があるかと思います。しかし実は離婚時の財産分与には基本的に税金がかからないのです。以下に説明します。
財産分与に課税されない理由
妻が専業主婦で給与の振込など家の預貯金は夫の口座にあり、不動産も夫の名義であれば、財産分与は形のうえでは夫から妻へ行うことになるので贈与となりそうです。
しかし前述のとおり、いくら名義が夫のものであっても、その財産は夫婦の協力の下に築いた共有財産ですから、財産分与は「贈与」でなくあくまでも離婚による「財産関係の清算」としてなされるものなのです。したがって贈与税がかかることはありません。安心して受け取ってください。
一方、不動産が財産分与の対象となった場合、財産を分与する側は注意が必要です。もし分与時の不動産の時価が取得した時の時価より高かった場合、譲渡者(分与側)に譲渡取得税が課せられるからです。もっとも、居住中の不動産を離婚後に譲渡するのであれば時価3000万円までが特別控除として非課税になるので、ある程度の額は抑えられることになります。
なお、不動産を譲受ける側は離婚に伴う財産分与という形であれば、通常かかる不動産取得税もかかりません。
慰謝料や養育費が課税されない理由
慰謝料的財産分与に課税されない理由は、財産分与本来の意義に加え、「慰謝料」だということも大きな理由となります。慰謝料は相手方の不法行為による精神的に被った「損害」を賠償するために支払われるものなので(民法第710条)、受け取ることで「利益」があったとは認められないからです。
また、養育費は離婚するしないに関わらず、法律上親は自分の子に対する扶養義務を一定の年数負い続けることから、配偶者にではなく自分の子に対する扶養(生活費や医療費)の一環として当然に負担すべきものです。したがってやはり課税の対象とはなりません。
なお、扶養的財産分与についても夫婦の合意があれば清算的財産分与と考え方は同じなのでこちらも課税されないことになります。
注意!財産分与で課税されるケース
分与された財産を受け取っても課税されない理由はお分かりいただけたと思います。しかし財産分与が課税対象になる例外条件があるので注意が必要です。主なケースは以下のとおりです。
分与された財産額が多すぎるケース
たとえ夫婦共有の財産であり、分与額について双方の合意があったとしても、その額が余りにも多すぎる場合には課税されることがあります。
極端な例ですが、妻が専業主婦で夫の収入のみで婚姻生活を送っており、夫名義の財産が1億円あったとして、このうち9,000万円が妻に財産分与として支払われたような場合です。
もちろん家庭により事情は様々(夫が不貞を重ねた上暴力をふるい続けたとして慰謝料がかなり加算されるなど)でしょうが、それらを汲んでもなお過大であるとされれば、その部分に贈与税がかかることになります。例にあげたケースだと、仮に妻への妥当な分与額が6,000万円だと判断されれば差額の3,000万円が贈与税の対象となります。
税金逃れの財産分与とされるケース
要は財産分与を目的として離婚する場合です。
通常夫婦内での贈与にはいろいろな控除制度がありますが、一定額を超えると贈与税の対象になります。しかし財産分与であれば原則非課税となることから、贈与税の支払いを免れるために離婚するというケースが考えられます。
この場合、分与された全額に対し贈与税が課されます。
財産分与の請求期限に注意!
財産分与は離婚を理由として行うものですが、財産分与請求権の行使には期間制限があり、離婚成立後2年間となっています。(民法第768条2項)この「2年」は法律的には除斥期間(時効のような中断ができず、期間が過ぎれば当然に権利を失う)となっているので、話し合いで合意に至らないまま2年が過ぎてしまったらもう請求することはできません。そのため、話し合いが長引きそうな場合は家庭裁判所に調停を申立て、話し合いの仲介をしてもらい、期間内に支払いを受けられるようにすることをおすすめします。
財産分与の請求期限とは別に、財産分与が「できる」期間には制限がありません。請求権を失っても元配偶者が支払いを認めさえすればいつでも財産を受け取れます。
また、元配偶者が明らかに共有といえる財産を隠しており、少額の分与しかされなかったことが発覚した場合、その事実を知った時から3年以内であれば財産分与のやり直しを請求することができます。(民法第724条参照)
まとめ
財産分与は婚姻期間の共有財産を分け合うものですから、専業主婦であっても当然に受け取る権利があります。また、財産分与で受け取った金額には課税されないので受取額をもとに具体的に離婚後の生活を設計可能です。
離婚時には他にも決めるべきことが多く、精神的な負担も大きいですが、財産分与についても「自己の財産」という意識を持ってしっかり協議するようにしましょう。