G7が「デジタル通貨」発行の共通原則を公表 ついに“デジタル円”の時代が来る!? | MONEYIZM
 

G7が「デジタル通貨」発行の共通原則を公表
ついに“デジタル円”の時代が来る!?

先進7ヵ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議(2021年10月13日、米ワシントン)は、各国の中央銀行が発行する「デジタル通貨」(CBDC)について、「G7として共有する原則」を確認する声明を初めてまとめ、公表しました。どのような原則なのでしょうか? そもそもデジタル通貨とはどんなもので、世の中はどう変わると考えられているのか、解説します。

「デジタル通貨」とは何か?

「仮想通貨」とどう違う?

「デジタル通貨」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか? お札や硬貨のようなモノではなく、データとして存在する通貨……それで正解です。「現金ではないデジタルデータでありながら、通貨として利用可能なもの」がその大まかな定義です。

 

では、すでに広く使われている「電子マネー」や「仮想通貨」はどうでしょう? 両方とも、やはりデジタルデータをやり取りします。答えは、「それらも、広義のデジタル通貨である」。今、「大まかな定義」と言ったのは、実は新しい概念であるデジタル通貨に、「こういうもの」という明確で公の定義はないからなのです。

 

ちなみに、電子マネーは、あくまでも「現金の代役」です。事前にチャージしたり、預金やクレジットカードと紐づけされたりした現金は、電子マネーを使うたびに減っていきます。これに対して、ビットコインといった仮想通貨は、国の決めた法定通貨(ドルや円など)に依存せず、ユーザー同士の認証に基づいて流通している点が、大きな違いと言えます。

CBDCとは?

さて、では今回の本題であるCBDCとはどんなものなのでしょうか? CBDCは「Central Bank Digital Currency(中央銀行発行デジタル通貨)」の略です。「中央銀行」は、通貨として利用される銀行券(紙幣、貨幣)を発行し、金融政策を運営するその国や地域の中核銀行で、日本では日本銀行(日銀)、アメリカでは連邦準備制度(FRS)、EUでは欧州中央銀行(ECB)がこれに該当します。

 

CBDCとは、ひとことで言えば、これら中央銀行の発行する銀行券をデジタルデータに置き換えたものです。電子マネーのように現金→データとワンステップ置くのではなく、もともとの現金をデジタル化してしまうわけです。民間の銀行を介さずに流通する法定通貨であることも、大きな特徴です。

議論されたCBDCの共通原則

「通貨・金融システムに害を与えないものに」

電子マネーの普及で、いちいち現金を持ち歩いて、買い物のたびにおつりをもらうといった煩わしさは軽減されましたが、国の通貨をデジタル化するとなると、話はそう単純ではありません。やり方によっては、「貨幣経済」の土台を揺るがすような混乱を招く可能性も否定できないからです。

 

そうした認識を踏まえてG7で公表されたCBDCに関する共通原則(公共政策上の原則)には、主として次のような点が盛り込まれました。

 

  • 現金と共存し、安全な金融システムに貢献しなければならない。
  • プライバシーに関する厳格な基準を満たし、エネルギー効率に優れたものでなければならない。
  • サイバー犯罪のリスク、不正行為のリスク、その他の運用リスクに対する安全性と回復力を備えたものでなければならない。
  • 規制上の懸念に対処できるまでは、サービスを開始すべきではない。

 

「原則」は、全体として「通貨・金融システムの安定に無害であるように設計されるべき」というトーンで貫かれているのが、特徴と言えるでしょう。

議論を加速させた「2つの外圧」

CBDCに関しては、G7で導入を正式決定した国はありませんが、世界各国の中央銀行が調査・研究やシステム開発に乗り出しています。さきほども述べたように、事はグローバルに影響する通貨の問題ですから、今回の「原則」の公表の背景には、「CBDCに対する国際ルールが必要だ」という認識があったわけですが、実は「2つの外圧」がこの議論を加速させたものとみられています。

 

1つは、主要国で最も早くデジタル通貨の導入・普及の準備を進め、すでに実証実験にも取り組む中国の動向です。一説によれば、中国は、2022年の北京冬季五輪に合わせて“デジタル人民元”を発行し、国際的にアピールする可能性があると言われます。国際ルールに依らないデジタル通貨が世界に広がれば、マネーロンダリングの温床になるかもしれません。さらには、国際基軸通貨であるドルの立場を揺るがし、対中国の安全保障上に脅威になりかねないという懸念が、G7サイドにはあります。

 

もう1つは、2019年にFacebookが仮想通貨「リブラ」(「ディエム」に名称変更)計画を公表したことです。法定通貨を担保にした「ステーブルコイン」(安定した価格を実現するように設計された通貨)であるところが他の仮想通貨との違いで、既存の通貨体制に大きな影響を与えかねないとして、やはり各国の中央銀行が警戒を強めました。

 

CBDCをめぐっては、G7をはじめとする国々の中央銀行が、中国と仮想通貨に挟み撃ちにされている構造と言えるかもしれません。

新政権の下、日本でも導入が進む?

日本国内の状況も見ておきましょう。政府は2020年7月に発表した「骨太の方針」の中で、CBDCについて「日本銀行において技術的な検証を狙いとした実証実験を行うなど、各国と連携しつつ検討を行う」方針を明らかにし、それを受けて、日銀内に「デジタル通貨グループ」が設置されました。ただ、「現時点(21年10月)でCBDCを発行する計画はない」「発行しないということも、大きな決断になってくる」(内田眞一理事)というのが、日銀の基本的な立場です。

 

一方、岸田内閣は、特に中国に対抗するという安全保障上の観点からCBDCの導入に積極的だと言われ、今後この議論が活発化するのではないか、という見方もあります。新設された経済安全保障担当相に就いた小林鷹之氏は、「中銀デジタル通貨には大きな可能性があり、検討を加速していつでも実行に移せる準備が必要だ」と述べています。

 

“デジタル円”が現実のものとなる日が、遠からず来るかもしれません。

CBDCのメリット・デメリット

国レベルの確執はともかく、もしCBDCが使われるようになった場合、私たちの生活には、どんな影響が考えられるのでしょうか?

CBDCのメリット

メリットとして考えられるのは、以下のような点です。

 

〈国民レベル〉

  • 民間銀行を通介さずに流通するため、銀行口座がなくても各種決済サービスが利用できる。
  • 現金を持ち歩く必要がなく、盗難や紛失のリスクが減る。
  • 収入、支出がすべてデジタルで記録されるため、税務申告などが楽になる。

 

〈国レベル〉

  • 紙幣や貨幣の製造、管理、廃棄などのコストが削減できる。
  • 中央銀行が金融取引データを詳細に追跡可能なため、脱税、違法組織への送金といった金融犯罪が防げる。

CBDCのデメリット

一方、次のようなデメリットも考えられます。

 

〈国民レベル〉

  • 取引に関するプライバシーが守られない危険性がある。
  • 店舗などでは、CBDCへの対応にコストが発生する。

 

〈国レベル〉

  • サイバーセキュリティ上の脅威が高まる。
  • 偽造対策などの技術的なハードルがある。
  • 商習慣の変化などにより、想定外の経済的なデメリットを生む危険性がある。
  • 民間銀行の経営が圧迫される。

まとめ

紙幣などの現金に代わるCBDCの発行に向けた、国際的な議論が本格化しています。「発行は考えていない」という基本姿勢をとってきた日本(日銀)でも、新政権誕生を機に、今後“デジタル円”の導入に向けた動きが具体化するかもしれません。

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