収入が減って生活が困窮し、借金の返済も困難になってしまった。こんな場合には、生活を立て直すために、裁判所に「自己破産」を申し立てて返済を免除してもらう…という方法があります。コロナ禍で予期せぬ減収に直面し、申し立てを検討している人もいらっしゃるのではないでしょうか。ところで、自己破産が認められても、「税金の滞納分は返済免除にならない」のをご存知ですか?支払いが難しいときにはどうしたらよいか?そのまま放置するとどうなるのか?今回は自己破産と税金について詳しく解説します。
自己破産するとどうなる?
最初に、そもそも自己破産とはどういうものなのかを簡単に説明します。
「支払い不能」を裁判所に認めてもらう
自己破産とは、財産や収入が不足し、借金返済の見込みがないことなど(「支払不能」)を裁判所に認めてもらい、原則として、法律上、借金の支払い義務が免除される(「免責」)手続です。それにより、返済に追われることなく、収入を生活費に充てることができるようになるわけです。
個人の債務整理には、裁判所を介さずに貸金業者などの債権者と直接交渉して返済を軽減する「任意整理」や、裁判所に申し立てを行って借金を大幅に減額したうえで分割返済していく「個人再生」という方法もあります。ただ、借金を一気に全額ゼロにできるのは、「自己破産」以外にありません。
「免責」が認められないNG行為
ただし、どんな場合でも自己破産ができるわけではありません。例えば、収入が減っても、換金可能な高額の財産がある場合などには、申し立てが認められないこともあります。
また、例えば次のような行為(「免責不許可事由」)があると、免責が認められなかったり、取り消されたりすることもあります。自己破産が、債権者に損害を与えてでも債務者を救うために借金を免除する、という性格のものである以上、“ルール”も厳格なのです。
・財産を隠す
換金可能な財産は、すべて申告しなくてはなりません。
・債務を隠す
自己破産手続きには、「債権者平等の原則」があり、特定の借金を免除しないようにすることはできません。
・特定の債権者に優先して返済する
借金全額を支払えないのが明らかなのに、一部の業者や友人など、特定の債権者に優先して返済する行為は、「偏頗(へんぱ)弁済」と言って、免責不許可事由になります。
・クレジットカードを利用した「現金化」
クレジットカードのショッピング枠で購入した物品や金券を、換金ショップで換金することはNGです。
・貸金業者を騙して借金する
すでに他の借金返済が困難な状態なのに、返済可能だと偽って借金をすることは、免責不許可事由に該当します。
自己破産しても支払い義務が残る「非免責債権」とは?
支払い免除にならないものがある
説明したように、裁判所に免責が認められれば、金融機関などからの借金は“帳消し”にしてもらえます。しかし、そうはならないものもあることに、注意しなくてはなりません。このような債務(請求者から見て債権)のことを「非免責債権」と言い、次のように法律に定められています。
破産法253条(免責許可の決定の効力等)
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
1租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
2破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
3破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
4次に掲げる義務に係る請求権(以下略)
税金は、1の「租税等」に該当するため、支払い義務はなくなりません。自己破産後はもちろんのこと、滞納分があれば、それも法律の定める通り納める必要があるのです。
ちなみに、税金以外の「非免責債権」には、具体的に次のようなものがあります。
- 国民年金、国民健康保険料
- 下水道利用料(電気料金、ガス料金、上水道料金は免責)
- 損害賠償、罰金
- 慰謝料
- 養育費
- 婚姻費用
- 従業員に支払うべき給与
「借金して納税」はNG
「免責不許可」のところで、「偏頗弁済」すなわち一部の債権者だけに返済することは許されない、という話をしました。しかし、これは税金には適用されません。自己破産手続では、「借金は返済できないけれど、税の滞納分は支払う」ことが認められているのです。
となると、「どうせ借金はゼロになるのだから、自己破産前にどこかからお金を借りて、税金の滞納分を支払ってしまおう」と考える人がいるかもしれません。しかし、やはりその手は通用しません。
このような「返すつもりがないのに借金して、自己破産を申し立てる」行いは、さきほどの「免責不許可事由」に該当します。免責自体が認められないばかりか、「詐欺罪」の対象になる可能性もありますため、絶対にやめましょう。
それでも納税が厳しい場合の救済策はないのか?
