コロナ禍で景気も良いとは言えない状況の中、ハイパーインフレの発生を心配する声があがっています。ハイパーインフレとは言葉通り急激にインフレが発生することで、ハイパーインフレになると国民の生活や経済が打撃を受けることになります。
この現象は、国の信用度が下がると発生しやすく、2007~2009年にアフリカのジンバブエ共和国でハイパーインフレが発生し話題となったことを覚えている方もいるでしょう。現在、世界はまだコロナ禍から脱しておらず、ハイパーインフレの発生が懸念されています。
この記事では、ハイパーインフレの定義や何が原因で起こるのか、どのような影響を及ぼすのか、などについて、過去世界で発生したハイパーインフレの例を挙げながら解説します。
ハイパーインフレとは
ハイパーインフレの定義
ハイパーインフレとは、貨幣の価値が短期間のうちに大幅に下落して急激な物価高が起こる現象です。アメリカの経済学者、フィリップ・D・ケーガン氏は、「インフレーション率が毎月50%を超えること」をハイパーインフレーションと定義しています。毎月インフレ率が50%を超えると1年後に物価は129.75倍になり、インフレ率は12875%です。
つまり、1個100円のパンが1年後に12975円になります。ジンバブエでハイパーインフレが起こったとき、100億ジンバブエ・ドルが発行されたことが話題になりましたが、そうしないと急激に高騰する物価に追いつけなかったのです。
ハイパーインフレが起きると紙幣は紙くず同然となり、国の経済は破綻同然になります。自国だけでハイパーインフレから脱出するのは大変難しいでしょう。
ハイパーインフレが発生する主な原因
ハイパーインフレーションは、国が発行する紙幣に対する信用の下落や紙幣の大量発行によって起こります。一例を挙げると、第一次大戦後のドイツは戦勝国から支払い不可能なほどの高額な賠償金を請求されたことがきっかけでハイパーインフレが起こりました。
日本でも、太平洋戦争にかける予算が国家予算の280倍という途方もない金額に膨れ上がり、それを国債で賄った結果、物価が急上昇するハイパーインフレが発生しています。
つまり、ハイパーインフレは国家財政の行き詰まりから発生することが大部分です。このほか、経済制裁を受けている国が自国で手に入らないものを国外から大量に輸入しようとした場合もハイパーインフレが起こる場合もあります。ただし、そのようなケースはごく僅かです。
過去にハイパーインフレが起こった例
ドイツ
前述したようにドイツは1914年~1918年に起こった第一次世界大戦に敗戦したため、戦勝国から1320億マルクの賠償金を請求されます。これは、当時のドイツの税収10年分に相当する金額でした。この当時、ドイツは「金本位制」を取っており、保有する金の量分しか貨幣を発行できなかったのです。しかし、ドイツは借金を早く返そうと中央銀行に自国が保有する金の量以上の貨幣を擦らせます。その結果、紙幣の価値は急落しました。また、賠償金代わりにフランスやベルギーがドイツ屈指の工業地帯であるルール地方を占拠する事態も発生し、政府への信頼も失われていきます。物価水準は大戦前の2500倍に上がり、1兆マルク札も発行される事態になりました。
ジンバブエ
ジンバブエのハイパーインフレは世界中で話題になったため、耳にしたことがあるという方も多いでしょう。ジンバブエは長い間イギリスの植民地であり、長い間白人が政治や経済の主導権を握っていました。しかし、1980年代にアパルトヘイトが限界を迎え主導権が初代首相のロバート・ムガベ氏に移ります。その結果行われた政策が、白人から土地を取り上げ、外国企業を閉め出すことでした。それにより外国企業が一斉にジンバブエを去り、経済的に大打撃を受けます。さらに、国は法律で物を高値で売ってはいけないと定めた結果、商店の多くが立ちゆかなくなり廃業しました。つまり、圧倒的な物品の供給不足に陥ってしまったわけです。
そして、コンゴ戦争に参戦するために無計画に紙幣を増刷しました。これらの策による失敗が重なってハイパーインフレが起こります。現在もハイパーインフレによる経済的な混乱は続いています。
ベネズエラ
ベネズエラは、アメリカの経済制裁に加えて外国企業の締め出しや自国が産出する原油の価格下落などがあわさって断続的に発生し、現在も続行中です。
経済制裁だけでも大変な上、政府の判断がことごとく国の経済を失速させることばかりだったため、2016年に481%、2017年に1,642%、2018年に2,880%、2019年に3,497%と年を追うごとにひどいハイパーインフレが発生しました。現地では生活必需品の購入もままならない酷い有様でした。そして現在でも、南アフリカ共和国など近隣の国へ多くの国民が逃げ出し続けています。
ハイパーインフレへの対策
日本でハイパーインフレが発生する可能性
日本では、2021年現在一見するとハイパーインフレが起こるような様子は見られません。しかし、マネタリーベース(日本銀行が世の中に直接的に供給するお金)は500兆円を超えています。アメリカのマネタリーベースが350兆円のため、国や経済の規模に対してマネタリーベースが大きすぎる点が懸念されています。つまり、市場に流通するお金が多すぎるのです。しかし、このことが直接的にハイパーインフレに結びつく可能性は低いでしょう。
多くのエコノミストも「マネタリーベースは大きいが、緩やかなインフレーションが発生する事はあってもハイパーインフレが起きる可能性が低い」と判断しています。しかし、2020年初頭から起こったコロナ禍で世界経済は大きな打撃と混乱が発生しました。これから、思わぬことが原因で日本経済が打撃を受ける可能性があります。
ハイパーインフレになった時の対策
ハイパーインフレが起こった場合、現金は一瞬で価値が下落します。ハイパーインフレはある日突然起こるわけではありません。段階を踏んで物価が上昇し、通貨の価値が下落していきます。その際、持っている資産を株式や金・土地など現金以外のものに変えておくことで危機を回避できる可能性があります。ドルやユーロなど信用度の高い通貨に交換しておいてもいいでしょう。会社の資産を守りたい場合は、顧問税理士と相談し税金のことも考えながら資産を分散させておくことが大切です。
また、日本における日本銀行のような中央銀行は、景気の過熱やインフレを抑制するための金融施策を行なっています。例えば主要国の中央銀行では物価の動きである消費者物価コア指標を常に追うことで、景気の機微な変化を察知できるよう取り組んでいます。そのため、インフレの懸念が高まった場合には、国債を民間金融機関に売却する売りオペレーションや政策金利の引き上げといった金融引き締め政策が行われるでしょう。金融引き締めと金融緩和のサイクルを通して経済を正常化するプロセスは一般的な景気循環サイクルであるため、景気の浮き沈みを見極めて「いつ投資をするべきか」の判断を長期的な視線で推察することが重要です。
まとめ
ハイパーインフレーションが現在の先進国で発生する可能性はかなり低いといえます。しかし、コロナ禍により世界中の経済が混乱している今は、どのような事態が起こるか分かりません。そのため、ハイパーインフレーションが起こる予兆が見えたら、すばやく資産を分散させ、被害を最小限に抑えましょう。