今、日本に居ながら、外国株などへ投資を行う人が増えています。外国株の譲渡益を得るなどして利益を挙げている人の中でも特に、配当金を受け取った人は注意が必要です。なぜなら、外国税額控除を受けられるためです。
ここでは、外国税額控除の概要や制度について詳しく解説します。
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外国税額控除とはどんなもの?
はじめに、外国税額控除がどのようなものかを見ていきましょう。外国税額控除とは、簡単にいうと、日本と外国の両方で税金がかかっている配当金などがある場合に、外国に支払った税金を日本の税金から控除するものです。
日本では原則、日本に住んでいる人が得る所得には、それが日本国にある資産から得られるものであっても、外国にある資産から得られるものであっても、税金が課されます。しかし、外国にある資産から得る所得には、その国からの税金も課されます。このままでは、同じ資産に日本と外国の2つの税金が課されてしまいます。
そこで、国際的な二重課税を調整するために、外国の支払った税金の一定額を日本の所得税の額から差し引くことになっています。これを外国税額控除といいます。
では、どのようなものに、外国の税金がかかっているのでしょうか。それは、主に外国の資産などから得た利益です。例えば、日本に住みながら、外国株式や外国ETF・外国投資信託などで配当所得を得ている人は、配当に外国の税金がかかっています。それ以外にも、日本に住みながら外国に不動産を所有していて、不動産からの賃貸収入や売買益を得た場合なども、外国の税金がかかります。
このように、外国の税金が課されている場合には、日本の所得税から一定金額の控除を受けることが可能です。外国に存在する資産を所有している場合は、まず外国税額控除の対象になるのかどうかを判断する必要があります。
外国税額控除の計算方法
外国に存在する資産を所有している場合は、外国税額控除を受けられる可能性があります。では、いくらの控除を受けられるのでしょうか。
ここからは、外国税額控除の計算方法について見ていきましょう。
外国税額控除の対象となるもの・ならないもの
外国の資産を所有したとしても、そのすべてが外国税額控除の対象になるわけではありません。外国税額控除の対象となるものと、対象とならないものは、次の通りです。
①外国税額控除の対象となるもの
外国税額控除の対象となるものは、外国またはその地方公共団体により課される次の税金とすることが、法律で定められています。
- ・超過所得税その他個人の所得の特定の部分を課税標準として課される税
- ・個人の所得またはその特定の部分を課税標準として課される税の附加税
- ・個人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、個人の特定の所得につき、徴税上の便宜のため、所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの
- ・個人の特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、個人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税
難しく書かれていますが、簡単にいうと、海外で、その国の資産から得られる収入や所得に対して課される税金があれば、それは外国税額控除の対象になります。
例えば、外国株式の配当金や外国株式投資信託の分配金などがある場合は、外国にも税金を支払っているため、外国税額控除の対象になります。
②外国税額控除の対象とならないもの
外国税額控除の対象とならないものは、いくつかありますが、基本的には、還付請求ができるなど税額が決定していないものや、外国の税金を納めるのが遅れたために発生する延滞税や加算税など罰金の意味合いがあるものです。これらは外国で支払ったものでも、外国税額控除の対象となりません。
外国税額控除の計算式
実は、外国に支払った税金の全額が、日本の所得税から控除されるわけではありません。控除額がいくらになるかは、次の計算式で求める必要があります。
所得税の控除限度額=その年の所得税額×(その年の国外の所得金額÷その年の所得総額)
※復興特別所得税についても、同じように計算します。
外国税額控除の金額は、外国に支払った税金の金額を基に計算するのではなく、所得金額を基に計算します。
例)その年の所得税額が50万円、その年の所得総額500万円、その年の国外の所得金額が100万円の場合
このケースの外国税額控除の金額は、次のようになります。
所得税の控除限度額=その年の所得税額50万円×(その年の国外の所得金額100万円÷その年の所得総額500万円)=10万円
すべての所得金額500万円のうち、国外の所得金額が100万円あるため、すべての所得税額50万円のうち、外国税額が10万円あるとみなします。
なお、上記の計算式には次のような注意点があります。
・その年の所得税額
その年の所得税額とは、配当控除や住宅借入金等特別控除といった税額控除などを控除した後の所得税額になります。税額控除などを控除する前の所得税額で計算すると、外国税額控除額を間違って求めてしまうので、注意が必要です。
・その年の所得総額
その年の所得総額には、株式の売却による所得や山林所得なども含まれます。ただし、純損失や雑損失の繰越控除、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除などの控除適用前の金額になります。
このように、外国税額控除は所得金額を基に計算されるため、実際に外国に納めた税額と控除額が異なることも多いです。
そこで、一定の条件を満たす場合は、外国に納めた税額と控除額の差額を翌年以降に繰り越すことも可能です。
外国税額控除でいくら戻る?
