ウクライナへ軍事侵攻したロシアにデフォルトの危機が迫っている…と連日のように報じられています。そもそもデフォルトとは何なのでしょうか?ロシアがデフォルトになる可能性はどのくらいあり、もし陥った場合にはどんな影響が考えられるのでしょうか?分かりやすく解説します。
デフォルトとは「債務不履行」のこと
国の「債務不履行」とは?
日常的に電子機器を使う人ならば、「デフォルト」という言葉を、機器の「初期設定状態」やソフトウェアの「標準動作」といった意味で理解しているのではないでしょうか。
英語の「default」を直訳すると「怠ける」「怠る」ですが、コンピューターの世界では今の「初期設定」、スポーツでは「棄権」、そして金融の分野で使われる場合には「債務不履行」と、それぞれ別の意味で使われています。
注目されているロシアのデフォルトは、もちろん金融分野における「債務不履行」のことを指しています。債務不履行とは、債務(借りたお金)を約束した条件通りに支払えなくなることで、個人や企業、現金や債券など様々なケースがあります。
国家レベルのデフォルトは、具体的には国債(国が借金するために発行する債券)の償還(返済)日に、元本や利息の支払いができなくなることを指します。より正確に言えば、「条件通りの返済は困難」とムーディーズやスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)などの格付け機関が認定すれば、実質的なデフォルトということになっています。
とはいえ、国債の償還にも様々な方法があり、あくまで民間企業である格付け機関の認定基準にも“幅”があります。いつからデフォルトになった、という線引きは実際には難しい場合も少なくありません。
ちなみに、今回のロシアに関しては、3月下旬に大手格付け機関が揃って「撤退」を表明しています。EUが経済制裁の一環として、国や企業などロシアの発行体に対し、投資判断の参考になる信用格付け自体を禁止したためです。
これまでに「国のデフォルト」発生事例はあった?
ところで、これまでにデフォルトを招いた国はあるのでしょうか?答えは「はい」です。
実はそのうちの1つがロシアで、1998年に700億ドルを超える債務の支払いができず、デフォルトに陥りました。ただし原因は、経済の低迷や原油価格の下落による「ロシア危機」とも呼ばれた大幅な財政悪化にあり、今回とは様相が異なりました。
これ以外にも、ブラジル、ベネズエラ、パキスタン、アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドルといった国々がデフォルトを経験しています。
記憶に新しいところでは、2010年ごろから深刻化した「ギリシャ危機」があります。自国の財政赤字を隠して欧州共通通貨のユーロに参加したことなどが発覚したのを契機に、国債が暴落し、デフォルトの懸念も高まりました。この時は、他のユーロ圏諸国への影響があまりにも大きいことから、EUなどが実質的なデフォルト状態だったギリシャを懸命に支えました。
あえて付け加えれば、太平洋戦争の終戦間もない頃、日本もデフォルトに陥っていた、という指摘もあります。実際、ムーディーズとS&Pは「債務不履行」に格付けしていたそうですが、政府は自国のデフォルトを認めませんでした。
ロシアのデフォルトの行方はどうなる?
原因は制裁による外貨準備の凍結
では、現在進行形のロシアの「危機」はどう見るべきなのでしょうか? 今回、ロシアが降って湧いたような窮地に陥ったのは、ウクライナへの侵攻に伴う各国の経済制裁が原因です。
最も効いたのが、ロシア中央銀行の資産がアメリカ・欧州・日本などの制裁により凍結され、外貨準備(ドルやユーロなど)の約半分に当たるおよそ3,000億ドル(約36兆円)が引き出せなくなったことです。例えば、ドル建ての国債の支払いは、ドルで行わなくてはなりません。本来潤沢に持っていた外貨準備がいきなり半分に減ってしまったために、支払いに不安を抱かせることになっているわけです。
今後の見通しは?
ウクライナ侵攻後、ロシアは4月4日まで5回にわたる国債の償還・利払いを行ってきました。4日期限の償還は、利払いも含めて21億ドル強という大きな金額でしたが、自国通貨ルーブルによる「前倒し償還」に多くの債権者が応じたこともあり、乗り切りました。
しかし、そうした奇策にも限りがあります。現在、制裁措置によって、各国の銀行はロシアの財務省・中央銀行・政府系ファンドとの取引が禁じられているのですが、投資家保護のために、米財務省外国資産管理室(OFAC)により、償還金受け取りなどを目的とする取引はその禁止対象から除外する…という通達が出されています。ただし、その期限は5月25日まで。その後、初めての支払期限となる5月27日が、デフォルトに陥るか否かの次のポイントになるものとみられています。
仮にそれを乗り越えても、2022年末までに総額約20億ドルのドル建て国債の支払いを行わなくてはなりません。経済制裁が続く限り、ロシアがデフォルト危機から逃れるのは難しいようです。
もしデフォルトになったらどうなる?
ロシアが被る影響
もしデフォルトに陥った場合、国際金融市場におけるロシアの信頼性は大きく損なわれることになります。ロシアは、すでに金融市場から締め出されていますが、デフォルトとなると、例えばそれに起因する債権者との裁判などが解決するまで、長期にわたって市場に戻れなくなる可能性が高まります。金融市場での政府や企業の資金調達が細り、それがロシア経済を大きく圧迫することになるでしょう。
先述のように、98年の「ロシア危機」は、国の財政悪化によるものでした。この時には海外から支援の手が差し伸べられ、国際通貨基金(IMF)の融資も受けることができました。
しかし、世界の多くの国を敵に回してしまった今回は事情が違います。ウクライナ侵攻前、ロシア経済は良好でした。しかし、経済制裁によってデフォルト必至の状況にまで追い込まれたうえ、予後についてもいばらの道で、IMFの融資などは困難だとみられています。そういう意味では、ロシアにとって“非常に高くついた”ウクライナ侵攻だった、といわざるを得ません。
他国への影響
では、世界経済への影響はどうでしょうか?
ロシアの経済規模はそう大きくはなく、名目GDP(約1兆5,000万ドル)はアメリカの1/14、中国の1/10程度の水準です。国債市場に占めるロシア国債のウェイトもさほど高くないことから、金融システムを脅かすような事態にはならないだろう…という見方が一般的です。
とはいえ、ロシアの外貨建て国債の残高はおよそ200億ドル(約2兆4,000億円)あり、債務不履行ということになれば、それを保有する金融機関や投資家が損失を被る可能性が高まります。日本でもすでに影響は出始めており、例えばロシア国債や株式への投資比率が高い投資信託では、新たな買い付けや解約による換金ができない状況になっているそうです。
デフォルトを引き起こした場合、その後のロシア側の対応もポイントとなります。真摯に債権者と向き合う姿勢を見せなければ、異常事態はそれだけ長期化することになるでしょう。
まとめ
国のデフォルトとは、「国債の元本や利子を期日までに支払えなくなること」を言います。過去にもこうした債務不履行を招いた国がいくつかあり、もしロシアが回避できなければ2度目ということになります。早期にウクライナとの和平が成立し、経済制裁が解かれない限り、その可能性は高いといわざるを得ません。