7月10日に投開票が行われる参議院議員選挙で、「消費税の減税・廃止」が争点の1つになっています。今回は7野党が揃って「減免税」の主張を掲げ、「現状維持」とする与党と“全面対決”の様相を呈しています。「減税論」の背景には何があるのでしょうか?また、減税の可能性とその影響は?今回は消費税について、あらためて考えてみます。
参院選での各党の主張
自公は税率維持、野党は減免
今回の参院選での、消費税に関する各党の主張は、以下の通りです。
与党/野党 | 政党名 | 所費税に対する主張 |
---|---|---|
与党 | 自由民主党 | 現状維持 |
与党 | 公明党 | 現状維持 |
野党 | 立憲民主党 | 税率5%への時限的な引き下げを実施 |
野党 | 日本維新の会 | 消費税の軽減税率を、現行の8%から段階的に3%に引き下げる。その後は、消費税本体を、2年を目安に5%に引き下げる |
野党 | 国民民主党 | 時限的に税率を5%に引き下げる |
野党 | 日本共産党 | 税率を5%に緊急減税する |
野党 | れいわ新選組 | 消費税は廃止 |
野党 | 社会民主党 | 税率を3年間ゼロ%にする |
野党 | NHK党 | 消費税をはじめとした税金や社会保険料の引き下げを政府に求めていく |
消費税争点化の背景
野党各党は、税率の引き下げ・廃止を求める理由を「物価高騰から家計を守るため」「新型コロナの影響で疲弊した生活を再建するため」などと述べています。コロナ禍やウクライナ情勢もあって、食料品やエネルギーなどの値上がりが続いています。厳しい状況にある家計を援助するために、時限措置も含め、消費税の負担減を求めているのです。
諸外国は「減税」を実行
収入の減少に加え、需給バランスの乱高下などから物価高の一因ともなったコロナ禍は、国民生活に重大な影響をもたらしました。
実は世界には、その打撃の軽減を目的に消費税に当たる付加価値税の減税に踏み切った国が、少なくありません。
例えば英国は、新型コロナで打撃を受けた飲食店やホテルなどを支援するため、2020年7月15日から21年1月12日までの時限措置として、制度で標準税率(20%)が適用になっていたレストラン、パブなどにおける飲食の提供や宿泊及び娯楽サービスの提供を、軽減税率(5%)の対象としました。
また、ドイツでも、20年7月1日から同年12月31日までの時限措置として、付加価値税の標準税率を19%から16%に引き下げ、食料品などに適用されている軽減税率も7%から5%に減税しました。この措置により、1世帯当たりひと月で最大1万4,000円程度家計の負担が減ったそうです(ドイツ経済研究所調査)。
このほか、アジアでは、中国・韓国・マレーシアなど、欧州では、フランス・イタリア・スペイン・オランダ・ベルギーなどの国々が消費税(付加価値税)の減税を行っていて、報道(「日刊ゲンダイデジタル」6月20日)によれば、実施ないし予定している国の数は、昨年3月に56ヵ国、現在は89ヵ国となっているそうです。
消費税とはどんな税?
負担しているのは誰か?
選挙の争点となっている「消費税」は、そもそもどのような税金なのでしょうか?
税金を負担している“担税者”は、名前の通り「消費者」です。ただし、納税するのは、消費者から消費税を預かった「事業者」です。デパートで買い物をすると、消費者は購入品の代金と併せて消費税を支払い、それをまとめてデパートが納税します。このように、担税者と納税者が異なる税は「間接税」と呼ばれます。
税負担するのは消費者ですから、消費税率の増減によって直接影響を受けるのも消費者です。それと同時に、税率の変動は消費行動(例えば、税率が上がったので買い控える)に直結するため、国の経済全体に影響を与えることになります。
消費税の歴史
日本で消費税が導入されたのは1989年で、税率は3%でした。その後、
・1997年:税率5%に引き上げ
・2014年:税率8%に引き上げ
・2019年:標準税率10%に引き上げ。併せて軽減税率(食料品など)を設け、税率を8%に。
と、3回にわたって税率の引き上げが行われました。税率が引き下げられたことはありません。
使途は社会保障に限定
消費税の特徴は、使途が社会保障に限定されていることです。消費税法には、収入については「制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」(1条2項)という定めがあります。
ただ、2022年度の社会保障4経費(年金、医療、介護、少子化対策)の予算が32.2兆円なのに対し、消費税収入は21.6兆円(いずれも国レベル)で、全てをカバーすることはできていません。
一方、野党の一部などからは、「消費税の税収を社会保障費に充てるという規定は、消費税の導入時にはなく、2012年になって増税の理由として初めて持ち込まれた」「消費税は、法人税減税分の穴埋めに使われている」といった批判があります。なお、海外で「付加価値税の収入は、社会保障費に充当する」といった目的を設けている国は、見当たらないようです。
消費税減税の影響
それでは、もし消費税が減税・廃止された場合、どのようなことが考えられるのでしょうか?メリットとデメリットをみていきます。
消費税減税のメリットは?
過去の消費税率引き上げの際には、直後に消費支出が落ち込み、回復も鈍いものでした。消費税はあらゆるモノやサービスに課税されるため、増税の悪影響もそれだけ広範囲に及ぶわけです。
税率の引き下げは、その逆になりますから、消費意欲を刺激することになるのは確かでしょう。値上げ続きの中で、初めての消費税減税が行われれば、大きなインパクトになるかもしれません。
問題は、税収が減ることですが、消費が回復すれば、企業収益の向上→給与の増加といった好循環が生まれ、法人税や所得税の増加である程度カバーできる…というのが減税賛成論の主張です。
消費税減税のデメリットは?
社会保障に使途を限定した消費税の税率を下げたり税自体を廃止したりすれば、その財源が減り、国の政策全体に悪影響を及ぼす可能性があります。社会保障支出を減額するのは難しく、消費税の税収が減った分、他の分野への支出が削られることも考えられます。
それにも限界があれば、国債の発行(国の借金)で賄うしかありません。それでは、ますます国家財政を悪化させるだけだ、と与党側は訴えています。
付け加えれば、消費税率の10%への引き上げは、2012年に立憲民主党の源流の民主党と自民、公明の「3党合意」に基づくもので、今になって覆すのは無責任だ、という批判も与党側にはあります。
消費税減税の可能性は?
参院選公示直後の段階(6月26日執筆)では、選挙結果を見通すことはできませんが、仮に野党が勝ったとしても、衆議院では自民党が絶対安定多数を維持していることもあり、すぐに減税に結びつく可能性は低いでしょう。
ただし、自民党の中にも、消費税率の引き下げに賛成する議員が多くいます。今後の経済状況などによっては、減税に向けた議論がさらに白熱する可能性もあるでしょう。
まとめ
参議院議員選挙で、野党がこぞって消費税の税率引き下げ・廃止を主張し、争点の1つになりました。幅広くモノやサービスに課税する消費税が消費支出に与える影響は大で、コロナ禍を受けて減税に動いた国も数多くあります。他方、税率を下げて税収が減れば、財源不足の懸念が拭えません。すっかり定着した消費税ですが、今回の選挙は、もう一度そのあり方を考えてみるいい機会かもしれません。