個人事業主には、日々の取引を記録する帳簿や請求書などの書類を記帳・作成し、保存する義務があります。帳簿や書類の種類、また白色申告者と青色申告者で保存期間が異なります。
ここでは、帳簿や書類の保存期間について解説するとともに、保存方法、特に近年推進されている電子帳簿保存についてもご紹介します。
そもそも帳簿と書類とは
帳簿や書類は、事業を営むなかで発生する取引やお金のやり取りを記録したものです。帳簿は取引によるお金のやり取りを記録したもの、書類は決算の内容や取引の証拠を示すものです。それぞれ、具体的には以下のようなものがあります。
【帳簿の一例】
〈主要簿〉
- 仕訳帳…日々発生するすべての取引を、時系列に従って記入したもの
- 総勘定元帳…仕訳帳の取引を、勘定科目ごとに分けて転記したもの
〈補助簿〉
【書類の一例】
〈決算関係書類〉
- 棚卸表…棚卸を行った際、在庫の数量や金額などを記録するもの
- 貸借対照表…決算日の時点での資産と負債をまとめたもの
- 損益計算書…一つの決算期における利益・収益・費用を表したもの
- 注文書…商品やサービスを注文する際に作成する書類
- 契約書…契約の証拠として作成する書類
- 領収書…商品やサービスの対価を受け取ったときに作成、発行する書類
白色申告と青色申告で帳簿の保存期間が違う
事業を営む個人事業主は、法律によって帳簿や書類の保存が義務付けられています。白色申告を行っているのか、青色申告を行っているのかによって保存期間は異なります。
白色申告における帳簿の保存期間
白色申告をしていて、不動産所得・事業所得・山林所得のいずれかがある人は、帳簿などを記帳し、保存しなければなりません。帳簿に記帳する内容、保存する帳簿とその期間および保存場所は以下のとおりです。
【記帳内容】
- 売上などの収入
- 仕入
- 経費
上記について、それぞれ取引が行われた日付や相手先、金額を記載します。白色申告の場合は、青色申告とは異なり、一つひとつの取引を記載するのではなく、1日ごとに売上や仕入れ、経費の合計金額をまとめて記載してもかまいません。
【保存すべき帳簿・書類と保存期間、場所】
収入や経費などを記載した帳簿に加え、決算関係や取引に関する書類も保存する必要があります。帳簿・書類は納税者の住所地や、事業所の所在地などに保存します。帳簿・書類の保存期間は以下のとおりです。
保存する帳簿・書類 | 保存期間 |
---|---|
収入金額や必要経費(仕入金額や経費)を記載した帳簿 | 7年 |
上記以外の帳簿(売掛帳など) | 5年 |
決算関連の書類 | |
作成、または受領した領収書や請求書などの書類 |
青色申告における帳簿の保存期間
青色申告における帳簿書類の保存期間は下記のとおりです。
保存する帳簿・書類 | 保存期間 |
---|---|
仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳などの帳簿 | 7年 |
損益計算書、貸借対照表、棚卸表などの決算関係書類 | 7年 |
領収証、預金通帳、借用証などの現金預金取引等関係書類 | 7年(※) |
請求書、見積書、契約書など、取引に関して作成、または受領した上記以外の書類 | 5年 |
※前々年分所得が300万円以下の場合は5年
青色申告をしている場合、原則として複式簿記による記帳を行う必要があります。青色申告を行っていると受けられる青色申告特別控除には65万円、55万円、10万円の3種類がありますが、65万円・55万円の控除を受けるには複式簿記で記帳することが要件の一つです。簡易帳簿を用いている場合、控除額は10万円になります。
帳簿の保存方法まとめ
帳簿の保存方法には、紙で保存する方法と電子帳簿として保存する方法があります。それぞれの保存方法について、見てみましょう。
帳簿や書類を紙で保存する方法
帳簿や書類を紙で保存する場合、5年、あるいは7年分のものを保管する必要があるため、棚や書庫といったスペースが必要になります。
書類のうち、領収書やレシートは月ごとや勘定科目ごとに封筒に入れたり、スクラップブックに貼ったりして保存します。また、請求書や納品書は取引先ごとにまとめてファイルしておきます。
ただし、2024年1月以降、メールなどで受領・交付した請求書や領収書などの取引書類については、プリントアウトせずに保存要件に従って電子データで保存する必要があります(2023年12月31日まではプリントアウトして保存し、税務調査などの際に提示できるようにしていれば可)。
電子帳簿保存をする方法
電子帳簿保存は、帳簿や書類を電子データとして保存する方法です。電子データは紙よりも保管スペースが圧倒的に少なくて済み、帳簿や書類を整理する手間が省けます。また、パソコンで検索し、必要な書類をすぐに見つけられます。
帳簿や書類を電子データで保存するには、保存が義務付けられている帳簿や書類について要件を満たす必要があります。
【電子帳簿保存の対象となる帳簿・書類】
- 自分でコンピュータを使い、作成した仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿
- 自分でコンピュータを使い、作成した損益計算書や貸借対照表などの決算関係書類
- 自分でコンピュータを使って作成し、取引相手に交付した納品書や見積書、請求書などの書類控え
【電子保存を行うための要件】
- 正規の簿記の原則(複式簿記)に従って記録すること
- システムの概要書や仕様書、事務処理マニュアルなどを備え付けること
- 電子データの保存場所にパソコンやプリンタ、プログラムとそれらの操作マニュアルを備え付け、帳簿や書類のデータをすぐに出力できるようにしておくこと
- 税務署員の求めに応じてダウンロードできるようにしておくこと(後述する「優良な電子帳簿」の要件を満たしていれば不要)
さらに「優良な電子帳簿」の要件を満たした帳簿を備え付け・保存し、所轄税務署に届出書を提出すると、過少申告加算税の軽減措置や65万円の青色申告特別控除が受けられます。「優良な電子帳簿」の要件は、上記の要件に加えて下記のとおりです。
【優良な電子帳簿の要件】
- データを訂正・削除したり、通常の業務処理期間を過ぎてからデータ入力を行ったりした場合、それらの事実が確認できるシステムを使っていること
- 電子データの帳簿と、その帳簿に関連するほかの帳簿に記録されている事項が、相互に関連性があると確認できること
- 取引年月日、取引金額、取引先による検索ができること
- 日付または金額の範囲指定による検索ができること(税務署員の求めに応じてダウンロードできるようにしていれば不要)
- 2つ以上の任意の項目を組み合わせた条件で検索できること(税務署員の求めに応じてダウンロードできるようにしていれば不要)
まとめ
事業を行っている個人事業主は、法律で定められた帳簿や書類を記帳し、保存することが義務付けられています。確定申告の際に帳簿や書類の提出は必要ありませんが、保存期間が決められており、その期間は白色申告と青色申告で異なります。
帳簿や書類の保存方法として、紙での保存と電子データによる保存(電子帳簿保存)の2つの方法があります。保存スペースの省力化や検索性の観点から、国は電子帳簿保存を推進しています。以前、電子帳簿を行うには事前に税務署長の承認が必要になるなど、ハードルが高かったのですが、2022年1月の改正で事前承認が廃止になるなど、利用しやすくなっています。青色申告を行っている人にとって、電子帳簿保存は65万円控除を受けるための要件の一つにもなっているので、積極的に活用しましょう。