米フェイスブック社が、「ソーシャルメディア企業からメタバース企業への移行を目指す」と宣言して、社名を「メタ(Meta)」に改めたことから、にわかに注目が集まった「メタバース」。“共有の仮想世界空間”と説明されるのですが、実際にはどのような未来が想定されているのか、解説します。
メタバースとは何か?
メタバースは「超(meta)」と「宇宙(universe)」の造語
メタバースは、「超(meta)」と「宇宙(universe)」の造語で、インターネット上に存在する3DCG(3次元コンピューターグラフィック)の仮想空間です。ウィキペディアによれば、「もともとはSF作家のニール・スティーヴンスンが1992年に発表したサイバーパンク小説『スノウ・クラッシュ』に登場する架空の仮想空間サービスの名称だった」そうです。その後の技術の発展により、仮想空間サービスが徐々に“リアル”になってくると、それらの総称として、広い意味で使われるようになりました。
ただ、フェイスブックの社名変更以来語られるメタバース(以後「次世代メタバース」)は、より概念が鮮明です。仮想空間のユーザーは、自分のアバター(分身となるキャラクター)を作成してそこに参加し、「もう1つの現実世界」として他のアバターと交流して楽しむだけでなく、商品やサービスの購入などを行うことが可能。「将来的にインターネット環境が到達するであろうコンセプト」と位置づけられています。
「すでにあるメタバース」との違い
既存の類似サービスとしては、2000年代に大ブームになった米リンデン・ラボの「セカンドライフ」(仮想空間で、現実世界とは別の生活を送ることができる)や、これもコロナ禍の巣ごもり生活でブレイクした任天堂のゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」(架空の無人島でスローライフを楽しめる)などがあります。
これらが、現在志向されているメタバースと違うのは、あくまで画面上の2次元の世界にとどまっていること。次世代メタバースでは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術の長足の進歩によって、自分(アバター)が3次元の世界に直接入り込み、他者とその空間を共有しているかのようなリアリティーを得ることが可能になりました。仮想空間をのぞき込むのか、その中の一員になるのかの違いと言えばいいでしょう。
メタバースのメリットは?
仮想空間でのリアルなコミュニケーションが可能に
次世代メタバースでは、専用のゴーグルを使って仮想空間に参加します。そこでは、身振り手振りなどを通じて、アバターを操作することができるので、他の参加者とより自然なコミュニケーションを取ることが可能になります。
どこにでもアクセスできる
インターネットを利用するため、設定された仮想空間には、基本的に国や地域を問わずアクセス可能。3次元の仮想空間でグローバルな交流が実現できるのは、大きなメリットと言えるでしょう。
「ありえないこと」も体験できる
現実世界ではありえない体験ができるのも、仮想(バーチャル)世界ならでは。繰り返しになりますが、それが画面上にとどまらず、リアルな別の世界で実現できるというのは、今までになかった大きな魅力です。
メタバースが可能にすることとは
こうした特徴を持つ次世代メタバースが可能にする世界とは、どういうものなのでしょうか?
今までにないエンタメ
アバターとなって参加できる3次元の仮想空間は、リアリティーを追求するゲームの世界を大きく進化させるでしょう。また、大人数が空間を共有する音楽ライブなどのイベントも可能にします。すでに米VRチャット社のメタバース『VRチャット』のように、仮想空間での音楽イベントを成功させた例もあります。そこでは、優れた音質の音楽に触れながら、自由に体を動かしたりして、他の参加者との一体感を味わうことができるのです。
ビジネスにも使える
次世代メタバースは、ビジネスの有力なツールとしても注目されています。メタ社は21年8月、VR技術を活用したバーチャル会議サービス『ホライズンワークルームズ』を開設しました。会議の参加者は、アバターを通して身振り手振りなどを交えて発言したり、字や図を描いたり、仮想空間で実際に近い形の議論を進めることができます。
メタバースが使えるのは会議だけではありません。例えば、社内のチームが仮想空間に一堂に会して、3D環境下での図面やデザインの作成といった共同作業を行うことも可能になります。お互いが海外などの遠隔地にいても、リアルなものづくりなどができるわけです。
「経済活動」も活発化
これまでも、仮想空間サービス内のゲームで使うアイテムなどを、そこで流通する仮想通貨を使って売買し、現実の通貨に換金するといった「経済活動」が行われていますが、次世代メタバースでは、それがより高度なものになると予測されています。
キーになるのが、NTF(非代替性トークン)というデジタル技術で、ひとことで言えば「偽造不可能な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」のことです。発行者や所有者、取引履歴をすべて記録することで不正を防ぎ、また著作権を持つ人がNTFを発行することで、権利に「唯一性」を持たせることを可能にしました。要するに、そのままでは改ざんやコピーが容易なデジタルデータに、現物の貴金属や絵画のような資産価値を保証する技術なのです。
21年4月には、あるデジタルアートがメタバース内で、6,935万ドル(約75億円)で落札された、というニュースが報じられました。NTFはメタバース専用の技術ではありませんが、両者が結びつくことで、アートをはじめゲーム・不動産・デジタルチケットなどさまざまな分野で経済活性化が実現するのではないかと期待されています。
メタバースの課題は
このように新たなテクノロジーとして期待を集めるメタバースですが、この間注目が高まったのには、リアルな交流が制限される新型コロナの拡大という要因も無視できません。コロナの収束後に成長軌道に乗るためには、課題もあります。
例えば、もっと広範な人が参加したくなるような魅力的なコンテンツを生み出していけるか。現状では、重いゴーグルを装着しなくては仮想空間に入れない、という使い勝手の問題もあります。さらには、何でもありの“無法地帯”にならないための包括的なルールの形成も必要になるでしょう。
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まとめ
VR、AR技術を活用して、3次元の世界に実際にいるかのような世界を実現するメタバースが注目されています。今後新たなビジネスの創設などが期待されていますが、次世代のインターネット環境として定着するためには、継続的なコンテンツの投入ができるのか、といった点が課題になりそうです。