税金にも「時効」はあるけれど……
とはいえ、自己破産の申し立てを行わざるを得ない状況ですから、税金の負担は重くのしかかるでしょう。免除、あるいは軽減してくれるような救済策はないのでしょうか?残念ながら、答えは「ほとんどない」ということになります。
救済の前に、「逃げられないか」を考えてみましょう。実は税金にも、「時効」が定められていて、所得税などの国税については、次のようになっています。
- 期限内に申告した→申告期限の翌日から3年
- 期限内に申告しなかった→同じく5年
- 贈与税の時効→同じく6年
- 脱税の意図があった→同じく7年
ただし、これらの期間は、督促状が送られたりした時点で、リセット(そこから再びカウント)されます(「時効の中断」)。厳しい税務署の目を逃れるのは、事実上不可能です。自己破産などという「有事」であれば、なおさらマークされるはずです。
生活保護受給が3年に及ぶと免除になる
そうは言っても、本当に家計がギリギリで、税金を納めたら生活そのものが破綻する、といった状況になることは、十分あり得ます。そうした場合のセーフティーネットとして用意されているのが、生活保護の制度です。
この生活保護の受給対象になると、税金の滞納分の督促(「滞納処分」)は、一時的に停止されます。そして、受給開始から3年経過した場合、滞納分の支払い義務は免除されます。
滞納を続けるとどうなるか?
では、何もせずに、税金の滞納を続けた場合には、どうなるのでしょうか?
負担が増えていく「延滞税」
税金には、納付期限を過ぎると「延滞税」(国税)が加算されます。税率は、納期限の翌日から2月を経過する日までが、原則として年7.3%、それ以後は原則として年14.6%です。地方税にも「延滞金」がかかります。
時効を期待して納税を先延ばしにした結果、ただでさえ支払いが厳しかった滞納額が雪だるま式に膨らんで、せっかく自己破産したのに生活の再生に大きな障害となってしまった――。そんな事態になるかもしれません。
財産の差押え
納税を「無視」していると、最終的には、次の手順に従って、給与も含めた財産が差押えられ、強制的な税金の回収が実行されることになります。
①督促状の送付
国税は滞納から50日以内、地方税は20日以内に、督促状が送付されます。この時点で、時効は中断されます。
②法的に差押えが可能に
督促状の送付から10日以上経過しても滞納分が納付されない場合には、法的に差押え可能な状態になります。
③差押えの実行
「最後通牒」として、財産を差押える旨の通知書が届きます。これも無視すると、差押えの執行ということになります。
どうしても「支払い不能」なときはどうする?
放置せずに行政の窓口で相談する
自己破産しても、滞納分が帳消しにならないことはわかった。でも、当面支払いが厳しい――。
そんな場合には、迷わず税務署や区市町村役場に相談するようにしましょう。それぞれ、税に関する相談窓口を設けています。
その際に重要なのは、
- 自己破産の事実を伝える(「破産手続開始決定書」などを持参する)
- 支払いが厳しい理由(例えば新型コロナの影響)や実情を正確に伝える
- きちんと納税の意思を示す
ことです。
税務署や自治体も、確実に税を徴収するのが最優先。納税者(住民)の生活が立て直されなければ、それも難しくなってしまいます。具体的には、納税の猶予や分割払いの相談に応じてくれる可能性があるでしょう(ただし、猶予であって免除ではありません)。
生活保護を検討する
さきほど説明したように、生活保護の受給対象になれば、滞納処分は一時的に執行停止になります。差押えが行われることもありません。当然、受給には要件がありますが、税金が支払えないほど生活が苦しい場合には、検討してみるべきでしょう。
ちなみに、2021年3月、生活保護申請時の「扶養照会」(親族への問い合わせ)が、事実上廃止され、以前に比べ申請しやすくなりました。
まとめ
金融機関などからの借金をゼロにして、生活の再建を目指すことができる「自己破産」ですが、税金の滞納分は残ります。支払いが困難な場合には、速やかに税務署や地方自治体の窓口で相談するようにしましょう。