海外に居住している場合でも、日本で税務申告や税金の納付を行わなければいけないケースは多いです。しかし、海外に居住しながら納税の管理をすることは大変です。そこで、納税管理人に依頼します。
ここでは、納税管理人とはどのようなものか、また税理士を納税管理人にしたほうが良い理由について、詳しく解説します。
納税管理人とはどんな制度?
はじめに、納税管理人とはどのような制度なのか見ていきましょう。
納税管理人とは、簡単にいうと、納税の手続きを納税者の代理で行う人のことをいいます。原則、納税管理人になるために特別な資格などはありません。日本に在住していれば、親族やそれ以外の第三者であっても、納税管理人になれます。ただし、誰を納税管理人にするのかを、税務署などに届け出ることが必要です。
では、納税管理人とは、どのような仕事をするのでしょうか。納税管理人の主な業務範囲は、以下のとおりです。
- ・税金に関する申告や申請、請求、届出などの書類の作成と提出
- ・税務署などが納税者に対して発行する書類を受領し、受領した書類を納税者に送付する業務
- ・納税者が税務署などに対して提出する書類を、納税者から受け取ったり、受け取った書類を税務署などに提出したりする業務
- ・税金の納付業務や還付金等の受領業務
このように、納税管理人とは、税務署に対する申告、税金の納付など、税金についてのさまざまな行為を納税者に代わって行うことになります。そのため、納税管理人は信頼できる人を選んだほうがよいでしょう。
納税管理人が必要なケースとは
納税管理人とは、税務署に対する申告、税金の納付など、税金についてのさまざまな行為を納税者に代わって行う人のことです。
では、納税管理人が必要なケースとは、どのような場合でしょうか。納税管理人が必要なケースは、おもに以下の4つです。
・海外に居住し、日本に所得(収入)があるケース
海外に住んでいる、またはこれから住む場合、日本で所得があると納税管理人が必要です。例えば、海外に住みながら、日本で賃貸アパートを経営している場合などが該当します。
日本で所得(収入)があれば、日本で税務申告や納税が必要です。しかし、そのためだけに日本に戻ってくることもできないため、納税管理人に税務申告や納税を依頼します。また、保有している資産に対する固定資産税の納付も必要です。
・海外に住んでいて、日本での納税義務が出てくるケース
日本に所得(収入)がなくても、海外に住んでいながら、日本での納税義務が出てくるケースがあります。
例えば、親族が亡くなって、相続が発生するケースなどです。相続が発生して、納税が必要になる場合は、相続税の申告や納税をしなければなりません。そこで、納税管理人に税務申告や納税を依頼します。贈与があるケース場合なども、このケースに該当します。
・出国税の納税義務がある
平成27年度税制改正により、日本に住んでいる人が海外に居住する場合、1億円以上の一定の資産(株など)を保有していれば、その資産の含み益に税金が課されることになりました。これを国外転出時課税制度といい、一般的には出国税と呼ばれています。
出国税の納税資金が用意できないときは、納税を猶予できますが、その場合は担保の提出と納税管理人の選定が必要となります。
・外国企業で日本に本店や事務所がない(なくなる)
外国企業で日本に本店や事務所がない、もしくはなくなる場合で、日本で資産の売却をした場合に、消費税の納付が必要になることがあります。この場合は納税管理人を選定し、税務申告や納税を行います。
【納税管理人の届出】年の途中で出国する人は注意
年の途中で出国する場合、所得税や相続税、贈与税の申告期限に注意が必要です。実は出国時までに納税管理人の届出をする場合としない場合では、申告期限が変わってきます。所得税、相続税、贈与税それぞれの申告期限について説明します。
<所得税>
所得税の申告期間の原則は、翌年2月16日~3月15日までです。「出国までの全所得(国外の所得も含む)」と「出国の翌日から12月31日までの日本国内の所得」について確定申告します。出国時までに納税管理人の届出をする場合としない場合の申告期限は、以下のとおりです。
・出国時までに納税管理人の届出をする場合
申告期限は翌年の2月16日〜3月15日までです。原則と同じ申告期限になります。
・出国時までに納税管理人の届出をしない場合
出国日と翌年の2月16日〜3月15日までが申告期限です。まず「出国までの全所得」を出国日までに確定申告(準確定申告)する必要があります。出国後、「出国までの全所得」と「出国の翌日から12月31日までの日本国内の所得」を計算し、翌年2月16日〜3月15日までに確定申告します。
<相続税>
相続税の申告期限の原則は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内です。出国時までに納税管理人の届出をする場合としない場合では、以下のように変わります。
・出国時までに納税管理人の届出をする場合
申告期限は原則と同じで、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内です。
