デジタル庁が現行の紙の保険証を廃止し、2024年12月にマイナンバーカード保険証(マイナ保険証)に完全移行することを表明してから5カ月余り、全国の医療機関では急ピッチでマイナ保険証への対応が進んでいます。マイナンバーカード普及率も8割近くまで広がってきました。マイナ保険証の最新情報をお送りします。
デジタル化の加速を狙う
すでに本格運用されている「マイナ保険証」とは?
マイナンバーカードに健康保険証としての機能を持たせた「マイナ保険証」は、2021年10月20日からすでに本格運用が始まっています。病院などの医療機関や薬局の窓口でこれをカードリーダーにかざすことで、保険証として利用します。2024年1月22日時点で、マイナ保険証の登録件数は約7,200万件程度です。マイナンバーカードの保有者のうち約74%がマイナンバーカードを健康保険証として利用できるように登録しています。
マイナンバーカードでは、カードに内蔵されたICチップ内の「電子証明書」を使って本人確認が可能です。マイナンバーそのものを使うことはないため、利用することでナンバーが流出するなどの恐れはありません。また、マイナンバーカードをカードリーダーにかざした後に、顔写真や暗証番号などで本人確認を実施するため、保険証としての不正利用を防ぐ仕組みになっています。
マイナンバーカードそのものの利便性も高まっている
マイナンバーカード自体の申請も、2024年1月22日時点で1億件近く、人口の79%以上の人が申請を済ませている計算となっています。
マイナンバーカードは、運転免許証やパスポートなどの写真付き公的本人証明書を持たない人にとって、これ1枚で本人証明ができるというメリットがあります。
また、役所に行かなくてもコンビニで住民票や印鑑登録証明書を取得できます。
さらに、確定申告も、マイナンバーカード読取対応のスマートフォンがあればパソコン・スマホで電子申告ができるので、税務署に行く手間も、待ち時間も省けます。
将来的には、インターネットバンキングや証券口座開設などの民間のオンライン取引にも利用できるようになる予定です。
このように、マイナンバーカードの利便性は着実に高まっているといえるでしょう。
マイナンバーカードを保険証にするメリットは?
述べたように、「マイナ保険証」には、病院などの医療機関や薬局の窓口で、カードをカードリーダーにかざすだけで保険証として使える、という便利さがあります。しかも、メリットはそれだけではありません。
・転居や転職しても継続して使える
「紙の保険証」では、引っ越しや就職、転職をしたら、その都度、保険証を切り替える必要がありました。「マイナ保険証」にすれば、その必要はなく、継続して健康保険証として使用することができます。
・医療保険の資格確認が円滑に行える
マイナンバーカードを保険証として使っていれば、窓口のカードリーダーにマイナンバーをかざせば、スピーディに医療保険の資格確認をすることができます。そのため、窓口での待ち時間を減らせるなどのメリットがあります。
・手続きなしで高額療養費制度における限度額以上の支払が免除
高額の療養費がかかった場合、一定限度額以上支払った分は後で健康保険組合などから返金がされます。ただし、今までは原則、いったん療養費の全額を支払った後で、手続きをして返金を受ける必要がありました。しかし、マイナンバーカードを保険証として使っていれば、窓口での支払が限度額までに抑えられるため、保険証利用者の負担は大きく減少します。
・医療費控除の手続きが簡単に
マイナポータルを通じて医療費控除の手続きを行うことで、医療費控除などの金額が、自動で入力されるようになります。そのため、自分で医療費の金額などを計算する必要がなく、医療費控除の手続きがスムーズになります。
・医療機関の間で診療内容が共有される
例えば、医療機関でどんな薬を処方されたのかについては、「おくすり手帳」などで患者が自ら管理し、他の医療機関にかかる場合などには、自分で説明する必要がありました。しかし、「マイナ保険証」には自動でそうしたデータが記録されるため、医療機関の側で情報を共有することが可能になります。
・健康管理や医療の質が向上
今後の予定として、マイナンバーカードを保険証として使っている場合は、マイナポータル(政府が運営するオンラインサービス)から、自分の特定健診情報や薬剤情報が確認できるようになります。そのため、自分自身で健康管理を行ったり、医療機関や薬局などで受ける医療の質を向上させたりできるようになります。
・医療保険の事務コストの削減
これは、医療機関側のメリットになりますが、「マイナ保険証」が普及すれば、医療保険の事務コストの削減につながります。医療機関では、保険負担の医療費について国などに請求を行いますが、それらに関する事務量が減り、請求の誤りや未収金が多いなどの問題の解消に役立つものと期待されています。
「マイナ保険証」の課題
マイナ保険証は、運用当初は「使える医療機関が限られている」「紙の保険証よりも自己負担額が大きくなる」といった課題がありましたが、これらについては先述したように解消されつつあります。とはいえ、まだ気がかりな課題が残っていることも確かです。
セキュリティは万全か?