では、外国税額控除を適用すると、いくらの税金が戻ってくるのでしょうか。実際には、上述したとおり所得金額を基に計算しますが、わかりやすいように、差し引かれた税金を基に見ていきましょう。
例えば、米国株の配当があった場合で見てみましょう。米国株の配当金を受け取る場合は、米国と日本のどちらの税金も差し引かれます。配当金に対する税率は、米国が10%(日米租税条約による)、日本が20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、地方税5%)です。配当金から、まずは米国の税率10%が差し引かれ、差し引かれた金額からさらに、日本の税率20.315%が差し引かれます。
1.まず、米国の税金が差し引かれます。
米国の税金:配当金20万円×米国の税率10%=2万円
差引額:配当金20万円-米国の税金2万円=18万円
2.次に、米国の税金が差し引かれた後の配当金から日本の税金が差し引かれます。
日本の税金:配当金18万円×日本の税率20.315%=36,567円
3.米国と日本の税金が差し引かれた後の配当金を受け取ります。
手取額:配当金18万円-日本の税金36,567円=143,433円
この例では、20万円の米国株配当金に対して、10万円+36,567円=136,567円の税金が差し引かれているので、二重課税になっています。外国税額控除を適用すれば、米国の税金である10万円の全部または一部が戻ってきます。
今回は、米国株の配当金20万円で計算しましたが、外国の資産から得る所得が大きければ大きいほど、二重課税となっている金額も大きくなります。外国税額控除を適用しなければ、二重課税となっている外国の税金は戻ってきません。
外国の資産を購入して収益が出たら、日本で確定申告し、外国税額控除を適用しないと損をすることになるので注意しましょう。
外国税額控除を受けるための手続き
外国に税金を納めただけでは、外国税額控除を受けられません。外国税額控除を受けるためには、確定申告が必要です。外国税額控除の金額を記載した確定申告書に、次の必要書類を添付して税務署に提出します。
【外国税額控除を受けるための必要書類】
- ・外国税額控除に関する明細書
- ・外国の税金を課されたことを証明する書類
- ・国外所得総額の計算に関する明細書
- ・みなし外国税額の計算明細書とこれを証明する書類
- ・各年の控除限度額や納付した外国の税金金額を記載した書類
このうち「外国税額控除に関する明細書」は、必ず必要となる書類です。「外国の税金を課されたことを証明する書類」や「国外所得総額の計算に関する明細書」は、年間取引報告書で代替えできる場合があります。
外国税額控除の手順は次の通りです。
①必要書類の用意
「外国税額控除に関する明細書」は、税務署の窓口や国税庁のホームページからダウンロードで入手できます。
②「外国税額控除に関する明細書」の作成
まず「外国の税金を課されたことを証明する書類」や「国外所得総額の計算に関する明細書」などを見ながら、「外国税額控除に関する明細書」を作成します。
「外国税額控除に関する明細書」は、明細書の指示の通り作成していけば、外国税額控除額を計算できるようになっている書類です。
③外国税額控除額を確定申告書に記載
外国税額控除に関する明細書で求めた控除額を、確定申告書の外国税額控除欄に記載します。
外国税額控除のデメリット
外国税額控除には二重課税された税金が戻ってくるなど、納税者にとってメリットは大きいです。しかし、外国税額控除にはメリットだけでなく、デメリットもあります。外国税額控除を適用するかどうかはあくまで納税者の任意であるため、外国税額控除の適用を考える際には、メリットだけでなくデメリットも考慮する必要があります。
ここでは、外国税額控除の主なデメリットを見ていきます。
NISAの場合は使えない
外国株式を資産運用している場合に注意したいのが、NISAの口座で運用している外国株式では、外国税額控除は使えないということです。
NISAとは、NISA口座で購入した株式などの金融商品に配当金や売却益があった場合に、税金が非課税になるというものです。NISA口座で購入できる株式は、日本の株式だけでなく外国の株式も含まれます。
ここだけ読むと、外国株式の配当金には税金がかからないと思いがちですが、実は違います。NISA口座で非課税となるのは、日本の税金だけです。そのため、外国の税金はかかります。
上述した米国株の配当金では、日本の税率20.315%は非課税となりますが、米国の税率10%は課税されます。外国の税金が差し引かれているので、外国税額控除は使えるのではないかと思いがちですが、実は使えません。なぜなら、日本と外国の二重課税になっていないからです。外国税額控除は二重課税の場合のみ適用できるため、外国の税金のみ課税されていても使えないことになります。
国民健康保険料が高くなることも
個人事業主にとって、税金の金額とともに重要となるのが、国民健康保険料の金額です。
実は、2022(令和4)年度の税制改正により、2023(令和5)年分から住民税における上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の取り扱いが改正されました。
そもそも株式の配当金や売却益については、申告不要制度、総合課税、申告分離課税の課税方式があります。これまでは株式の配当金や売却益について、所得税と住民税で異なる課税方式を選択できました。例えば、所得税で総合課税や申告分離課税を選択し確定申告を行っても、住民税では申告不要制度を選択可能でした。
しかし2023(令和5)年、住民税の課税年度では2024(令和6)年からは、住民税の取り扱いが変更となり、所得税と住民税は一緒の課税方式しかとれなくなりました。つまり、外国税額控除を適用するために所得税で確定申告すると、住民税のほうでも申告することになります。
ここで問題なのが、国民健康保険料です。国民健康保険料の金額は、世帯の所得金額を基に計算されます。国民健康保険料の計算のもとになる所得金額とは、所得税ではなく住民税の計算に使う所得金額です。
これまで所得税で確定申告し、住民税では申告不要制度を選択することで、国民健康保険料の金額に影響が出ないようにできましたが、これからはそれができません。
配当金の金額によっては、国民健康保険料の計算のもとになる所得金額が大きく上がり、国民健康保険料の金額も高くなる可能性も出てきます。
外国税額控除の適用を考える際には、国民健康保険料の金額がどうなるのかもシミュレーションしておきましょう。
まとめ
外国税額控除とは、簡単にいうと、日本と外国の両方で税金がかかっている投資などがある場合に、外国に支払った税金を日本の税金から控除しようというものです。外国に支払った税金が戻ってくるために、納税者にとって有利な制度となっています。
しかし、外国税額控除を受けるためには、確定申告が必要です。外国株式や外国ETF・外国投資信託などで配当所得を得ている場合や、外国に所有している不動産からの賃貸収入や売買益に対し、不動産が所在する国に税金を支払っている場合は、忘れずに外国税額控除を受けましょう。
ただし、外国税額控除にはデメリットもあります。外国税額控除を受ける際には、必ずデメリットについても把握するようにしてください。
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