・出国時までに納税管理人の届出をしない場合
申告期限は出国日になります。
<贈与税>
贈与税では、原則、贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日までが申告期限です。贈与税についても、申告期限が変わります。以下のとおりです。
・出国時までに納税管理人の届出をする場合
原則と同じで、贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日までが申告期限です。
・出国時までに納税管理人の届出をしない場合
贈与を受けた年の翌年3月15日までの間に出国する場合、出国日までに申告する必要があります。例えば、2021年10月に贈与を受け、2022年2月に出国したとしましょう。この場合、贈与を受けた年(2021年)の翌年(2022年)3月15日までに出国していることになりますから、出国日が申告期限です。
また、贈与受けた年の途中で出国した場合は、原則と同じ申告期限になります。
申告が遅れた場合、無申告加算税などのペナルティが課せられる可能性もあります。年の途中で出国するという人は、ぜひ注意してください。
納税管理人は税理士に依頼しよう
納税管理人は、できれば税理士に依頼することが望ましいです。ここからは、納税管理人を税理士に依頼したほうがよい理由や、そもそもの選定の手続きについて見ていきましょう。
納税管理人の選定と手続き
納税管理人は、日本に在住していることなどの要件はありますが原則、税理士や代行業者など誰でもなれます。また、納税管理人は個人・法人どちらでも選定可能です。納税管理人は、裁判所の決定を受けたり、公的機関に登録したりする必要はありません。
ただし、納税管理人の選定が必要になった場合は、税務署などへ届出を行う必要があります。
所得税・消費税など国税で納税管理人の選定が必要な場合は、税務署に届け出を提出します。必要となる届出書は、納税管理を依頼する税目別に「所得税・消費税の納税管理人の届出書」や「納税管理人届出書(相続税・贈与税)」などです。提出期限は、納税管理人を定めたとき、または出国の日までとなっています。
一方、固定資産税や住民税など地方税で納税管理人の選定が必要な場合は、地方自治体に届出書を提出する必要があります。届出書の様式は自治体によって異なりますが、おおむね納税者や納税管理人の情報(氏名や住所など)と、納税管理人を定めた(必要となった)理由の記載が必要です。
届出を提出した日以降、税務署や各自治体が発送する書類は納税管理人あてに送付されます。また、何らかの理由で納税管理人を解任・変更する場合も、届出が必要です。
納税管理人を税理士に依頼するメリット
納税管理人は原則、誰を選任しても問題ありません。しかし、税金に関係する事項であるため、信頼できる人、できれば税理士に依頼したほうがよいでしょう。納税管理人を税理士に依頼することがよい理由は、納税者に次のようなメリットがあるためです。
・納税や手続きの間違いがない
納税管理人を税理士に依頼するメリットとして大きいものが、納税や各種手続きに間違いがないことです。
納税管理人は納税をするだけでなく、税務申告書を作成したり、税務署や各自治体に提出する書類を作成したりと、税務に関するさまざまな手続きを納税者に代わって行います。税金についての専門知識が必要となる場合も多く、専門知識がないと誤りが起こる可能性があります。
税金関係で間違いがあると、納める税金の金額が変わったり、納税者に有利な制度の利用ができないなどの不利益を被ったりする可能性があります。税理士に依頼すると、専門知識に基づきさまざまな手続きをするため安心です。
・納税などに関する書類作成の時間が省ける
税務申告や各種手続きには、さまざまなものがあります。これらの書類を作成するのには多くの時間がかかり、本業などに影響を与える可能性もあります。特に、相続などがあった場合は、相続人の間の調整など多くの手間や労力がかかります。
税理士は税務の専門家で、知識も経験も豊富です。税理士を納税管理人にすれば、納税などに関する書類作成を正しく作成することができ、納税者本人がこれらの書類を作成する時間を省くことができるメリットがあります。
また、税理士は国から与えられた資格であるため、信頼できるというメリットもあります。納税管理人を誰にすればよいか迷っている場合は、費用の面なども含めて一度税理士に相談してみるのもよいでしょう。
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まとめ
海外に居住しながら、日本に所得(収入)があったり相続を行ったりすると、日本で納税や税務申告をする必要があります。しかし、海外に住みながら、日本で納税や税務申告をするのは難しく、多くの場合、納税管理人を選任します。
納税管理人は、日本在住であれば、誰を選任してもよいですが、できれば税理士に依頼することをおすすめします。なぜなら、納税や手続きの間違いがないことや、納税などに関する書類作成の時間が省けることなどのメリットがあるからです。納税管理人を誰にするのか迷っている場合は、税理士に相談してみましょう。