デジタル化で心配になるのは、個人データが流出したり、システムトラブルなどによる不利益(例えば、保険資格の確認ができなくなる)が生じたりしないか、ということです。マイナンバーカードにさまざまな情報が集約されることで、紛失や盗難時のリスクも高まります。国は、そうしたことに対応するセキュリティ対策について、繰り返し説明していく必要があるでしょう。
データの連携ミスなどトラブルが多発
マイナンバーカードの多目的な利用が進められていますが、情報の連携ミスが多発しています。例えば、健康保険証に連携されている情報が異なり、本人確認に問題が発生したり他者の情報が表示されたりしている状況です。健康保険証に紐づく情報は、重要な個人情報が含まれるため、このような状況は望ましくありません。
普及を急いだ弊害がなお残っている
マイナンバーカードの保険証利用は急速に推し進められました。その結果、医療機関・被保険者ともに「使い方が分からない」「情報の登録内容を間違える」など準備期間不足による人的な誤りがいまだに発生しています。
なお、マイナンバーカードを読み取る端末の、半導体の不足により供給が追いついていない状況については、日本での半導体開発・生産会社が設立されたことなどから、徐々に解消に向かうと期待されています。しかしながら、ハード、マンパワーの両面について十分ではない中で普及を急いだ弊害は、いまだ残っているといえるでしょう。
マイナンバーカードを保険証にするための手続き
最後に、すでにマイナンバーカードを持っていて、健康保険証の利用登録を行っていない場合の手続きを説明しておきましょう。
なお、マイナンバーカードを保険証と紐づけることで「マイナポイント」が付与されるサービスは2023年9月末で終了しています。
事前準備
事前準備として、次のものが必要です。
①マイナンバーカード
②数字4桁の暗証番号
数字4桁の暗証番号とは、マイナンバーカードを受け取る際に市区町村の窓口で設定した利用者証明用電子証明書のパスワードのことです。
③スマホ(マイナンバーカード読取対応のスマホで申し込みの場合)
④ICカードリーダー(パソコンで申し込みの場合)
・マイナポータルのアプリをインストール
マイナポータルのアプリをインストールします。スマートフォン版のアプリは「GooglePlay」または「AppStore」からインストールします。パソコン版のアプリは、マイナポータルのサイトからインストールできます。
・保険証利用の申し込み
マイナポータルの画面を立ち上げ、保険証利用の申し込みを行います。手順は次の通りです。
①マイナポータルの画面(保険証利用)で「利用を申し込む」もしくは「健康保険証利用申込」をタップすると「保険証利用登録」も画面が開きます。
②利用規約の確認が行われるため「同意して次へ進む」をクリックします。
③マイナンバーカード読取の画面に切り替わるので「申し込む」をクリックします。パソコンで申し込みをする場合は「申し込む」をクリックする前に、ICカードリーダーを接続し、マイナンバーカードをセットしておく必要があります。
スマホで申し込みをする場合は「申し込む」をクリックした後で、マイナンバーカードを端末にかざす必要があります。
④パスワード入力
「申し込む」をクリックすると、パスワードの入力画面に切り替わります。数字4桁の暗証番号の入力が求められるので暗証番号を入力し、「OK」もしくは「申し込み」をクリックすると申し込みの完了です。
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紙の保険証廃止へ マイナ保険証で医療費は安くなる?【3分かんたん確定申告・税金チャンネル】
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まとめ
2024年12月に、現行の紙の健康保険証は廃止されます。とはいえ、廃止後もしばらく(1年程度)は現行保険証の利用が可能ですし、マイナンバーカードを持っていない人には保険証の代わりに「資格確認書」が交付される予定です。どうやら「マイナ保険証への一本化」はまだ先になりそうです。
政府には、マイナンバーカード、マイナ保険証におけるトラブルをなくし、国民が安心して移行できるようになるシステムの確立が求められています。
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