親などが亡くなったときには、故人が使っていた日用品や家具、趣味で集めた物などの遺品を整理して、家族で形見分けしたり、処分したりすることになります。ただでさえ大変な作業ですが、これらの中には相続財産にカウントされるものが含まれる場合もありますから、慎重さも求められます。遺品整理は、誰がどのように行うべきなのでしょうか? 注意すべき点は?ポイントを解説します。
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遺品整理はいつまでに、誰がやる?
先延ばしにすると問題も
誰かが亡くなったら、まずは葬儀や納骨、役所関係の手続きなどに忙殺されます。気持ちの整理なども含め、すぐに1、2カ月が経ってしまうかもしれません。ただ、特に故人の残した物が多い場合には、ある程度早めに遺品整理を済ませなくてはなりません。
故人が遺言書を残していない場合には、相続人が集まって遺産(相続財産)の分け方についての話し合い(遺産分割協議)を行い、遺産分割協議書という文書を作成します。この遺産分割協議書がないと、故人の銀行口座の名義変更などがスムーズに行えないなど、後々問題が起こることがあります。遺品に相続財産が含まれる可能性を考えると、遅くともこの遺産分割協議までには、作業を終えておく必要があるのです。
また、故人に多額の借金などがあった場合には、相続放棄をすることで、その返済義務から逃れることができますが、申し立てができるのは亡くなってから3カ月以内となっています。故人の生前の状況にもよりますが、遺品整理の段階で借用書が見つかるような可能性はゼロではないでしょう。そのため、相続放棄の判断期間も考慮して、亡くなってから2カ月以内、四十九日法要くらいをめどに遺品整理を済ませるのが理想といえます。ただし、相続を放棄する場合は、遺品を「整理」はしても、「処分」するのはNGです。この点については後述します。
遺品整理は相続人が行う
次に、「遺品整理は誰がやるか」ですが、これも相続財産のことを考えると、原則として子どもなどの相続人が行わなくてはなりません。かつてはそれが当たり前でしたが、核家族化が進み、子どもが実家から遠く離れて暮らしていることが多くなったため、色々な意味でエネルギーの必要な作業になりました。ただし、煩わしいからという理由で近くに住む親族などに任せたりするのは、遺品処理などをめぐるトラブルの原因になりかねないため、避けるべきでしょう。
相続人が一堂に会して作業するのが理想ですが、実家を相続する人が決まっている場合などには、その人が責任をもって進めるのもいいでしょう。その場合にも、一度全員で家にある遺品を確認し、やはり無用なトラブルを避けるようにすることが重要です。
相続人が、物理的・精神的に遺品整理が困難なケースでは、専門業者(整理、遺品買取)に依頼するのも1つの方法です。ただし、「残したいものまで処分された」「遺品を買いたたかれた」といった事態を避けるために、“優良業者”を選ぶ必要があります。優良業者を探す際は、その業者のホームページだけでなく、ネット上の口コミなどを参考にするのも良いでしょう。
遺品整理の手順は?
「遺品」にもいろいろある
では、遺品整理は、何から手をつけて、どのように進めればいいのでしょうか?
