私たちが普段利用している金融機関が万が一倒産した場合、預けてある預金がどうなるかご存知でしょうか。現在、預金者を保護する制度として「ペイオフ」があります。今回は「ペイオフ」について制度の概要や保護される範囲、ペイオフ制度下におけるリスク回避方法などについて解説します。
ペイオフとは何か?ペイオフの基礎知識
金融機関の破綻とペイオフ制度
「ペイオフ 」は金融機関が破綻した際に預金者を保護するため、第三者機関である「預金保険機構」が金融機関にかわって保険金を支払う制度です。
通常、企業が倒産した場合に債権者が持つ債権は、全額あるいはその大部分が貸倒となり回収不能となるのが一般的です。金融機関の倒産であれば預金者が持つ預金がこの回収不能債権にあたります。
法人・個人問わず、金融機関を利用する方は多いですから破綻すれば社会全体に及ぼす影響は多大なものとなります。国としては破綻リスクを軽減する措置をとらなければなりません。そこで生まれたのが「ペイオフ」という制度です。
実際におこったペイオフとしては、2010年(平成22年)経営再建を目指していた日本振興銀行が再建に失敗し経営破綻した際に発動した例が挙げられます。
制度施行後初の「ペイオフ」が発動したことにより、日本振興銀行の預金者が持っていた5,800億円の預金額のうち「ペイオフ」で保護された部分が預金者の手元に戻っています。
「預金保険法」に基づく預金保護
「ペイオフ」の正式名称は「預金保険制度」であり、その根拠法令となるのが「預金保険法 」です。
「預金保険法」の制度趣旨としては、金融機関が破綻した際の預金者保護を目的としている点が挙げられます。
銀行といえど一般企業と同じく倒産するリスクはあります。
金融機関が破綻したことによる預金の遺失は、企業の経済活動は勿論のこと、私たちの生活にも深刻なダメージを与えると考えられます。他の一般企業が倒産するよりも社会的な影響が大きいことは明らかです。そこで、安定した経済活動を担保するため金融機関の破綻を国の制度として保護しようという観点から1971年(昭和46年)に制定されています。
ペイオフ制度の基礎知識
ペイオフの対象となる預貯金とは?
はじめに「ペイオフ」で対象となる預金の2つの条件について解説します。
1.「預金保険制度」に加盟している金融機関の預金であること
「預金保険法」を実務的に運用しているのは「預金保険機構」です。ペイオフの対象となるのは預金保険制度に加盟している金融機関 にある預金のみとなります。
加盟しているのは国内に本店を持つ銀行や信用金庫、信用組合などであり、2022年(令和4年)1月現在で550の金融機関が加盟しています。預金保険制度に加盟していない海外の金融機関の預金等は保護対象外です。
また「海外に本店がある金融機関の日本支店」「日本に本店がある金融機関の海外支店」にある預金についても保護対象外となりますので注意してください。
2.「制度対象の預金であること」
預金であれば全て保護されるわけではありません。制度対象となるのは「預金保険法」で定める一定の預金に限定されています。
対象となる預金 | 対象とならない預金 |
---|---|
・当座預金 ・普通預金 ・定期預金・定期積金 ・元本補填される金銭信託 ・財形貯蓄 など |
・外貨預金 ・譲渡性預金(第三者に自由に譲渡できる定期預金) ・銀行債、特殊金融債 など |
保護の対象となるのは、当座預金や普通預金など日本通貨で預け入れているものに限られており、外貨建であるものや投機性がある預金は制度対象外となっています。
ペイオフで保護してもらえる範囲は?
次に「ペイオフ」で実際に保護してもらえる金額について解説していきます。
「ペイオフ」で保護してもらえる金額には上限があり、「預金者一人あたりの元本部分1,000万円」と「金融機関が破綻した日までの元本にかかる利息」の合計額が保護されます。
ここで注意したいのが、1,000万円の枠が「預金者一人あたり」である点です。
同一金融機関内で複数の支店に口座をもっているようなケースを想定してみます。
例えばA支店に1,000万円、B支店に2,000万円の普通預金口座を持っているような場合、「ペイオフ」の1,000万円の保護枠は支店ごとに適用されるわけではありません。
預金者が持つ普通預金口座1,000万円+2,000万円=3,000万円の総額に対して1,000万円の枠が適用されます。
したがって、この金融機関が破綻した場合、預金者が保護してもらえる金額は1,000万円のみであり、保護枠を超えた2,000万円については貸倒となってしまいます。
預金残高が1,000万円を超えないよう、口座をいくつかに分散させているような方は「同一金融機関内1,000万円」のルールを改めて確認する必要があります。
金融機関の破綻リスクの回避方法は?
ペイオフ制度で保護されない部分のリスク回避
前章で解説したとおり、「ペイオフ」で保護される上限は「預金者一人あたり同一金融機関内で1,000万円まで」です。したがって金融機関の破綻リスクを回避するための方策の一つとして、複数の金融機関に預け入れを分散させる方法があります。
具体的にはA銀行に1,000万円、B銀行に1,000万円というように、金融機関ごとにペイオフの保護枠内1,000万円以下で預け入れるだけです。
同一金融機関内であれば合算されてしまう1,000万円の保護枠が「各金融機関ごとに1,000万円」使えますので、リスク回避には有効であるといえます。
サブプライム問題に端を発したリーマンショックのように、大規模な金融危機で複数の金融機関が破綻したとしても預金はそれぞれ保護されます。
ただし、デメリットとしては金融機関が複数になるので預金管理が煩雑になるという点が挙げられます。現在はネット銀行が普及していますので、ネット環境さえ構築していればこういったデメリットを緩和することはできるでしょう。
その他に、預金を「金」や「国債」「積立型の生命保険」など、比較的簡単に現金化することが可能な資産にかえておくことも考えられます。しかし預金がもつ「いつでも引き出すことができる」というメリットがなくなりますので、やはり多少の煩雑さが生じることになります。
ペイオフ上限額の対象外となる「決済性預金」にも注目
複数の金融機関に預金を分散させることが困難な場合には、「決済性預金」を活用するのも一つの方法です。
「決済性預金」とは、利息のつかない預金口座の総称であり、当座預金や無利息型普通預金がこれに該当します。決済性という言葉どおり手形やクレジット、公共料金の引き落としなど、決済目的で所有する口座です。「預金保険法」では、決済をするために所有する口座については「ペイオフ」制度の上限枠1,000万円の対象外としており、預金額は全額保護されます。
したがって、同一金融機関内で1,000万円を超える預金を預け入れても全額ペイオフの対象となりますので安心です。
「決済性預金」のデメリットとしては、利息がつかないという点が挙げられます。しかし、バブル経済期とちがい、現在は預金金利が低水準ですから金融機関の破綻で預金を失うリスクを考慮すれば、「決済性預金」は有効であるといえます。
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銀行預金が1,000万円超えたら検討すべき「ペイオフ」対策と、その理由について【フリーランスの税金】|3分でわかる税金
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まとめ
新型コロナ感染症による経済的影響にみられるように、情勢の変化により金融機関が突然破綻することも充分考えられます。1,000万円を超える預金を持っている方は、金融機関の破綻リスクを想定した預金管理をすることをお勧めします。
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