マッチングアプリで男性が女性キャストを呼び、一緒に飲食を楽しむ「ギャラ飲み」サービスをご存知でしょうか?男性側が対価として支払うギャラ(報酬)から、この名が付きました。ところで、このギャラに対して国税局が目を付けた、というニュースがありました。多額の収入を得ていたキャストに、申告漏れの疑いが相次いだというのです。今回は「知らなかった」では済まない税金の申告(確定申告)について解説します。
東京国税局がギャラ飲みサービス運営会社を税務調査
盛況のマッチングサービス
「ギャラ飲み」は、基本的に男性グループの飲み会に女性が同伴するサービスです。利用者は専用のアプリを通じて、そこに登録しているキャストに集合場所を指定し、一緒に飲食して報酬を支払うという…システムになっています。女性側にとっては、飲み会に参加しておしゃべりするだけで気軽に稼げるのが大きな魅力で、登録者数は増え続けています。
これに似た形態のものに、“パパ活”があります。こちらは1対1で食事や買い物などの「疑似デート」に付き合うというものです。こうした男女のマッチングサービスは、すでに100億円近い市場になっている、という指摘もあります。
数千万円稼いでいた人も
ところが、この市場に国税局のメスが入りました。2月4日の「朝日新聞デジタル」の記事を引用します。
一定の料金を支払って呼んだ女性らと一緒に飲食する「ギャラ飲み」と呼ばれるマッチングサービスをめぐり、店に派遣される女性らに税金の申告漏れの疑いが相次いでいたことが、関係者への取材でわかった。東京国税局は運営会社への税務調査の過程でこうした状況を把握。収入を得ながらも納税についての知識がなく、申告しないケースが多発しているとみられる。
記事によれば、元々当局に目を付けられたのは、ギャラ飲みサービスの運営会社でした。ちなみに税務調査には、税務署の行う「任意調査」(通常の税務調査)と、国税局査察部(通称マルサ)の行う「強制調査」があります。このケースは後者のようですので、かなり悪質な税逃れを行っていた可能性が濃厚でしょう。
ともあれ、形のうえでは、申告漏れの“キャストたち”はとばっちりを受けた格好となります。ただし、中には年間数百万円から数千万円の収入がありながら申告していない女性も少なくとも数十人いたとされますので、同情の余地なしと言わざるを得ません。
“ギャラ飲み”の収益に課税される税は?
先ほど引用した記事にもあるように、まだ学生だったり、これまで税務申告などしたことがなかったりする人は、そもそも納税の必要性についての知識を欠いていることも少なくありません。「こんなはずではなかった」ということにならないように、最低限、次のような税の基本は押さえておきましょう。
所得税、住民税
ギャラ飲みの運営会社に登録し報酬を受け取る場合、課税されるのは、「所得税(国税)」と「住民税(地方税)」です。会社勤めやアルバイトで給料を貰う場合、これらは源泉徴収という形で、会社などが給与から天引きしたうえで本人に代わって納税してくれます。しかし、受け取った報酬が源泉徴収されておらず、さらにこの報酬額が後述の「基礎控除」を超える場合などには、自分で税務署へ「確定申告」を行う必要があるのです(確定申告が必要になるのは、以下に述べる税金についても同様です)。
所得税は、所得額が増えるほど税率が上がっていく「累進課税」という仕組みを採用しています。例えば所得が200万円なら10%、1,000万円だと33%です(それぞれ税額から差し引く控除額があります)。
ちなみに「所得」という単語が出てきましたが、「所得」は「収入(売上。ギャラ飲みの報酬)」とは違います。「所得」は、収入から「必要経費」などを除いたもので、これに今のような所得税の税率をかけて税額を計算するのです。
必要経費とは、その収入を得るために必要な出費のことで、ギャラ飲みに関して言えば、指定された会場に出向くための交通費を自己負担した、ギャラ飲み専用の衣装を買った、仕事に関連する書籍を購入した、といったケースが当てはまるでしょう。これらの費用は、収入から差し引く(=所得を減らし納税額を抑える)ことができます。
所得×税率(所得の金額に応じて変動)=所得税の金額
収入から差し引けるものには、このほか各種の「所得控除」があります。例えば、「基礎控除」といって、年間48万円(所得が2,400万円以下の場合)は、自動的に収入から差し引くことができるのです。
納税者本人の合計所得金額 | 基礎控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
副業で働いている場合は?