遺品にも、今も述べたように、相続財産になるもの・ならないものなど、いろいろあります。基本的な流れは、以下の(1)と(2)を確実に探し出して手元に置いたうえで、(3)と(4)に分類していく、ということになるでしょう。重要なことから着手し、整理・分類していくという点では、他の事務作業と同じと考えてください。
(1)まず確認すべき「遺言書」の有無
最初に明確にする必要があるのは、「遺言書が残されていないか」ということです。故人が生前から「遺言書を書いた」と話していて、どこにあるのか(例えば、公正証書遺言書を作成して、公証人に預けている等)を明らかにしている場合は問題ないのですが、たまに“手書きの遺言書が実家の引き出しの奥”にしまわれているようなことがあります。
遺言書があれば、原則としてその通りに遺産分割を行わなくてはなりません。相続人による話し合いが終わっていたとしても、遺言書が見つかったら、遺産分割はいったん振り出しに戻ります。
また、故人が「エンディングノート」を残すケースも増えました。これも、書いていないかどうかを最初に確かめるようにします。遺言書のように法的な拘束力はありませんが、相続に関する故人の遺志が綴られたものですので、大切に扱うべきでしょう。
(2)保険証、預金通帳などを確認
次に確認すべきなのは、次のような書類・証明書などです。これらは、役所などへの届け出や相続の手続きなどに必要になります。
- 健康保険証
- 運転免許証
- パスポート
- マイナンバーカード
- 年金手帳
- 公共料金の請求書や領収書
- 預金通帳、キャッシュカード
- クレジットカード
- 有価証券
- 不動産などの権利関係書類
- 借用書(貸金、借金)
(3)経済的な価値のある財産
家に残された遺品の中には、「値のつくもの」があります。例えば、家具、家電、自動車、衣類のほか、貴金属、絵画や骨董品などの美術品、楽器、書籍類など、故人のライフスタイルによってさまざまなものがあるでしょう。
これらの中には、価値があると思われたのに、実際には「ゼロ査定」だったり、その逆だったりするものがあるかもしれません。一見しただけでは、価値の分からないものが含まれている場合もあるでしょう。いずれにしても、価値が認められれば、相続財産とされることがあります。勝手に形見分けとしてもらったり、売却したりすると、相続税の申告で問題になることもあります。扱いには十分注意が必要です。
(4)価値のない物品
最後に残るのが、そうした換価価値のない物です。もちろん、経済的な価値がなくても故人の思い出として残す品々もあると思いますが、それ以外は早めに廃棄して、気持ちの整理もつけたいものです。故人が愛用していたものを写真や映像で記録しておく、という方法もあります。
相続放棄したいときの遺品整理は要注意
以上は、通常の相続における遺品整理のポイントですが、もし相続放棄をしようと考えるのならば、原則として遺品に手をつけてはいけません。
相続放棄とは?
相続では、現金や不動産といった財産だけでなく、借金などの「負の遺産」があった場合にはそれも受け継ぐことになります。もし「負の遺産」の方が多い場合には、相続で損害を被ることになってしまうのですが、それを回避する手立てとして、相続を放棄することができます。
相続放棄したいときには、相続開始(死亡)から3カ月以内に、家庭裁判所に申し立てを行います。なお、認められた場合には、「正の財産」も含めて全ての財産を相続することができなくなります。また、相続放棄しても、相続財産の管理責任は残ることにも注意が必要です。例えば、相続放棄したからと空き家を管理せずに放置していると、問題が発生したときに損害賠償を求められるリスクがあります。
遺品整理で「不可」になることがある
相続放棄により、故人のつくった負債の肩代わりは避けられますが、これは、相続財産の一部でも処分すると、認められなくなってしまいます。「処分」とは、勝手に売却したり廃棄したりすることをいいます。その場合には、法律的に「相続の意思あり」とみなされてしまうのです。
相続財産とはいえないゴミなどを処理したり、価値のない物を形見としてもらったりするのは問題ないとされているものの、「何が相続財産か」の判断には微妙なところもあります。相続放棄を考えるのであれば、遺品には一切触らないのが無難と言えるでしょう。
では、誰に頼むのか?
故人の負債が多額だと、全ての相続人が相続放棄を選ぶ可能性が高くなるでしょう。そうした場合に、相続人に代わって遺産の整理を行うのが「相続財産管理人」です。相続財産管理人は、故人の債権者などの利害関係者や検察官が、家庭裁判所に申し立てを行うことで選任されます。相続放棄した人が選任を申し立てることもできます。
ただ、収入印紙800円分や官報公告料約4,000円といったコストが発生するほか、財産管理に要する経費や相続財産管理人の報酬が相続財産から支払えないと見込まれる場合は、申立人が予納金(20万~100万円程度)を納める必要があります。経費や報酬に充当された分の予納金は返還されません。
まとめ
スムーズな相続のためにも、遺品整理は、相続人の手でなるべく早く済ませるようにしましょう。トラブルを生まないよう、相続人全員の合意のもとに進める必要があります。ただし、相続放棄を考える場合には、遺品には手をけないよう注意が必要です。