会社勤めをしていて、副業としてギャラ飲みで収入を得ている人もいると思います。この場合は、年間の所得が20万円を超えるのであれば確定申告しなくてはなりません。逆に年間所得20万円以下ならば確定申告は不要なのですが、これはあくまで国税の「所得税」についての扱いの話です。住民税に関しては、やはり自治体への確定申告が必要なので、間違えないようにしましょう。
収入が1,000万円超えたら消費税の納税義務が発生する
年間の課税売上(この場合は「所得」ではありません)が1,000万円を超えていたら、消費税も納めなくてはなりません。「消費税ならいつも払っているのでは?」と思われるかもしれませんが、消費税は消費者が直接納税しているわけではありません。例えば店で買い物をして払った消費税は、いったんその店が預かり、納付期限までにまとめて税務署に納める仕組みになっています。
自分がその店の立場になったと考えてください。運営会社から消費税を含めたギャラが渡されるとして、現行制度では売上が1,000万円以下の場合には、預かった消費税の納税は免除され、手元に残していいことになっているのです(益税と言います)。しかし、売上が1,000万円を超えると、”消費税課税事業者”として納税義務が課せられます。
贈与税
先ほど説明したように、運営会社を通してギャラを受け取るのであれば、課税されるのは所得税です。しかし、個人からお金をもらう場合には、「贈与税」の課税対象になる可能性があります。パパ活ではこのパターンが多いでしょう。贈与税にも年間110万円の「基礎控除」がありますが、こちらは必要経費などが認められず、やはり累進課税制になっています。
「無申告」がバレたらどうなる?
強まる監視の目
ギャラ飲みの稼ぎを申告しないでいても、バレない可能性はあります。ただし、税務署は、このような比較的新しい業態、特に儲かっていそうな会社や個人には、特に監視の目を強めていることを忘れないほうがいいでしょう。「自分は大丈夫」と思っていても、最初に述べたような“もらい事故”もあるのです。
もし確定申告を怠っていたことが発覚した場合、金額の多い・少ないにかかわらず、次のような状況を招くリスクがあります。
過去に遡って課税される可能性がある
納税義務があったにもかかわらず確定申告を全く行わなかった場合、未納付の税金を納めるだけでは許してもらえません。「無申告加算税」や「延滞税」というペナルティが課せられることになるのです。
「無申告加算税」の税率は、「納付すべき税額に対して50万円まで」が15%、「50万円を超える部分」は20%を掛けた金額になります。ただし、申告期限を過ぎていても、“税務署の税務調査を受ける前”に自主的に申告を行えば、ペナルティの税率は5%に軽減されます。
最初にお話ししたように、この場合は「納税すべきことを知りませんでした」という言い訳は通用しません。逆に知っていたのに高額の所得を隠していたりすると、さらに税率の高い「重加算税」が課せられる場合があります。
なお、所得税には5年という時効があります。逆に言えば、税務調査の対象になったら、5年前まで遡って調べられる可能性があるわけです。過去に未納付があれば、当然その分にも同様に延滞税も含めて課税されることになります。
困ったら税の専門家に相談を
働いて収入を得たり、お金を貰ったりした場合には、基本的に納税の義務が生まれ、怠るとペナルティの対象になることがあります。これからギャラ飲みで稼ごうと考えている人は、そのことを肝に銘じて、正しい申告を心掛けてください。
また、必要経費の話をしましたが、何を経費にできるのかは判断が難しい場合もあります。そうしたことも含めて、申告について迷うことがあった場合には、税務署の窓口や税理士にアドバイスを求めることができます。
すでに「無申告」の状態にある人は、早めに手を打つことを考えるべきでしょう。先ほども説明したように、税務調査の前に自主的に申告すれば、ペナルティも比較的軽くて済みます。無申告のまま放置せず、すぐに税理士に相談することをおすすめします。
まとめ
気軽に稼げると女性に人気のギャラ飲みですが、その儲けには基本的に所得税などの税金がかかることを忘れないようにしましょう。申告について不明な点や困ったことがあった場合には、税のプロである税理士に相談をすべきです。
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